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H19. 9.20 東京地裁判決(2/2)

前掲
平成19年 9月20日 東京地裁 判決 <平17(ワ)24423号>
から

ーーーーー
第3 当裁判所の判断
<中略>

なお,被告は,原告X1がいわゆる植物状態であり生活費の支出は少ないとして,逸失利益の算定 に当たり生活費控除がなされるべき旨主張するが,原告X1の今後の在宅療養において,食費,光熱 費等を始めとして相応の生活費を要することは明らかであり,生活費控除を考慮しなければ損害の公 平な分担に反するとまでもいえないから,上記被告の主張は採用できない。
<中略>

イ これに対し,被告らは,原告X1のような高度な遷延性意識障害を伴う重度後遺障害者の推定余命年数は,健常人のそれよりはるかに短いことが統計学的にも相当程度認められることからすると,生存可能期間を限定すべきであり,同年齢の女性の平均余命年数と異なるとの認定ができないのであれば,定期金による賠償が命じられるべきである旨主張し,これに沿う証拠(<略>)を提出する。

確かに,これらの証拠によれば,自動車事故が原因で脳,脊髄又は胸腹部臓器を損傷し,自動車損 害賠償保障法施行令 別表第1の1級又は2級に該当する後遺障害を有し,常時又は随時の介護が必 要な状態となった被害者に対して,重度後遺障害者を抱える家族の負担を軽減する目的で,一定の介護料を年4回支給するとともに,これら被害者のデータを集積している独立行政法人自動車事故対策センター(現自動車事故対策機構)において,これら被害者の生存者数,脱却者数,死亡者数等につき,年代別,頭部外傷を受けてからの年数別等でそれぞれの人数を集計した平成2年の調査では,
対象者1794人のうち,生存者数は586名,脱却者は144名,死亡者数は925名であり,
死亡した人の事故からの経過年数は,5年未満が66%,5年以上10年未満が22%,10年以上5年 未満が8%,15年以上2年未満が3%,20年以上が0.5%であったこと,
その他の各種の調査の及んだ範囲においては,いわゆる寝たきり者の最初の1年間の死亡率は非常に高く,2年目以降は状態も安定し死亡率も低下してくるが,寝たきり者の余命は一般の日本人の平均余命より短いとの傾向が見られることが認められる。

しかしながら,上記の結果の母集団は限られたものにすぎないことからすると,同結果をもって, 上記のような者の余命が同年齢の者の平均余命よりも短いということは,少なくとも現時点では早計である。そして,遷延性意識障害の患者の余命は,各人の年齢,症状,介護環境,設備等によって左右されるところ,証拠(<略>)によれば,原告X1は現在自宅において常時原告X3らによる手厚い介護を受けており,定期的な医師の往診のほか,痰や唾液により喉を 詰まらせないようにするために吸引器を利用するなどの配慮もなされていて,現在の介護状況において,特に不十分な点は見受けられず,現に,原告X1は,本件事故以降,いわゆる寝たきり状態の患者が併発しやすいとされている栄養障害,尿路感染症といった余病を併発したことはなく,本件事故後4年以上を経て原告X1の病状は安定した状態にあることが認められるのであって,主治医であるC医師も,現在の原告X1の在宅介護の管理状況を前提とすれば,原告X1の余命が通常より短いとは断言できず,余命を全うする可能性も十分にあると供述していること(甲38,書面尋問の結果) ,自動車事故による重度後遺障害者の死因の半数以上は呼吸器疾患であり,肺炎による死亡を防ぐことで生命予後を改善できるとの知見もあること(甲57)などに照らすと,原告X1の余命について は,同年齢の女性の平均余命と異なって認定すべきものとは言い難い。

なお,被告らは,定期金による賠償を命ずべき旨を主張するが,原告らは明確に定期金による賠償 を拒否し,一時金払いの方法による賠償を求めているのであって,記録からうかがわれる本訴提起に 至るまでの当事者間の交渉経緯を踏まえると,原告らが上記のように主張することについては首肯し 得る点もあることを考慮し,本件において定期金による賠償の方法を認めることは相当でないという べきである。
したがって,前記被告らの主張を採用することはできない。
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