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H20. 1.24 東京地裁判決(2/4)

前掲
平成20年 1月24日 東京地裁 判決 <平17(ワ)26759号>
(出典 交民 41巻1号58頁、自動車保険ジャーナル 1734号12頁、ウエストロー・ジャパン)から
から

(続き)
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   イ 平成14年9月25日付けのリハビリセンターにおける作業療法士及び心理判定員による「作業療法評価・心理評価報告」(乙3の3中の18頁)
 (ア) 記憶
 過去の記憶の想起は,事故当時の勤務先名以外は良好であったが,記銘力は,言語性,視覚性ともに低下していることから,生活を送る上で支障が出ており,保続(以前の内容が修正できずに反復してしまうこと)も見られた。ごく短いものの即時再生は可能だが,物語になると困難で,物語中の単語がいくつか想起できるが,それらの単語を関係づけてまとまりのある内容として記憶することはできない。やったことを覚えていないことへの認識はあり,まめに日記風のメモをとるが,これからやることを覚えていられないことも重大な問題であるのに,それについての認識は甘い。
 (イ) 注意
 特定の刺激に注意を向けることや複数の刺激に同時に注意を向けることが困難なこともあった。そのため,何か行う,伝えるときは一つずつにした方がよい。常に注意が低下しているわけではないが,突然落ちることがあり,うっかりミスや思い込みを生じてしまう。また,自分の行為を監視する力が低下しているため,おかしさや間違いに気づけなかったりする。
 (ウ) 遂行機能(手順を計画し,効率的に行う)
 ルールを保持できず,主ではないルールに固執し,計画のないまま行っていたため,効率的な処理は困難だった。練習による効果はあるが,うっかりミスにより結果が安定しない。
 (エ) 思考
 固執性が見られ,関心の幅が狭い。
 (オ) 情緒面
 現在のところ問題となる面は見られず,場面に応じた感情のコントロールはできていると思われるが,今後も観察していく必要がある。
 (カ) 行動面(社会性)
 状況に応じた行動ができていない場面が見られた。洗面所にて人が待っているにもかかわらず,お構いなしにしばらく歯を磨いていた。声を掛けたが何のことかといった感じであった。また,そこを去るときに少しも悪びれた様子もなく,何もいわずに立ち去ってしまった。社会性の低下を否めない。

   ウ 平成15年1月9日付けのリハビリセンターE医師(以下「E医師」という。)による後遺障害診断(甲4)及び「脳外傷による精神症状等についての具体的所見」(甲7)
 物忘れ症状(a),新しいことの学習障害(b),粘着性,しつこい,こだわり(d),飽きっぽい(e),集中力が低下していて気が散りやすい(g),発想が幼児的で,自己中心的(j),計画的な行動を遂行する能力の障害(m),複数の作業を並行処理する能力の障害(o),行動を自発的に抑制する能力の障害(r),社会適応性の障害により,友達付合いが困難(u)といった点について,高度の障害が残存している。
 また,短気,易刺激的,易怒性(b),感情の起伏や変動がはげしく,気分が変わりやすい(f),感情が爆発的で,ちょっとしたことで切れやすい(h),性的な異常行動・性的羞恥心の欠如(i),多弁,おしゃべり(k),自発性や発動性の低下があり,指示や声かけが必要(p),暴言・暴力行為(q),服装,おしゃれに無関心あるいは不適切な選択(s),睡眠障害,寝付きが悪い,すぐに目が覚める(t)といった点については,中等度の障害が残存している。
 記憶が断片的で,欠落部分を誤情報で埋め,当てにならない。即時記憶は保たれているが,近時記憶,遠隔記憶としては定着しにくい。覚えていることを他者から手がかりを与えられないと検索,想起できない。場面が変わると,直前の内容を忘れる。スケジュールノートによるスケジュール管理には,常に他者の援助を必要とする。時間の見当識が著しく障害されていて,人の名前,場所の見当識も障害されている。情報処理速度が遅く,自分の行為をモニターする能力が低下していて,ミスを犯していることに気付かない。課題を正しいやり方で続けられない。自己の障害について正しく認識することが困難であるために,将来についての深刻さが欠けている。複数人がいる場面では,周囲との関係性を感じ取りながら反応するのが困難である。
 一見すると外見上の障害は目立たないが,実際の障害は著しく社会生活を送る上で常に援助を必要とする。
   エ 平成17年3月3日付けの帝京大学医学部脳神経外科F医師による医学意見書(甲12の1)
 原告X2には,認知・遂行障害及び性格変化を主体とする高次脳機能障害の症状が認められ,今後のその回復が困難であることから,就労は極めて困難であることが推測され,ほとんどの基本的な日常生活動作では自立しているが,食事の準備や後片付け,洗たく,掃除,病院の予約,各種手続,金銭管理等は原告X2の家族が行わなければならず,また,外出(特に,初めての場所への外出),食事や衣類の選択等には指示が必要であるなど,家族の看視や援助が欠かせないものも存在する。

   オ 平成18年5月18日付けのE医師による「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」(甲29中の2頁)
 高次脳機能障害の程度判断における本件4能力のうち,原告X2の意思疎通能力及び問題解決能力については「困難が著しく大きい」(大部分喪失)に,持続力・持久力及び社会行動能力については「できない」(全部喪失)に,それぞれ該当する。
 事故の後遺症による人格変化が顕著であり,深刻味が欠如。現実性はなく,常時援助・指導が必要。記銘力障害著しく,ノート管理も困難。意欲,集中力の低下著しく,放置すると何もやらない状態が続く。時に抑制欠如のため,暴力,器物破損あり。
 原告X2に対する介護の要否等については,自発性,意欲の低下,記銘力の障害等により,挙げられた項目(食事,入浴,用便,更衣,外出、買物)について,いずれも介護が必要である。
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