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医学的知見 分娩監視装置記録

<H19. 2.28 横浜地裁判決から>

 2 分娩監視装置記録に関する医学的知見について
 証拠(甲B3ないし7,乙B1ないし4,乙B6,7,G証人)によれば,分娩監視装置の記録に関する医学的知見について以下のとおり認められる(特に関係する書証を括弧内に挙示する。)。

  (1) 分娩監視装置について
 胎児のwell-beingを評価する方法として,胎児心拍数のモニターが不可欠であるとされている。分娩中は規則的な子宮収縮が存在し,子宮筋の収縮は子宮筋層内を通り絨毛間腔に流入する母体側の胎盤血流量に影響を与えるため,その負荷に対応した胎児心拍数の変化をみることで胎児の状態を推測することができる。したがって,分娩中の胎児心拍数の変化は陣痛との時間的関係が重要となる。胎児心拍数図と子宮収縮を併列に経時的に記録したものが,胎児心拍数図である。
 分娩監視装置は,胎児心拍数を超音波ドプラ法によって拾い出すが,1分間よりも短い瞬間的な胎児心拍数を数えて1分間の胎児心拍数を予想して算出された瞬間胎児心拍数(単位は1分間の心拍数beats per minuteを表すbpm)をモニタリング又は記録する(甲B3,4)。
 また,分娩監視装置は,胎児心拍数を拾い出すのと同時に,外部からの圧力を想定して子宮の収縮である陣痛の強弱についても測定し,モニタリング又は記録する(甲B4)。
 胎児心拍数及び陣痛の強弱が記録又はモニタリングされる場合,縦軸を胎児心拍数又は陣痛の強弱にとり,横軸を時間にとり,胎児心拍数の下に陣痛の強弱である陣痛曲線が位置するように記録又はモニタリングされる(以下,記録された胎児心拍数及び陣痛曲線を「胎児心拍数図」という。甲B3,4)。
 分娩の監視に当たる医師は上記の胎児心拍数及び陣痛曲線に基づいて胎児の状態を推測するが,必ずしも胎児の状態を完全に推測できるわけではなく,分娩監視装置によって予測することのできる胎児の状態が常に実際の胎児の状態と一致するとは限らない。

  (2) 胎児心拍数図の読み方とその意義について
   ア 分娩監視装置によって検出される胎児心拍数及び陣痛曲線から胎児の状態を診断する際には,主に@胎児心拍数基線,A胎児心拍数一過性変動(以下「一過性変動」という。),B胎児心拍数基線細変動(以下「基線細変動」という。)の3項目を判読する(甲B3ないし5)。
 @胎児心拍数基線とは,一過性変動のない部分の10分間程度の平均的な心拍数をいい,A一過性変動とは,一過性の胎児心拍数変動のことをいい,B基線細変動とは,胎児心拍数基線の細かい心拍数の変動のことをいう。

   イ 一過性変動の種類について(甲B3ないし5) 
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   ウ 基線細変動について
 基線細変動とは,胎児心拍数基線の細かい心拍数の変動のことをいう。基線細変動には,振幅などに一定の規則性がない。
 基線細変動については,6から25bpmの振幅が正常であり,6bpm以下の場合は基線細変動の減少といい,振幅がゼロになった状態又は2bpm以下になって肉眼で細変動が認められない状態を基線細変動の消失という。
 基線細変動は,胎児の大脳,中脳,心臓の刺激伝導系,自律神経系などの神経系の活動によって引き起こされるので,基線細変動の低下,消失は胎児の神経系機能が抑制,麻痺していることを示し得る所見である。
 胎児心拍数基線細変動の消失・減少の原因としては,@胎児のアシドーシス(高度又は長期の胎児低酸素状態,母体のケトアシドーシスなど),A母体への薬剤投与,B胎児疾患,C在胎週数の早い胎児,D胎児のnon-REM stateがあるとされており,A〜Dが否定されたときは胎児ジストレスと診断される。

<H19. 3.30 青森地裁弘前支部判決から>

  (3) 分娩監視装置(CTG)
 分娩中の胎児の状態を把握するために,子宮収縮の状態と胎児心拍数(FHR)を連続的かつ同時に記録する装置であり,一過性徐脈のような子宮収縮の状態と胎児心拍数の変動との関係を記録することもできる。
 通常使用されるCTGは,外測法(母体の腹壁の外に変換器(以下「トランスデューサ」という。)を置いて計測する方法)による装置であり,この場合,FHRは,超音波ドップラー法により心拍音を拾う方法によって計測され,1分間の心拍数を表示する。これに対し,内測法(胎児に直接電極を取り付け,胎児の心臓から発せられる電気信号(胎児心電図)を計測する方法であるが,破水後にしか応用できない。)によるCTGもある。
 そして,被告E及びF助産師が本件胎児のモニタリングに使用したのは,外測法によるCTGであった。

  (4) 胎児心拍数(FHR)基線(以下「基線」ということもある。)
 胎児心拍数図における一過性変動のない時期約10分間の平均的な1分間当たりの心拍数をいい,120〜160を正常,120以下を徐脈,160以上を頻脈という。また,頻脈のうち,180未満のものを軽度頻脈,180以上のものを高度頻脈という。
 頻脈は,母体発熱や絨毛膜羊膜炎などによることが多いが,陣痛のストレスのためか分娩時に胎児発作性上室性頻拍症を起こすこともある。また,頻脈のみで胎児仮死の診断をするものではないが,安心できるパターンとなるか否かについて注意深い観察が必要であり,殊に180以上の高度頻脈では厳重な管理が必要であるし,また,頻脈の状態で一過性徐脈などを伴うような場合には,胎児仮死を疑うべきである。

  (5) <別頁>

  (6) 基線細変動
 FHR基線は,胎児の状態が良好であれば,一定の細変動(これを基線細変動という。)を示し,心拍数図上,ギザギザの曲線が得られるが,胎児の中枢が低酸素状態によって障害を受けると,細変動が減少,消失する所見が見られる。

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