ホーム > 医療 > 産科・メモ >  

医学的知見 胎児心拍数 一過性変動

<H19. 2.28 横浜地裁判決から>

   イ 一過性変動の種類について(甲B3ないし5)
    (ア) 一過性頻脈
 心拍数が160bpmを超えるものが頻脈と定義されている。161〜180bpmが軽度頻脈,181bpm以上が高度頻脈とされている。一過性頻脈とは,胎児心拍数が一時的に増加し,短時間で基線に戻るものをいい,胎児心拍数基線から心拍数が30秒未満で15bpm以上の上昇を示し,この状態が2分未満持続して胎児心拍数は基線に戻る場合をいう。
 なお,この状態がさらに長く続いて2分以上10分未満持続する場合は,遷延一過性頻脈という。

    (イ) 早発一過性徐脈
 心拍数基線が120bpm未満のものを徐脈とするが,110〜119bpmが軽度徐脈,99bpm以下が高度徐脈とされている。早発一過性徐脈とは,子宮収縮に伴って規則的に反復する一過性の徐脈であり,子宮収縮の開始と同時に心拍数の低下が始まり子宮収縮の終了とほぼ同時に回復するものをいう。陣痛波形と徐脈の形は対象形で子宮収縮の強さが同じであれば毎回類似の波形を呈し,胎児心拍数下降開始点から下降最下点まで30秒以上かかり,胎児心拍数の基線から最下点までの下降心拍数は約20から30bpmで20bpm前後のことが多く,最下点が100bpm以下に低下することはほとんどない。
 早発一過性徐脈は,子宮収縮により児頭の圧迫が起こるので頭蓋内圧が上昇して高血圧となり迷走神経反射が起こって徐脈が発生すると説明できるものであるため,通常,早発一過性徐脈の出現のみでは胎児が低酸素状態やアシドーシスに陥っているとは判断されない。

    (ウ) 遅発一過性徐脈
 遅発一過性徐脈とは,胎児心拍数の低下が子宮収縮より遅れて始まり,心拍数の最下点は子宮収縮のピークより遅れ,徐脈からの回復も子宮収縮の終了より遅れるものをいう。子宮収縮の程度が同じであれば,毎回類似の波形を呈するが,陣痛が強くなってから出現した場合は1回ごと子宮収縮による子宮内圧の変化が大きくなるので波形パターンがすべて同じようになるとは限らない。
 遅発一過性徐脈は,胎盤の灌流異常による胎児の低酸素状態を示すパターンとされており,1回でも出現したら胎児はその時には一時的に低酸素症に陥っていると判断されるが,それ以後には発生をみなかったり他の所見が良好になっていれば胎児は当該低酸素状態を克服したと判断される。
 遅発一過性徐脈においては,胎児心拍数基線から心拍数下降の最下点までの時間は30秒以上であり,この時間が短いほど胎児の低酸素状態が重症であることが多い。
 遅発一過性徐脈が生じた時に基線細変動が低下あるいは消失している場合には,一般的に胎児の低酸素状態が重症であると判断され得る所見であり,胎児が出生しても予後が非常に悪い可能性がある。したがって基線細変動の状態が遅発一過性徐脈の重症度を左右すると考えてよいとされている。基線細変動を伴わない遅発一過性徐脈は,遅発一過性徐脈の出現初発時期から約30分以後になってからみられることが一般的には多いとされており,このことからすると,遅発一過性徐脈が繰り返して発生した場合には30分以内に胎児の娩出を図らないと予後が悪いといえる。

    (エ) 変動一過性徐脈について
 変動一過性徐脈とは,胎児心拍数がその基線から子宮収縮に関連して急激に下降して回復し,下降開始,最下点,回復が子宮収縮と一致することなく,心拍数下降の形もそれぞれ異なり,また,1回ごとの波形も同一ではないものをいう。最下点は15bpm以上で15秒以上2分未満持続するものをいうが,日本ではこのうち60bpm以下まで低下して60秒以上持続するものを高度変動一過性徐脈としている。
 変動一過性徐脈は,分娩中の子宮収縮による子宮内圧上昇のために臍帯が圧迫されることによって起こるとされている。胎児は陣痛のために徐々に下降してくるため,しばしば子宮収縮時に臍帯が胎児と子宮壁の間に挟まれて圧迫されることが起こるため,変動一過性徐脈のみでは胎児の低酸素状態が悪化していると判断されないが,強い血流遮断が長く続く場合や繰り返し発生する場合は低酸素状態やアシドーシスの状態に陥る可能性があるため,高度変動一過性徐脈が繰り返し出現する場合は胎児の低酸素状態が悪化していると判断され得る所見となる。

    (オ) 遷延一過性徐脈
 遷延一過性徐脈とは,胎児心拍数が突然に急激に下降し,最下点までの下降に要する時間が30秒未満で,徐脈の持続時間は2分以上10分未満の一過性徐脈のことをいう。遷延一過性徐脈は,子宮収縮の有無など陣痛のパターンとは関係せず,胎児心拍数図のみの所見で判断される。

<H19. 3.30 青森地裁弘前支部判決から>

  (5) 一過性徐脈
 胎児心拍数図において,一過性にFHRが基線よりも減少する場合をいい,子宮収縮との時間的関係から,早発一過性徐脈,遅発一過性徐脈,変動一過性徐脈に分けられる。
   ア 早発一過性徐脈
 子宮収縮の開始と同時にFHRが下降し,子宮収縮の終了とともに回復するものをいう。子宮内における児頭の圧迫によって生じるものであって,胎児の異常を示すものではない。
   イ 遅発一過性徐脈
 子宮収縮に後れてFHRが下降し,子宮収縮の終了に後れて回復するものをいう。胎盤血行不全に見られる特徴的な波形であり,低酸素血症による胎児仮死を示唆する。
   ウ 変動一過性徐脈
 FHRの低下開始と子宮収縮開始の時間的関係が一致しないものをいう。子宮収縮による臍帯の圧迫によって生じるものであり,高度変動一過性徐脈(徐脈が1分以上持続し,かつ,心拍数の最下点が60以下,又は,基線からの下降幅が60以上のものをいう。)が反復すると,胎児仮死と診断される。また,変動一過性徐脈が反復発生し,基線への回復が進行的に遅くなる場合は,胎児低酸素症が徐々に悪化していることを示す。
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 医療 > 産科・メモ > 医学的知見 胎児心拍数 一過性変動