ホーム > 人身損害(交通事故など) > 高次脳機能障害 >  

H19. 1.18 横浜地裁判決    100%喪失

平成19年 1月18日 横浜地裁 判決 <平成16年(ワ)第4438号>
(出典 自動車保険ジャーナル第1698号)

(確定)

40歳・男子(求職期間中)
高次脳機能障害
労働能力喪失率は100%

加害者の行為の悪質性が後遺障害慰謝料を増大させるとして、1級の後遺障害慰謝料として2,900万円を認めた。

過失相殺5%


ーーーーー
 6 後遺障害逸失利益(争点(6))
  (1) 後遺障害の内容
 前記「争いのない事実等」、証拠(略)によれば、原告の後遺障害の内容及び程度につき、以下の事実が認められる。

   ア 頭部外傷による脳挫傷、外傷性くも膜下血腫、左急性硬膜下血腫等の傷害に起因する後遺障害
    (ア) 原告の脳の損傷状況
 左頭蓋骨はほとんど欠損しており、左前頭葉から頭頂葉、側頭葉に至る広範囲にわたる脳損傷が見られ、同部位の脳血流量低下及びそれに伴う反対側小脳半球の血流低下を認める。これらは、左大脳半球が広範囲にわたる損傷を被ったことを示唆するものである。また、上記部位は明らかな低い吸収域を示しており、側脳室の形状からして既に左大脳半球の若干の萎縮もあるものと判断される。さらに、反対側右側頭頂葉にも損傷を示す低吸収域が認められる。

    (イ) 高次脳機能障害
 原告の脳の前頭葉における自発発語領域及び側頭葉・頭頂葉における言語理解・判断能力領域が共にその連絡繊維を含めて広範囲にわたる損傷を被っていることから、失語症の状態にあり、発語はあっても、単語程度、錯語(単語の部分的な言い間違い、不的確な言語)である。また、認知、判断、思考、記憶等の障害は著しいものと推察され、外界からの刺激に対して年齢相応に対応することは困難と思料される。
<中略>
自分の名前を述べたりオウム返しに比較的短い単語を発することは可能なものの、年齢を問われたとき当時44歳であったにもかかわらず20歳と答える、自身が取った行動の理由を説明できないなど、コミュニケーション能力は相当に低いものといえる。
    (ウ) 機能障害
 上記(ア)の損傷により、右顔面を含む上肢及び下肢に運動麻痺が存する。殊に右片麻痺は著しく、右上肢及び下肢の筋力テストにおいてはMMT3以下であった。F園においては、ベッド上に起き上がることは自力ででき、坐位の保持もさくを持ちながらであれば可能であるが、寝返りには介助を要する。歩行の際には長、短2種の装具を用い、車いすについては左手及び左足を使いながらゆっくり自走することは多少でき、また、ベッドとの行き来はつかまり立ちをしながらであれば可能な状態である。また、食事は、左手でスプーンを使用し、おおむね自力で摂取できる(証拠略)。
    (エ)そ の他
 左側頭葉外側に著しい損傷があることから、視野障害として右側の同名半盲を来している可能性が高い。E病院の看護記録(情報)には「右の視野狭い」との記載があり(証拠略)、F園の看護記録の平成16年11月19日の欄には「パンのため、おかずが別皿になっているためか手をつけず。視界にいれると食べようとしている。」との記載がある(証拠略)。なお、原告は、20歳ころ、円錐角膜にり患しており、そのために視力が低下していた(証拠略)。
   イ 肛門周囲・臀部挫創、直腸損傷による後遺障害
 原告は、正常な肛門からの排便機能を喪失しており、永久的人工肛門の必要性は避けられない。人工肛門の管理には特殊な技術、訓練及び医療器具を要し、上記ア(イ)で認定した原告の意識、精神神経状態にもかんがみると、上記管理は第3者に頼らざるを得ない。また、自立的な排尿も困難な状況にあり、この点の管理も要する。
以上から、原告の胸腹部臓器の機能に著しい障害が残ったといわざるを得ない。
   ウ 上記ア(イ)及び(ウ)は、平成13年政令第419号による自賠法施行令の一部改正前の別表第1級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に該当する。上記ア(エ)については、右側の同名半盲の有無が明らかではなく、円錐角膜の既往歴の影響も推認されることから、本件事故による後遺障害とは認められない。また、上記イは同別表第2級4号「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」に該当する。

  (2) 逸失利益
 前記4において認定した原告の就労状況等にかんがみ、原告の後遺障害逸失利益の算定に当たり、基礎収入は、症状固定時である賃金センサス平成16年第1巻第1表産業計男性労働者学歴計40歳から44歳までの平均年収額629万1,600円の5割である314万5,800円をもって相当と認める。そして、労働能力喪失期間は症状固定当時の44歳から就労可能年齢67歳までの23年間、労働能力喪失率は100%と認めるのが相当である。したがって、後遺障害による逸失利益は4,243万2,123円となる。
(計算式)314万5,800円×1×13.4885=4,243万2,123円

 7 後遺障害慰謝料(争点(7))
  (1) 前記6(1)において認定した後遺障害の内容に加え、前記「争いのない事実等」において認定したとおり、本件事故当時、乙山は無免許運転をしていた上、本件事故後に原告を救護するなど必要な措置を講じることなく、警察官への報告もしなかったのであり、このような行為の悪質性に照らし、後遺障害慰謝料は2,900万円をもって相当と認める。
  (2) 被告は、本件事故においては原告にも過失があること、乙山の無免許運転及びひき逃げの事実は本件事故態様や結果発生に直接影響を与えたとはいえないことから、上記事実を慰謝料増額事由とすべきではない旨主張する。
 だが、本件において、原告の過失は過失相殺において考慮すべき事情であるし、また、上記無免許運転及びひき逃げという行為の悪質性は、それ自体、被害者である原告の精神的被害を増大させるものといえるから、慰謝料増額事由と認めるのが相当である。被告の上記主張は採用できない。
ーーーーー

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 人身損害(交通事故など) > 高次脳機能障害 > H19. 1.18 横浜地裁判決    100%喪失