ホーム > 人身損害(交通事故など) > 遷延性意識障害(植物状態) >  

H10. 3.19 東京地裁判決(1/2) 余命・生活費

平成10年 3月19日 東京地裁 判決 <平7(ワ)865号>
損害賠償等請求事件 請求認容、控訴
事案の概要
 自動二輪車を運転中、四輪車と衝突する交通事故に遭い、脳挫傷(びまん性軸索損傷)等の傷害を負い、重度後遺障害を負った原告X1とその父X2及び母X3が、加害車両の運転者である被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案
要旨
1 交通事故による脳挫傷等により植物状態になった20歳の男子大学生につき総額2億5188万円余の損害賠償を認めた事例
2 植物状態とはいえ安定した状態にある患者の推定余命として症状固定時の簡易生命表22歳男子の該当数値55・43年を採用した事例
3 植物状態にある患者の逸失利を算出するに当たり、生活費控除をするべきではないとされた事例
(出典 交民 31巻2号342頁、判タ 969号226頁、ウエストロー・ジャパン)
(評釈 倉田卓次=松居英二・判タ臨増 1033号149頁(交通事故裁判の10年))
から

ーーーーー
 二 争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)
<中略>

  2 原告浩之の入院経過及び後遺障害等
<中略>
   (二) 原告X1は、平成6年8月1日自動車保険料率算定会宇都宮調査事務所により、自賠法施行令2条別表後遺障害別等級表(<略>)上の1級3号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」)に該当する旨の認定を受けた(甲三)。
 なお、原告浩之は、同年10月14日、宇都宮家庭裁判所において、禁治産宣告を受け、その後見人として原告X2が選任された(甲2)。

 三 本件の争点

 本件の主要な争点は、本件事故の態様(過失相殺)と損害額であり、被告は、原告浩之の推定余命年数及び生活費控除率を争っている。
<中略>

  2 原告らの損害額
   (一) 原告らの主張
<中略>

 (14) 原告X1の推定余命年数について
 自動車事故対策センターは、もともと重度後遺障害者の後遺症や平均余命の調査等を目的とする施設ではなく、その性格上、重度後遺障害者の平均余命に関する網羅的、医学的調査を行うことはできないのであるから、同センターが作成したデータをもとに、交通事故被害者の余命を推定するのは適当でない。

 仮に、同センターの統計によるとしても、すべての年齢層を平均してその余命を算出するのは健常人の場合と比較しても著しく不合理であり、事故時の年齢が若年であるほど回復の可能性が高いのであるから、少なくとも、世代別データに基づいて検討すべきところ、事故当時20歳代の若年者についてみれば、10年未満しか生存できなかった者の数よりも、植物状態を脱却した者と10年以上生存した者の合計数の方が多い。また、死亡者についての数値は、現に生存し、又は植物状態を脱却した者の存在を無視している。事故当時20歳代であった患者の死亡例は、74件しかなく(しかもそのうち13年以上生存後死亡した者が9名いる。)、そのような少数のデータを根拠に平均余命期間より短いものと推定することは問題である。のみならず、植物状態患者にも受傷内容、介護状況等のほか、体力、健康度、性別等の差異があり、さらに今後の医療技術、介護技術の向上に伴って、余命が伸長することが予想されることを無視して、平均余命を10年程度とすることは相当ではなく、平均余命期間によるべきである。

 しかるところ、原告浩之は、症状固定時23歳と若年であり、本件事故後2年以上を経過しても健康状態は良好であり、一時の危険な状態は既に脱却し、治癒能力もある上、原告志乃婦らの十分な介護を受けており、現状において、原告浩之が平均余命まで生存しないとする理由は見いだしがたい。

   (二) 被告の認否及び反論
<中略>

 (2) 原告浩之の推定余命年数(原告浩之の付添介護費、将来的消耗品費、備品代、逸失利益に関わる。)について

 原告浩之は、植物状態にあり、植物状態患者の余命年数については、自動車事故対策センターが作成した統計資料(平成5年3月31日現在)が存在し、これによれば、植物状態の被害者が事故から10年以内に死亡する割合は88.3パーセントであり、これを20歳代に限定しても70.8パーセントと高率を示し、事故から10年以内に70ないし90パーセントの割合で死亡するに至っており、平成2年3月31日現在の資料では、事故から10年以上生存した者の割合は、全体の23.1パーセントしかない。

 また、原告浩之は、自宅介護中、肺炎に罹患しており、一時は生命が危ぶまれたこともあるほか、植物状態患者は検査が難しく、窒息の危険もある上、体力の低下も避けられず、今後原告浩之が平均余命まで生存できる可能性は極めて低いのであるから、これを症状固定後10年程度とすべきである。

 (3) 生活費控除率について

 植物状態患者の場合、将来の生活に必要な費用は、治療費と付添介護費に限定されており、健常人に必要とされる労働能力の再生産に必要な生活費の支出を免れることになるのであるから、原告浩之の逸失利益を算定するに当たっては、生活費として、50パーセント控除すべきである。
ーーーーー

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 人身損害(交通事故など) > 遷延性意識障害(植物状態) > H10. 3.19 東京地裁判決(1/2) 余命・生活費