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H20. 1.24 東京地裁判決(4/4)

前掲
平成20年 1月24日 東京地裁 判決 <平17(ワ)26759号>
(出典 交民 41巻1号58頁、自動車保険ジャーナル 1734号12頁、ウエストロー・ジャパン)から
から

(続き)
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  (4) 原告X2は,1つの作業を指示すれば,おおよそ理解することができるものの,その記憶障害等のために,これを持続することが困難であるほか,応用作業も困難で,ミスをしても言われるまで気づかないことから,原告X2が作業に従事するに際して,頻繁に指示を与える必要性が認められる。

  (5) 作業負荷に対する持続力・持続性についても,リハビリセンターが原告X2の興味に沿って訓練に採り入れた洗車作業にあっても,28回の訓練中,自発的に行ったのはわずかに4回で,促しによってすることができたのが17回であって,残りの7回は,促しによっても作業が不可能で,このうち3回は促しに対し暴力的行為に及んでいる。このようなリハビリセンターにおける洗車訓練の経過を見ても,原告X2が興味を抱く事柄でありさえすればすべて独力で実施できているわけではなく,上記認定事実のとおり,意欲がなく作業を拒否する,訓練を開始するために原告X2を誘導しなければ作業を開始しない,腰痛等を訴えて休みを求める,訓練後にコーヒーをもらえなかったことにより易怒するなどからすると,就労という観点から見れば,原告X2が最も興味を抱き得る対象であるはずの洗車作業ですら,不可能ではないにしても,著しく困難を伴うものと評価せざるを得ないところであって,その他の作業に至っては,「面倒くさい。」などと意欲すら見せず,継続することができない状況にあった。

  (6) 原告X2が自らの欲求や感情をコントロールできるのかについては,上記認定事実のとおりであり,職業訓練センターに通所した際も,他の利用者との人間関係がうまくいかず,通所を嫌がり,粗暴な振舞いをしたため,結局,通所は中止せざるを得なかったのである。

  (7) 以上のような原告X2の日常生活動作,意思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する持続性・持久性,社会行動能力のほか,労災保険において診断書や本人との面談結果等により「高次脳機能障害が顕著」であるとして「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」と認定されたこと(甲27の2及び3)や,平成14年3月5日,群馬県から,障害等級を1級として,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律45条による保健福祉手帳が交付されたこと(甲35の1及び2)も併せ考慮すると,原告X2は,一般就労はもとより,極めて軽易な労務にも服することができないものと認められる。
 このように,原告X2は,自賠責保険又は労災保険のいずれの後遺障害の認定基準によっても,高次脳機能障害により労働能力を100%喪失したというべきである。


  (8) 以上に対し,被告らは,原告X2は,洗車作業等についての作業意欲を有し,かつ,洗車訓練については実施することができ,現在も自宅の車両を洗車していること等の事情に照らせば,一定の軽易な作業に限定すれば就労が可能である旨等を主張するが,リハビリセンターにおける洗車訓練の状況は上記のとおりであって,しかも,同訓練は,リハビリセンターでのプログラムの中で唯一労働に結びつくようなものであったこと(甲21)のほか,既に述べた事情からすると,被告ら摘示の事実があるとしても,上記認定を覆すには足りない。
<中略>

  (8) 逸失利益 6735万2346円
   ア 基礎収入 年額488万1100円
 既に認定したとおり,原告X2は,群馬県内の工業高等学校を卒業後,就職して自動車整備関係の業務に従事するなどし,本件事故の3年前である平成9年に運送会社に転職して,本件事故の発生した当時はサカエ運輸に勤務していたところ,原告X2の本件事故前の休業損害証明書上の収入は,日額1万0228円であり,これを基礎に,365日分につき,夏期及び冬期の賞与を各5万円として計算した合計の年収は,約383万円である(<証拠略>)。もっとも,原告X2は本件事故当時40歳で,将来にわたって継続してトラックの運転手として勤務する可能性があったこと,原告X2は,本件事故時に勤務していたサカエ運輸に平成11年9月に就職したばかりであり,今後,収入の増加が見込まれる長距離運送に従事することが期待できたこと(甲25,原告X3本人),後述のような労働能力喪失期間の長さ等を考慮すると,原告X2には,将来において,賃金センサス平成15年産業計全労働者平均の年収額である488万1100円程度の賃金を得る蓋然性があったものと認める。
   イ 労働能力喪失率 100%
 原告X2は,上記2認定のとおりの高次脳機能障害及びそれ以外の障害により,一般就労が極めて困難な状態となっており,本件事故によって労働能力を100%喪失したものというべきである。
   ウ 労働能力喪失期間 24年間
 原告X2は,症状固定時に43歳であり,67歳に至るまで24年間にわたって稼働することができたものと認める。
<中略>

  (9) 将来付添費(介護料) 3049万7940円
 既に認定したとおり,原告X2は,日常生活において,食事,着替え,入浴,排泄等を,基本的に他人の介助によらずに行うことが可能であるが,原告X3が,原告X2に対して,食事や着替え等の準備をする必要があるほか,日常生活のほぼ全般にわたって随時声掛けを行って行動に出ることを促す必要があり,また,食事の量,火の取扱い,金銭管理等について注意することなども必要であることからすれば,親族による付添いが必要であると認められ,その額については,必要とされる付添いの内容としては声掛け及び看視が中心であることからすれば,平均余命期間(37年間)の全期間を平均して,日額5000円をもって相当と認め,次の計算式のとおりの金額を将来付添費と認める。
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