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慢性肝炎,肝硬変

H21. 1.28 岐阜地裁判決から

(1) 慢性肝炎,肝硬変に関する一般的知見

ア 慢性肝炎は,炎症の持続,線維化の進行に伴い,肝実質が線維性隔壁で分断され,同時に肝細胞の再生像が出現し,再生結節が形成され,肝硬変へと至る。肝硬変は,肝障害の終末像であり,その原因のほとんどはウイルス肝炎によるものであるが,アルコール,自己免疫あるいはその他諸々の原因で成立する可能性がある。
肝硬変の半数近くは肝臓の形態学的所見以外に全く異常を示さない無症候性肝硬変であり,このような肝硬変は,超音波検査等の画像診断や肝生検,腹腔鏡などの形態学的診断以外では診断できない。また,浮腫や腹水,くも状血管腫等は,肝硬変の典型的な自他覚症状であるが,このような症状が出現する例は,既に肝硬変が進展した例であって,経過観察例では,これらの症状が出現する前の診断が必要である。

イ 慢性肝炎は,組織学的には,肝線維化の程度及び壊死,炎症の活動性の程度によって分類され,平成7年ころから日本では,線維化の程度はF0(線維化なし)からF4(肝硬変)の5段階,壊死・炎症の活動性の程度は4段階(A0〜A3)に区分するという新犬山分類が汎用されている。
このような慢性肝炎の病態進展度の診断は,各ステージからの肝硬変への進展や発がんに対応した治療方針を決定する上で重要であり,その診断に当たっては,肝生検病理組織からの評価が最も重要であるが,肝生検には入院が必要であり,また,患者に侵襲を加える方法であるため,頻回に経過を追って行うことは困難であって,日常診療においては,血液生化学検査やICG15分停滞率(停滞率が15%を超えると異常であるとされ,25%以上を示す場合にはF4〔肝硬変〕と診断可能とされている)などの肝線維化マーカーなどにより病態進展度や肝線維化の程度を予測することが求められる。
これらの指標のうち,血小板数が最も簡便で,肝線維化の進展とよく相関するとされ臨床診療において汎用されており,一般的に,上記分類の指標として,18万/μL(マイクロリットル)以上でF1,15万以上18万未満/μLでF2,13万以上15万未満/μLでF3,10万μ/L以下でF4(肝硬変)であるとされる。

ウ 「原発性肝癌取扱い規約」第4版(乙B3)によれば,肝がんは単純結節型など5つの肉眼分類がなされるが,この5つの分類が困難な場合には,結節型,塊状型,びまん型の3類型に分けられる。
この場合のびまん型とは肝臓全体が無数の小さいがん結節により置換され,肉眼的に肝硬変と鑑別することが困難なものをいう。一般にびまん型の肝がんは,初期の小さい肝がんの段階では結節型として発見されることが多く,日本肝がん研究会による肝がん追跡調査によれば,原発性肝がん1万6375例のうちびまん型は589例であり,全体の約3.6%に過ぎない。

エ 肝がんの進行度(ステージ)はTないしW(A,B)の4段階に分けられ,ステージTは,@腫瘍個数が単発であること,A腫瘍径が20o以下であること,B脈管侵襲がないこと(門脈,肝静脈及び肝内胆管のいずれにも侵襲〔腫瘍栓〕を認めないこと)の3要件すべてを満たす場合を言い,ステージUは,このうち2要件を満たす場合,ステージVは1要件のみを満たす場合をいう。

オ 肝がんに対する治療法としては,一般に,肝切除法という手術療法のほか,冠動脈塞栓術(TAE),抗がん剤の動注療法及びエタノール注入療法(PEIT)がある。このうち,肝切除法が最良の方法とされ,残された肝機能と肝がんの進展の程度を総合判断してその適応が判断される。第15回全国原発性肝がん追跡調査報告によれば,肝切除法による治療による5年累積生存率は52%であり,ステージ別では,T:73%,U:60%,V:40%,WA:24%,WB:16%である。また,術後5年累積再発率は約70ないし80%である。
TAEは,肝がんの完全壊死が認められるが,効果の低い場合もあり,手術不能な肝がんに対する治療として有用であるが,肝機能低下の著しい症例や大きな門脈塞栓の存在する症例の場合には,肝不全を引き起こす可能性があるため,禁忌とされている。
抗がん剤の動注療法は,TAEが不能な症例について行うことがあるが,その効果は不十分な場合も多い。
PEITは,腫瘍径30o以下,3個以下の肝がんに良い適応があり,腫瘍の完全壊死を得られることも多く,直径15o以下の高分化な肝がんに対しPEITを施行した場合の予後は良好であり,脂肪化が主な原因と考えられる高エコーの直径20o以下の肝がんの予後も良好であるとする検証結果も見受けられる。
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