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医学的知見 胎児心拍数 遷延一過性徐脈

<H18.10.13 京都地裁判決から>

   オ 遷延一過性徐脈について
    (ア) 「報告」では,遷延一過性徐脈の定義について,次のaのとおりの提案がなされており,次のbのとおりの解説が付されている。
 a 「遷延一過性徐脈とは,心拍数の減少が15bpm以上で,開始から元に戻るまでの時間が2分以上10分未満の徐脈をいう。」(1207頁)
 b 「比較的予後良好な例から,胎児の低酸素症に基づくものまでいろいろである。頻度は少ないものの,早剥により発生したとの報告がある。発生機序を特定することは難しい。」(1213頁)
 c 「2回の子宮収縮を経て続く場合は病的であるとの考えがある。」「4分以上続く徐脈で細変動の消失がみられたときに児のアシドーシスを予測するとの考えがある。」「70bpm未満の徐脈が有意に胎児のアシドーシスと関連があったとの研究結果がある。」(1213頁)
    (イ) 「必修知識2」には次の趣旨の記載がある。
 「1997年の米国でのワークショップでは,『2分以上持続し,10分以内に回復する一過性徐脈』との定義が提唱された。心拍数は通常100bpm以下となる。心拍数基線より30bpm以上低下する場合に意味があるとの報告もある。」「単発か,繰り返すか,また原因によりリスクは異なる。」(N382頁)
    (ウ) 「実際」には次の趣旨の記載がある。
 a 「持続時間に関しては,90秒以上,10分以内の一過性徐脈を遷延一過性徐脈と考える。」(43頁)
 b 「遷延一過性徐脈が出現したら帝王切開を準備する必要がある。」(43頁)
   カ 胎児心拍数モニタリングについて
 a 平成16年9月1日に発行された日医雑誌第132巻第5号に搭載されている「周産期医療におけるリスクの軽減」と題する論文(I,乙B11)には,次の趣旨の記載がある。
 「米国国立小児健康人間発達研究所のカンファランス(1997)でコンセンサスが得られているFHRパターンで,児の中枢神経学的障害や胎児死亡の危険が高いと考えられている所見としては,基線細変動が消失し,しかも,遅発一過性徐脈,変動一過性徐脈,持続する徐脈などである。逆に,正常な酸素化の状態にある胎児と診断しうるのは,基線と基線細変動ともに正常で,しかも一過性頻脈があり,一過性徐脈のないものである。これら以外の所見については,診断的意義及び胎児の取扱いは合意に至っていない。」(693頁)
 b 「報告」には,次の趣旨の記載がある。
 「正常基線,細変動正常,一過性頻脈の存在,一過性徐脈がない場合は児の酸素化も正常であると考えられる。また,その対極として,多くの委員が,児のアスフィキシア(胎児低酸素血症とアシドーシス)の可能性が高いパターンとして,遅発一過性徐脈,変動一過性徐脈あるいは遷延一過性徐脈が繰り返し出現し,かつ細変動が消失しているものとしている。この二極間に位置する多くの胎児心拍数パターンに関しては,胎児の状態あるいは処置に関しては未だ確定的なものは存在しない。」(1213頁)

<H20. 3. 5 東京地裁判決から>

  (3) 遷延一過性徐脈
 遷延一過性徐脈とは,心拍数が基線より15bpm以上低下し,徐脈開始から元に戻るまでの時間が2分以上10分未満の徐脈と定義され,その原因は,過強あるいは過長子宮収縮,内診,児頭頭皮電極装着,児頭採血,臍帯脱出,臍帯圧迫,母体痙攣,硬膜外・脊椎麻酔,母体仰臥位,胎児中枢神経系奇形,母体呼吸循環異常,子宮破裂,常位胎盤早期剥離等多岐にわたり,心配がないものから胎児急速遂娩を必要とするものまで様々である。
 遷延一過性徐脈が出現した場合,その管理は発生原因によって異なってくるが,3分間以上の心拍数の減少は分時心拍出量の低下をもたらし,その結果,胎児は低酸素血症に陥ることから,原則的には胎児仮死として対処すべきとされており,また,明らかな原因がないにもかかわらず,それが1時間に3回以上の頻度で出現すれば,基線・基線細変動の所見などにもよるが,急速遂娩を考慮すべきとされる。なお,内診時や児頭頭皮電極装着時,急激に分娩が進行した場合などに迷走神経反射として発生する比較的予後良好な例では,通常数分以内に心拍数は回復し,その後に胎児心拍数基線細変動の減少(基線細変動の振り幅の大きさが5bpm以下となった場合)が認められることはなく,反復する遷延一過性徐脈とともに基線細変動の減少あるいは消失(振幅が肉眼的に確認できない場合)が認められた場合には,胎児状態が悪化してアシドーシスに陥っていることが示唆される。(甲B8,9)


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