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高次脳機能障害についての知見 H19.10.31 大阪地裁判決から(1/2)

平成19年10月31日 大阪地裁 判決 <平18(ワ)9452号>
損害賠償請求事件 一部認容
要旨
 加害者運転の普通貨物自動車がセンターラインを越えて反対車線に侵入し、反対車線を進行中の被害者運転の普通貨物自動車と衝突して被害者が頭部挫創等の傷害を負った交通事故につき、被害者が、高次脳機能障害を負ったか否かが争われた事案において、被害者に高次脳機能障害が残存していたかの判断は、医学検査の結果、事故態様、事故前後の状況の比較等を総合考慮して判断すべきところ、これらを考慮しても、被害者に高次脳機能障害が残存しているとは認められないとしたが、被害者が本件事故後に廃業し、その後一時期を除き稼働していないこと、事故後、被害者に高次脳機能障害様の障害が生じていること、本件事故の衝撃が相当のものであったと考えられることなどから、後遺障害等級12級相当の非器質性の精神障害が残存したと認定した事例
  大工であった交通事故の被害者(男・症状固定時53歳)の休業損害が争われた事案において、基礎収入の算定に当たり、被害者は、事故5年前の平均売上から事故2年後までの平均経費率60パーセントを控除した額を基礎収入とすべきと主張するが、経費の内訳が明らかでなく、経費中に私的な支出がどの程度含まれているか判別できないこと、事故前の過去5年間の売上の現象が特に顕著であること等からすると、被害者主張の方法では算定は困難であるとして、事故5年前から事故2年後までの売上及び経費の額、税理士が算定した基礎収入等を総合的に考慮し、事故の年の賃金センサス男性労働者大卒の全年齢平均年収の60パーセントを基礎に、509日を通じて50パーセント労働能力を喪失していたとして、282万1686円を休業損害とした事例
(出典 交民 40巻5号1436頁、自動車保険ジャーナル 1741号8頁、ウエストロー・ジャパン)
から

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第三 争点に対する判断
 一 前提事実

  (1) 高次脳機能障害について

   ア 脳損傷のメカニズム(甲四八)
 外傷による脳損傷の発生機序は、大きく分けて、接触損傷と加速損傷とに分類することができる。

 (ア) 接触損傷
 接触損傷とは、物が頭部に当たった場合、頭蓋骨がたわんで脳にぶつかり、その部分の脳が破壊されて脳挫傷になることをいう(局所性脳損傷)。ただし、純粋な接触損傷は、頭部が固定されて動かない状態で衝撃を受けた場合にのみ起こり、実際の脳外傷では加速損傷を伴うことの方が多い。

 (イ) 加速損傷
 加速損傷としては、直撃損傷、対側損傷又はせん断歪みによる損傷が挙げられる。
  a 直撃損傷
 頭部に衝撃を受けた瞬間、頭部は移動するが、その際頭蓋骨は脳よりも速く移動するために、頭蓋骨と脳が互いに衝突することにより生じる脳損傷をいう。
  b 対側損傷
 直撃損傷の生じた脳と反対側の脳は、頭蓋骨の動きに対して元の位置を保とうとするため、頭蓋骨と脳の間が陰圧となることにより生じる脳損傷をいう。
  c せん断歪みによる損傷
 頭部が頚部を支点として前屈、後屈と強い回転加速度を受けるような場合、脳は均一な構造物でないため、脳のうち回転の支点に近い部分と遠い部分とでは遠い脳の方が速く移動しなければならないため、脳はその形を保ったまま移動することができず、変形する。このときに脳内部にずれ、歪みが起き、神経繊維が切れることにより生じる脳損傷をいう。
 臨床的には、せん断歪みによる損傷は、びまん性軸索損傷の発生機序となる。

 (ウ) びまん性軸索損傷の特徴
 びまん性軸索損傷は、臨床的には何ら頭蓋内占拠性病変を伴わないのに、受傷直後から高度の意識障害が続くような状態と定義される。言い換えると、CTなどで調べても明らかな脳挫傷や頭蓋内血腫がないにもかかわらず、昏睡が続いている状態を指す。
 最近の研究によれば、受傷直後に断裂する神経軸索はむしろ少なく、少し遅れて軸索の断裂が起きると考えられている。また、CTやMRIで両側性の脳腫脹や脳梁、脳室周囲、上部脳幹部に散在性の出血や挫傷像を見ることも多いが、何ら異常を認めないこともある。
 びまん性軸索損傷の診断は、臨床的に困難である場合が多い。その理由としては、びまん性軸索損傷は局所の脳損傷と異なり、CTやMRIを用いても異常がはっきりしない場合が多く、症状と一致した客観的証拠が得られにくいこと、びまん性軸索損傷の重症度には程度の差があり、受傷直後から高度の意識障害があり、それが遷延するような場合は格別、中等度又は軽度のびまん性軸索損傷では意識障害も比較的速く回復するため、CTやMRI上で異常がなければ脳外傷はない、と急性期には見過ごされる可能性があることが挙げられる。

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