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H19. 3.12 横浜地裁判決    高次脳機能障害(5級)等 100%喪失

平成19年 3月12日 横浜地裁 判決 <平成17年(ワ)第509号>
(出典 自動車保険ジャーナル第1696号)


9歳(症状固定時12歳)・女子
高次脳機能障害(5級2号)、右前額部醜状障害(7級12号)、左同名半盲(9級3号)ほか(併合3級)
労働能力100%喪失

賃金センサスの全労働者平均収入ではなく女子全年齢平均収入を基礎とした。

将来介護料 日額 4,000円 余命年数分

過失相殺10%

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  (2) 後遺障害の内容、程度等について
 (証拠略)によれば、上記症状固定によって原告に残った後遺障害の内容等について、以下のとおり認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

   ア 高次脳機能障害について
 原告は、本件事故により脳挫傷等の傷害を負い、相当期間にわたり意識障害があり、脳萎縮が生じたこと等により、高次脳機能障害を後遺した。その症状は、記憶・記銘力障害、構音・構語障害、話が迂遠、理解力低下、計画性の欠如、ミスの繰り返し、新規の学習障害、並行作業ができない、易怒性、易興奮性、いらいらする、乱暴、大声を出す、自己中心的、はしゃぐ、うつ傾向、自閉的、飽きっぽい、大きな音をうるさがる、友人の減少、家族や周囲とのトラブルなどであって、認知障害及び性格変化が現れている。なお、平成14年7月8日に施行された神経心理学的検査(WISC−V)によると、言語性IQは76、動作性IQは71、全検査IQは71となっている。
 損害保険料率算出機構は、原告の上記障害につき、上記神経心理学的検査の結果に加え、原告に記銘力・集中力低下、計画的な行動遂行能力の障害、易怒性・自発性低下などの人格変化等の障害が存することを認めた上で、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として、後遺障害等級5級2号に該当するものと認定した。

   イ 醜状障害について
 原告には、本件事故による受傷とその治療のために、右前額部上部の組織陥没及び頭部中央前額部から後頭部・右耳前部までの線状痕が後遺した。
 損害保険料率算出機構は、右前額上部の組織陥没につき、人目につく10円銅貨大以上の組織陥没と捉えられることから、「女子の外ぼうに著しい醜状を残すもの」として、後遺障害等級7級12号に該当するものと認定した。

   ウ 左同名半盲について
 原告には、本件事故による受傷の結果、視野につき、左同名半盲の障害を後遺した。
 損害保険料率算出機構は、上記障害につき、「両眼に半盲症を残すもの」として、後遺障害等級9級3号に該当するものと認定した。

   エ 損害保険料率算出機構は、上記アないしウに認定した後遺障害を併合して、後遺障害等級3級が適用されるものと認定した。

   オ その他の後遺障害について
 原告には、上記のほかに、神経症状として、軽い4肢失調、両側臭覚低下、右軽度難聴、右味覚低下が生じており、視路障害も生じている。また、原告は、手指による巧緻作業が困難となっており、尿失禁がみられることもある。
 さらに、原告には、意識消失発作を伴う思考障害、脳波の異常等があり、事故後遺性てんかんを発症しているものと診断されており、今後、長期にわたる抗てんかん薬の服薬が必要である。

   カ 後遺障害逸失利益 4,769万9,051円
    (ア) 後遺障害逸失利益算定上の基礎収入としては、原告が症状固定時に12歳の女児であったことに鑑み、平成14年賃金センサス第1巻第1表の女性労働者学歴計全年齢の平均年収額である351万8,200円とするのが相当である。
 この点、原告は、全労働者の平均賃金を用いるべきであると主張するが、原告において、本件事故がなかったならば、女性労働者の平均賃金を超えて全労働者の平均賃金を得られたという蓋然性を認めるに足りる的確な証拠はなく、上記主張は採用できない。
    (イ) 労働能力喪失率に関しては、前記後遺障害の内容、程度に鑑み、これらの後遺障害が総合されることによって、原告の労働能力は100%失われているものと解するのが相当である。

 この点、被告は、醜状障害、左同名半盲は、その性質、程度から、精神・神経系統の障害に包括して評価されるべきものであって、労働能力喪失率は79%を基礎として算定すべきであると主張するが、原告に後遺した醜状障害、左同名半盲は、高次脳機能障害を内容とする精神・神経系統の障害とは、障害の性質を異にするものであって、包括して評価すべきものとは解されないから、上記主張は採用できない。

 また、被告は、職種によっては原告の就労は可能である、障害者に対する雇用機会が拡大しつつある、原告自身、将来の夢として「お店を持つ」と述べて就労意欲を示していることなどを挙げ、原告の就労可能性があることを主張する。確かに、将来において例えば手厚い支援がなされた環境を有する障害者向けの作業所などで原告が就労することは考えられないではないが、原告の前記後遺障害の内容、程度を全体的に考察するときは、上記就労の見込みも極めて不確実なものであって、今後、原告が安定的に就労による収入を得られる蓋然性は認めがたいというべきであるから、上記主張は採用できない。また、この点は、原告自身に勤労意欲があるとしても同様である。
 さらに、被告は、原告の労働能力喪失率は、労働効率の上昇により将来逓減すると解すべきであると主張する。しかし、原告の主治医である丙川医師はむしろ原告の後遺障害が今後増悪する可能性を示唆していること(証拠略)、原告を診察した丁山医師は、原告の高次脳機能障害について、改善の可能性はあるが現実にはあまり期待できないとする意見を述べていること(証拠略)に照らすと、被告主張のごとく将来において原告の労働能力喪失率が逓減するとは認めることができない。

    (ウ) 労働能力喪失期間としては、18歳から67歳までの49年間とするのが相当である。
 この点、被告は、原告の努力の積み重ねにより、原告が健常者と同様の労働が可能となることが合理的に推認されるから、67歳に至るまでの全期間を算入することは合理的でないと主張するが、上記のとおり、原告の労働能力喪失率が将来において逓減するとは認めることができないのであり、上記主張は採用できない。
 なお、逸失利益算定にあたっては、ライプニッツ方式を用いて中間利息を控除するのが相当であり、12歳から18歳までの6年間についてのライプニッツ係数は5.0756、12歳から67歳までの55年間についてのライプニッツ係数は18.6334である。
    (エ) 以上によると、後遺障害逸失利益は4,769万9,051円となる。
 計算式 351万8,200円×1×(18.6334−5.0756)=4,769万9,051円
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