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H10. 3.19 東京地裁判決(2/2)

前掲
平成10年 3月19日 東京地裁 判決 <平7(ワ)865号>
から

ーーーーー
第三 当裁判所の判断
<中略>
 二 原告X1の症状と推定余命年数について
  1 前記争いのない事実等に、<証拠略>、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
<中略>

   (五) 主治医である前記須田医師は、原告X1の現在及び将来の状況について、以下のとおり、判断している。
 いわゆる植物状態患者の状態の良否は、@発熱の有無、A嘔吐の有無、B痰がからむか否かの3点で見るが、原告X1は、いずれも非常に安定した状態にある。
 仮に、いわゆる植物状態患者が痙攣を起こしても、静脈注射をすれば治まるので、一日に何回も頻繁に痙攣が起きなければ、脳障害を心配する必要はないところ、原告X1のこれまでの痙攣は、かなりの間隔があった。
 いわゆる植物状態患者に対する医療は進歩しており、いわゆる植物状態患者の余命を示すデータはなく、原告X1は、年齢が若い上に、比較的最近治療して治療成績が上がっており、容態が非常に安定していることから、10年を超えて生きられる可能性は、十分ある。

  2 右の事実をもとにして、原告X1の現在の症状及び推定余命について検討する。
 原告X1は、植物状態にあるが、非常に安定した状態にあり、自宅療養中、肺炎に罹患し、一時危篤状態に陥ったことはあるが、その後は、嘔吐を原因とする数日間の入院があったものの、痙攣もみられず、発熱のほか、痰がからむこともないのであるから、いわゆる植物状態患者としては、安定しており、当分の間、生命の危険を推認させる事情は認められない。
 したがって、症状固定時の原告X1の平均余命については、平成6年簡易生命表22歳男子の該当数値である、55・43年と推認するのが相当である(以下、55年として使用する。)。

 この点、被告は、乙21(自動車事故対策センター作成の調査嘱託回答書)を主たる根拠として、一般的に植物状態患者の平均余命は10年程度であるから、原告X1の余命についてもこれと同程度であると主張するが、同資料における、サンプル数は極めて少ないこと、いわゆる植物状態患者を巡る介助及び医療の水準は日進月歩であるというべきところ、同資料は、本件事故が発生した平成5年よりも古い平成4年3月31日までの状況が示されているにすぎないこと、原告浩之は、前記のとおり、原告X3らの手厚い介護を受けているほか、毎週須田医師の診療をも受けており、これまでの原告X1の状況をみる限り、今後も異常があれば、直ちに医療機関の処置等を受ける態勢が整っていること等の状況に照らすならば、乙21をもとに原告X1の余命年数を推測することは相当でないというべきであり、この点の被告の主張は採用できない。

 三 原告らの損害額について
<中略>

  9 逸失利益
一億一九八一万〇九七九円
<中略>
 なお、被告は、原告X1の将来の生活に必要な費用は治療費と付添介護費に限定されており、労働能力の再生産に要すべき生活費の支出は必要でないから、生活費を控除すべきであると主張する。しかし、生活費は、必ずしも労働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく、また、原告X1は、今後も生命維持のための生活費の支出を要することは明らかである上、自宅療養中の雑費の多くは、逸失利益中から支出されることが見込まれる(前記8で認めた部分を除く。)から、逸失利益の算定に当たり、生活費を控除するのは相当でなく、被告の右主張は、採用できない。
<以下略>
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