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H12. 2. 9 最三小 △(★民集、輸血拒否、エホバの証人、説明義務、手術、意思決定をする権利、自己決定権)

■30 (旧7) (有責方向(19))
最高裁第三小法廷 平成12年2月29日判決 <平成10年(オ)第1081号・平成10年(オ)第1082号>
KW:輸血拒否、エホバの証人、説明義務、手術、意思決定をする権利、自己決定権
 
 
(裁判官:千種秀夫、元原利文、金谷利廣、奥田昌道)
 ★民集54巻2号582頁、判時1710号97頁、判タ1031号158頁
 ★調査官解説:佐久間邦夫・判解6事件(曹時55巻1号187頁、ジュリ1195号108頁)
<上告棄却、附帯上告棄却>
 
 
<(S4.1.5生)、H4.9.16手術、東京大学医科学研究所附属病院>
 
<評釈等>
吉田邦彦・判評521号11頁(判時1782号181頁)、植木哲・別冊法時23号58頁、大沼洋一・判タ臨増1065号110頁、潮見佳男・ジュリ臨増1202号66頁、飯塚和之・NBL736号66頁、山田卓生・年報医事法学16号291頁、樋口範雄・法教239号4頁、新見育文・法教248号11頁
平野哲郎「新しい時代の患者の自己決定権と医師の最善義務」判タ1066号19頁
 
<審級経過>
第一審:東京地裁 平成9年3月12日判決 <平成5年(ワ)10624号>
 (判タ964号82頁、訟月44巻3号315頁)
 (評釈等:西野喜一・判タ955号97頁)
控訴審:東京高裁 平成10年2月9日判決 <平成9年(ネ)1343号>
 (55万円を認容)
 (判時1629号34頁、判タ965号83頁、高民51巻1号1頁、東高民報49巻1〜12号1頁、訟月45巻5号821頁)
 (評釈等:手嶋豊・判評477号39頁(判時1649号217頁)、中村哲・判タ臨増1005号102頁、関智文・ジュリ1153号120頁、駒村圭吾・ジュリ臨増1157号10頁、淺野博宣・別冊ジュリ154号56頁)
 
 
<要旨>
 宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有している患者に対して医師がほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで手術を施行して輸血をした場合において右医師の不法行為責任が認められた事例
(医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓の腫瘍(しゅよう)を摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、その手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで、手術を施行し、輸血をしたなどの事実関係の下においては、医師は、患者がその手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。)

<コメント>
* この判決は、エホバの証人の輸血拒否に関するものであり、第一審判決(東京地裁平成9年3月12日判決)・控訴審判決(東京高裁平成10年2月9日)以来多くの報道等がなされてきたが、事実関係を正確に踏まえる必要がある。
  この判決の事実関係は、
  [1]患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓の腫瘍を摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを医師が知っていた、
  [2]その手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを医師が認識していた、
  [3]ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を医師が採っていた、
 という場合であり、その方針を説明しないで手術を施行し患者に輸血をしたというケースである。
* このような事実関係の下で、説明をしないで手術を施行し輸血をすることについては、判例評釈の中に「だまし討ちに近いケース」という評価もあるように、極めてアンフェアと言うべきだろう。
* 医療関係者の中には、このような事実関係を捨象して受け取り、過剰な不安感を持つ向きもあるが、事実関係を十分に踏まえるべきである。そして、例えば、交通事故の直後など場合で患者の意思を確認できないとき、患者に判断能力が欠けているときなどについてまで、この判決の論理が直ちに適用されるわけではない。
* この判決の表現は、「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」であり、「自己決定権」という言葉を使用していない。しかし、「このような意思決定をする権利」は、間違いなく、医療における「自己決定権」の1つと考えることができる。 最高裁として自己決定権を認めた判決として、意義が大きい。

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