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H19.10.31 大阪地裁判決(2/2) 

前掲
平成19年10月31日 大阪地裁 判決 <平18(ワ)9452号>
(出典 交民 40巻5号1436頁、自動車保険ジャーナル 1741号8頁、ウエストロー・ジャパン)
から

(続き)
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  (5) 当裁判所の判断
   ア 原告らは、原告X1には高次脳機能障害の症状が存在する旨主張し、証拠(甲37、44)中には、これに沿う部分がある。
   イ しかしながら、原告ら提出の証拠が示す本件事故前の原告X1の状況は、客観的・具体的な裏付けを伴うものとは必ずしもいえない上、仮にこれを前提としたとしても、どの時点におけるものであるのかも不明であるため、結局、本件事故直前の原告X1の状況は、証拠上明らかであるとはいえない。
 また、原告X1の売上は、平成9年分は2389万9428円であったのが、事故前年である平成13年分は257万8380円にまで減少しているところ、このような顕著な減少は、単に好不況によるものであると即断することはできず、本件全証拠によっても、この原因を明らかにすることはできない。さらに、茨木医誠会病院が原告X1について作成した患者データベース中には、既往症の欄に病名こそないものの「4年前」との記載があることが認められる(乙1・60頁)ところ、その時期は、前記認定の売上減少時期と矛盾するものではない。
 結局、これらの諸事情を勘案すると、原告X1に関する売上の減少は、原告X1に発生した何らかの症状による可能性も否定することはできない。
   ウ このように、本件に顕れた本件事故前後の状況からは、現在の原告X1の症状が、心因的なものを含む既往症を含めた本件事故以外の原因が一定程度寄与したものである可能性を払拭することはできない。
   エ なお、前記甲44(以下「C意見書」という。)は、C医師が作成した意見書であり、本件事故後の原告X1には高次脳機能障害の症状が認められるとする。
 しかしながら、C意見書は、原告X1につき、本件事故後高次脳機能障害をうかがわせる所見は存在しないものの、現在その典型的な症状がそろっていること及び現在の状況と前述した証拠が示す以前の状況とを対比して、その性格・行動が180度転換したことを理由に高次脳機能障害を肯定するものであるところ、同原告の以前の状況そのものが必ずしも明らかでない以上、これに基づく結論に直ちに依拠することはできない。また、C診断書も、その記載からみて、作成時に存在した原告X1の症状から高次脳機能障害を肯定しているように解されるところ、前述したように、C意見書によって高次脳機能障害を認めることができない以上、これまたその根拠とすることはできない。
   オ このように、原告X1に高次脳機能障害が残存していることと同原告の本件事故後の状況とは矛盾するものではないが、本件事故前の状況が明らかにされていないことをも考え合わせれば、本件事故後の状況のみをもって、同原告における脳の器質的損傷の存否を判断することはできないといわざるを得ない。
   カ 以上のとおり、原告X1に対する医学的検査の結果に加え、本件事故態様、本件事故後の状況等を考慮し、さらにC診断書及びC意見書の記載を勘案してみても、原告X1に、器質的な脳損傷を原因とする高次脳機能障害が残存しているとは認められない。したがって、原告らの前記主張は採用できない。

  (6) 原告X1の後遺障害等級について
 以上のとおり、原告X1には、高次脳機能障害が存しているとは認められない。しかしながら、原告X1は、それまで売上に変動こそあったものの、事業として継続していた建物建築請負業を本件事故後に廃業せざるを得なくなったり、その後一時期を除き稼働していないことや、原告X2、仕事仲間の陳述書(甲53ないし55)、原告ら代理人作成の報告書(甲95)からすると、本件事故後に原告X1に高次脳機能障害様の障害が生じ、これが残存していることは認めることができる。そして、このことに本件事故の程度が相当の衝撃を伴うものであったと考えられることをも考慮すると、原告X1とは、本件事故により、後遺障害等級12級相当の非器質性の精神障害が残存したと推認することができる。
 このような精神障害の症状固定時期は、C医師がC診断書において「頭部外傷後一年五か月が経過しており、現状が維持する可能性高し。」として症状固定と診断した、平成15年9月15日とするのが相当である。<中略>

 (ア) 原告X1には、前記のとおり、高次脳機能障害は残存していないが、本件事故により、後遺障害等級12級相当の非器質性の精神障害が残存していると認められる。そして、現在の原告X1には、特に記憶障害、注意障害が顕著であること、職場の元同僚がもはや仕事を発注できないと判断していること、再就職して単純作業の部類に属する職種を担当したものの、記憶力の欠如と注意障害から三か月強という短期での退職を余儀なくされていること、他方、本件事故の前年である平成13年は赤字経営であったこと等を総合考慮すると、原告X1の労働能力喪失率は、14%と認めるのが相当である。
 そして、原告X1に残存している後遺障害は、事故後5年以上が経過した現在も継続しており、今後治癒の見込みも乏しいので、労働能力喪失期間は、症状固定時である53歳から67歳に達するまでの14年間と認める。


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