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H20. 1.24 東京地裁判決(3/4)

前掲
平成20年 1月24日 東京地裁 判決 <平17(ワ)26759号>
(出典 交民 41巻1号58頁、自動車保険ジャーナル 1734号12頁、ウエストロー・ジャパン)から
から

(続き)
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   カ 平成18年5月31日付けのリハビリセンターG臨床心理士による陳述書(甲21)における原告X2の本件4能力に関する評価
 (ア) 意思疎通能力については,言葉によるコミュニケーション自体は可能であるが,記憶障害が激しいため,グループ発表において自分が既に発言したことを数分後に忘れたり,5分後に訪問するよう依頼されたことを忘れたりする。また,メモを取ろうとせず,取っても重要な事項を落としてしまうため,後でメモを見ても再現ができず,話す内容に事実と異なることが含まれることが多い。
 これらを評価すれば,「E:困難が著しく大きい」(大部分喪失)に該当する。
 (イ) 問題解決能力については,1つの作業を指示すればおおよそ理解できるものの,一定の条件を満たすカードの書写し訓練を実施したところ,途中から条件を満たさないカードを書き写すなど,他者による見守りがなければ課題に適合しない作業になる。また,複数の工程のある作業については,作業工程を記憶しておくことができないこと等から,他者が手順を整理するなどする必要がある。
 さらに,原告X2には注意障害のためミスが見られるが,気付かないため,他者が指摘する必要がある。
 これらを評価すれば,「E:困難が著しく大きい」(大部分喪失)に該当する。
 (ウ) 作業負荷に対する持続力・持久力について,原告X2は,「めんどくさい。」が口癖となっており,原告X2に何らかの行動をさせるには,他者が声を掛けて「スイッチを入れ」なければならない状態である。また,原告X2が興味を持っていた洗車作業でさえも,リハビリセンターに入所中の28回の訓練中,自発的に行うことができたのは4回であり,残りは強く繰り返して促すことによるか,又は促しても作業を実施しなかったものである。さらに,原告X2は,単純なものであるリハビリセンターにおける手提げ袋の制作(原告X2によれば,手提げ袋に紐をかける作業)や,仮退所中に通った職業訓練センターにおけるボールペンの組立て作業も嫌がった。
 これらを評価すれば,「F:持続力に欠け働くことができない」(全部喪失)に該当する。
 (エ) 社会行動能力について,原告X2は,感情や欲求をコントロールする力に著しい障害があり,その好みとするたばこや缶コーヒーについて我慢することができず,他者の管理がなければコントロールできない。また,感情を抑制できずに突然暴力を振るったり,怒り出したりする行動が見られた。
 反面,自己のこのような行動についての認識には,深刻さが欠如しており,一見協調性がありそうに見えながら,自己に負荷がかかる事態で,器物損壊等の暴力的行為といった不適切な行動で,他者との人間関係を覆すこととなる。
 原告X2は,自己の病識(特に記憶障害)に関して正確な理解に欠けている。
 以上を評価すれば,「F:社会性に欠け働くことができない」(全部喪失)に該当する。

 2 争点(1)(原告X2の後遺障害の程度)について

  (1) 原告X2に,本件事故の後遺障害として,頭部外傷による高次脳機能障害が生じ,また,右下肢の短縮障害(自賠責保険後遺障害等級10級8号相当),右手指の機能障害(同12級7号相当),右膝関節の機能障害(同12級7号相当)が生じていることについては,当事者間に争いがないところ,高次脳機能障害の労働能力に対する影響については,原告らは,少なくとも自賠責保険後遺障害等級3級3号に相当し,労働能力が100%失われたと主張するのに対し,被告らは,自賠責保険における後遺障害の等級認定の結果(5級2号)を踏まえ,79%にとどまる旨主張するので,まず,この点について検討する。

  (2) 確かに,原告X2は,平成16年1月にされた上記の等級認定の際,その理由中で考慮されたように,「食事は自分で食べることができる」「衣服は自分で着ることができる」,「大小便はもらさない」,「歩くとふらつかない」,「左右の手は動く」,「新聞を見る」,「お風呂に入る」,「声をかけて気が向けば散歩にいく」といった動作が可能であって(甲9,10),また,上記認定事実のように,リハビリセンターにおいて,原告X2は,いわゆる日常生活動作(ADL)自体は自立していて,日常生活において職員が実際に手を貸して介助していたのは,夜尿時の寝具の処理に限られていたものである。
 しかしながら,原告X2は,リハビリセンターにおいて,意欲や集中力の低下が著しく,「タバコを吸う」,「コーヒーを飲む」,「(用意された物を)食べる」,「排泄する」,「寝る」といったこと以外は,自発的に行うことはなかったもので,例えば,入浴,洗髪等は繰り返しての指示なくして行うことはなく,着替えについても同様であり,このような日常生活の状況は,リハビリセンター退所後も変わらなかった(甲21,25,原告X3本人)。

  (3) また,上記認定事実のように,原告X2は,言葉によるコミュニケーション自体は可能であるものの,記憶障害は激しく,リハビリセンター入所中から,わずか数分前のことも覚えておらず,退所後も,コンロにやかんをかけたまま忘れてしまうなどのことがある状況にある。原告X2に対しては,スケジュールノート等を利用した記憶の喚起が試みられたが,結局,原告X2がメモによる記憶喚起及びこれによる自己の行動の管理を自発的に実施するには至らなかった。
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