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高次脳機能障害についての知見 H20. 1.24 東京地裁判決から

平成20年 1月24日 東京地裁 判決 <平17(ワ)26759号> 
損害賠償請求事件 一部認容
要旨
 被告運転手を加害者とする交通事故により、被害者(男・症状固定時43歳)である原告が高次脳機能障害を負い、その後遺障害の程度は、自賠責後遺障害等級において併合4級、労災保険において第1級の3に該当すると認定されたところ、原告らが、被害者である原告は自賠責基準で併合2級相当の後遺障害を負った旨主張して、被告らに対して損害賠償を求めた事案において、原告は高次脳機能障害により、自賠責保険又は労災保険のいずれの認定基準によっても労働能力を100パーセント喪失したと認定して、原告らの請求の一部を認容した事例
(出典 交民 41巻1号58頁、自動車保険ジャーナル 1734号12頁、ウエストロー・ジャパン)
から

ーーーーー
 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)等
<中略>

  (8) 高次脳機能障害の程度に関する認定基準

   ア 自賠責保険における補足基準
 高次脳機能障害認定システム確立検討委員会の平成12年12月18日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」と題する報告書(甲22)においては,当時新たに広く認識されるようになった高次脳機能障害につき,自賠責保険制度の運用における後遺障害認定の補足基準として,
 3級3号 「自宅周辺を1人で外出できるなど,日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また,声掛けや,介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力,新しいことを学習する能力,障害の自己認識,円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって,一般就労が全くできないか,困難なもの」
 5級2号 「単純くり返し作業などに限定すれば,一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり,環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には,職場の理解と援助を欠かすことができないもの」
 との考え方が示された。 (甲22中の7頁)

   イ 労災保険における認定基準
 (ア) 労災保険における後遺障害の等級に関しては,次のとおり規定されている(労働者災害補償保険法施行規則別表第1参照)。
 第3級の3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
 第5級の1の2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
 (イ) そして,平成15年以降の労災保険制度の運用上は,「神経系統の機能又は精神」の障害のうち,高次脳機能障害の等級該当性については,@意思疎通能力,A問題解決能力,B作業負荷に対する持続力・持久力,C社会行動能力の4能力(以下「本件4能力」という。)の各々の喪失の程度に着目し,評価を行うものとされている。
 (ウ) 上記の各能力の喪失の程度の評価を行う際の要点は,次のとおりとされている。
  @意思疎通能力(記銘・記憶力,認知力,言語力等)については,「職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定する。主に記銘・記憶力,認知力又は言語力の側面から判断を行う。」とされる。
  A問題解決能力(理解力,判断力等)については,「作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い,円滑に業務を遂行できるかどうかについて判断する。主に理解力,判断力,又は集中力(注意の選択等)について判断を行う。」とされる。
  B作業負荷に対する持続力・持久力については,「一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定する。その際,意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断する。」とされる。
  C社会行動能力(協調性等)については,「職場において他人と円滑な共同作業,社会的行動ができるかどうか等について判定する。主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロール低下による場違いな行動等)の頻度についての判断を行う。」とされる。
 (エ) 本件4能力の喪失の程度は,高次脳機能障害整理表を参考として,それぞれ「多少の困難はあるが概ね自力でできる」から「できない」までの6段階で評価し,その喪失の程度に応じた認定基準に従って障害認定を行うものとされ,本件4能力のうちのいずれか1つ以上の能力が全部失われているか,又は2つ以上の能力の大部分が失われている場合には第3級の3に該当し,本件4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているか,又はいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われている場合には第5級の1の2に該当するものとされている。 (甲23)

   ウ 自賠責保険制度の運用における労災保険基準の位置づけ
 自賠責保険における後遺障害等級認定については,平成13年金融庁・国土交通省告示第1号「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」において,等級の認定は,原則として労災保険における障害の等級認定の基準に準じて行うものとされており,本件4能力に着目する労災保険の認定基準に対しては,自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会の平成19年2月2日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)において,「就労者である成人の被害者に対しては,従前の考え方を用いて後遺障害等級を認定した後,労災保険で使用している「高次脳機能障害整理表」に当てはめて検証し,最終結論とすることが労災保険に準拠する自賠責保険としての妥当な認定方法と考える。」と報告されている。 (甲31)
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