ホーム > 医療 > 産科・メモ >  

医学的知見 胎児心拍数 モニタリング、遅発一過性徐脈

<H18.10.13 京都地裁判決から>

  (3) 胎児心拍数モニタリング所見について

 胎児心拍数は,胎児の健全性の判断,とりわけ低酸素状態の診断に有用であるとされている。その評価の要素として,心拍数基線,一過性頻脈,一過性徐脈,基線細変動がある。

   ア 心拍数基線について
 妊娠末期では,120bpmから160bpmが正常で,平均は約140bpmである。100bpmから119bpmを軽度徐脈,99bpm以下を重度徐脈という。〔日本産婦人科学会誌53巻11号の「研修医のための必修知識」と題する論説(乙B4,以下「必修知識2」という。)(N373ないしN375頁)〕

   イ 基線細変動について
    (ア) 胎児の心拍数の基線細変動のうち,もっとも早くて周波数の高い変化を「STV」,STVより周波数の低い1分間に2ないし6回の比較的穏やかな胎児心拍数基線の変動を「LTV]という。基線細変動の評価では,LTVの振幅が6bpm以上を正常,3ないし5bpmを減少,2bpm以下を消失とする基準が提唱されている。〔「必修知識2」(N384頁)〕
    (イ) 必修知識2には,次の趣旨の記載がある。
 「基線細変動の消失,減少の原因としては,@胎児のアシドーシス(動脈血のPHが低下すること),A母体への薬剤投与,B胎児疾患,C在胎週数の早い胎児,Dノンレム睡眠中を考える必要があり,AないしDが否定されれば,胎児仮死と診断される。」(N384頁)
    (ウ) 平成10年9月1日に医学書院から発行された「胎児心拍数モニタリングの実際」(甲B2,以下「実際」という。)には,次の趣旨の記載がある。
 a 「細変動の減少または消失の最大の原因は低酸素症である。」「細変動の減少があっても,一過性徐脈がなければ多くの場合心配はない。一方,細変動の消失があり,同時に一過性徐脈,とくに遅発一過性徐脈のある場合には胎児は深刻な低酸素症の状態にあると考えて,即刻介入の対象となる。」(10頁)
 b 「細変動減少や消失のみで胎児状態を判断するのはきわめて困難である。」(82頁)
 c 「分娩中の細変動減少の原因の中には,胎児低酸素症も含まれているのは事実で,細変動減少や消失の原因が胎児低酸素症か他の原因かを鑑別することはきわめて重要である。」(82頁)
 d 「分娩中の細変動減少や消失が胎児低酸素症のサインだとすれば,胎児中枢神経系異常などを除けば,必ず胎児低酸素症の初期のサインである遅発一過性徐脈が子宮収縮に引き続いて反復しているはずである。」(82頁)

   ウ 一過性頻脈について
    (ア) 心拍数が一時的に増加し,短時間で基線に戻るものをいう。心拍数増加の振幅が15bpm以上,持続時間が15秒以上を一過性頻脈と定義するのが一般的である。一過性頻脈が存在することは,胎児の生理的反応が維持されていることを意味する。〔「必修知識2」(N376頁)〕
    (イ) 「必修知識2」には,次の趣旨の記載がある。
 a 「一過性頻脈は,妊娠中にみられることが多く,分娩中は早期に多い。」(N376頁)
 b 「一過性頻脈が存在することは,胎児の生理的反応が維持されていることを意味するが,分娩中は,それが認められないからといって,必ずしも胎児の状態が悪化していることを示すわけではない。」(N377頁)
    (ウ) 「実際」には,次の趣旨の記載がある。
 a 「陣痛発来して入院してくる妊婦には,ただちにモニターをつけ,一過性頻脈があればひとまず安心してよく,逆に一過性頻脈が見られなければ,その原因を探索し,胎児がどのような状態にあるかを把握しなければならない。」(16頁)
 b 「一過性頻脈はほとんど胎動に一致して起こる。」「胎動の少なくなる分娩中には長時間にわたり一過性頻脈の見られないことがある。」「分娩中には,どの位の時間にわたり一過性頻脈がないのを要注意と考えるべきかの決定的研究がない。したがって,一過性頻脈の有無以外の方法(子宮収縮に反復する遅発一過性徐脈の有無や変動一過性徐脈または徐脈の有無,細変動の有無,基線上昇の有無など)で胎児低酸素症の有無を検索しなければならない。」(83頁)

   エ 遅発一過性徐脈について
    (ア) 「胎児心拍数図の用語及び定義検討委員会」の報告(日本産科婦人科学会雑誌55巻8号(2003年8月)所収,甲B7,以下「報告」という)では,遅発一過性徐脈の定義について,次のとおりの提案がなされている。
 「遅発一過性徐脈とは,子宮収縮に伴って,心拍数減少の開始から最下点まで30秒以上の経過で緩やかに下降し,その後子宮収縮の消退に伴い元に戻る心拍数低下で,子宮収縮の最強点に遅れてその一過性徐脈の最下点を示すものをいう。」
    (イ) 「必修知識2」には次の趣旨の記載がある。
 a 「現在の一過性徐脈の分類の基礎となったHonの分類では,まず子宮収縮の度に出現するかどうかで『周期的』か『非周期的』かに分類し,周期的一過性徐脈を『同一型』か『変動型』かに分類し,同一型一過性徐脈を『早発一過性徐脈』と『遅発一過性徐脈』に分類している。」(N378頁)
 b 「心拍数の低下幅は30ないし40bpm以内がほとんどで,10ないし20bpm程度で一過性徐脈と認識すること自体を見逃しやすいものも少なくない。」(N379頁)
 c 「遅発一過性徐脈は,子宮収縮により胎児血PO2が一定のレベル以下になる母体の因子(低血圧等)や胎盤の因子(早剥等)を有する症例及び胎児が低酸素状態に陥っている症例にみられるパターンで,基線細変動の状態によらず胎児仮死と診断される。」(N380頁)
    (ウ) 「実際」には,次の趣旨の記載がある。
 a 「反復して出現しない散発的な一過性徐脈には,まず補液による循環血液量の増加や低血圧の改善をはかり,それで消失してしまえばもうそれ以上の心配は不要である。反復して出現するものはより重大な意義をもつ。」(14頁)
 b 「遅発一過性徐脈は,胎児低酸素症の初期のパターンであり,胎児にストレスがかかっていることを示す。一過性頻脈が確認できず,細変動も減少又は消失している場合には,胎児仮死と考え,急速遂娩を行う。」(40頁)
    (エ) 平成10年9月5日に株式会社メディカ出版から発行された「分娩介助と周産期管理」(甲B10,以下「周産期管理」という。)によると,次の趣旨の記載がある。
 「遅発一過性徐脈を示す胎児仮死の重症度の鑑別のメルクマールとして,出現頻度及び子宮収縮の強さとの関係があり,陣痛のたびごとに出現するもの,弱い子宮収縮でも出現するものは高度であり,数回の陣痛に対し1回出現するもの,弱い子宮収縮では出現しないものは軽度である」。(50頁)
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 医療 > 産科・メモ > 医学的知見 胎児心拍数 モニタリング、遅発一過性徐脈