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医学的知見 低酸素性虚血性脳症、脳性麻痺

<H19. 3.30 青森地裁弘前支部判決から>

  (7) 低酸素性虚血性脳症
 動脈血の低酸素と血流低下による脳障害をいい,新生児死亡,脳性麻痺,精神遅滞の原因となる。原因は,胎児期の母体の麻酔,心不全,一酸化炭素中毒による低酸素症,腰椎麻酔や子宮による下大動脈圧迫の低血圧,オキシトシン(陣痛誘発剤)過量投与による子宮弛緩不全,臍帯血流障害,胎盤機能不全などによる。また,出生後の重篤な出血,ショック状態,脳障害,麻酔,外傷,先天性心疾患,肺機能不全などの低酸素症による。成熟児では大脳皮質壊死や傍矢状性阻血,未熟児では脳室周囲性軟化や脳室内出血を起こす。重症例では脳浮腫を伴う。皮膚の蒼白,チアノーゼ,無呼吸,徐脈,筋緊張低下,刺激に対する無反応は本症の徴候である。生後24時間以内に脳浮腫が生じ,脳幹部圧迫を来す。この時期には重篤なけいれんを起こし,抗けいれん薬は無効である。本症には,低血糖や低カルシウム血症を合併し,これらの原因によるけいれんもある。予後は悪く,死亡,脳性麻痺,精神発達遅滞,重症心身障害を残す。

  (8) 胎便吸引症候群
 胎便により汚染された羊水を吸引して起こる呼吸障害をいう。過期産,妊娠中毒症,胎盤機能不全,胎児仮死などの分娩時に多い。出生直後より著明な呼吸障害が認められ,アプガースコアは低値であり,チアノーゼを伴う。胸部X線像では無気肺と肺気腫が混在するもの,両側肺野に粗い樹枝状陰影の見られるもの,肺全体が濃いすりガラス状に見えるものなど,多彩な所見を呈する。胎児仮死,羊水混濁があり,口腔,鼻腔に緑色羊水の存在を認めれば,診断は確立する。肺組織では,肺胞腔は羊水成分や胎便で閉鎖されている。発症を予防するためには,出生時の第1啼泣前に気道内の羊水や胎便を吸引洗浄することが大切である。発症後は気道内容と胃内容の吸引除去,酸素投与,人工換気を行い,保育器内で監視する。感染羊水の吸引時には新生児肺炎(胎児〔性〕肺炎)になることがあるので注意を要する。

  (9) 脳性麻痺
 脳の発育期に生じた不可逆性の脳障害をいい,非進行性の病変を持ち,その症候は運動系の機能障害を基本とし,多くが3歳までに発症する。具体的には,新生児期までに生じる脳障害を一般に指す。
 その原因については,障害の生じる時期により分けられており,@出生前原因としては,胎内感染,胎盤機能不全,胎児期の脳血管障害,遺伝性などが,A出生時原因としては,分娩時の機械的損傷,脳出血,無酸素症,低酸素症,脳循環障害などが,B出生後原因としては,重症黄疸(核黄疸),頭蓋内感染症,脳出血などがある。
 分類は,麻痺の内容によってされる。筋緊張の内容には,強(痙)直,強剛,失調,アテトーゼ(ある姿勢を維持したり,運動を行おうとする時に現れる不随意運動),無緊張などがあり,麻痺の広がりには,四肢麻痺,片麻痺,両麻痺,対麻痺,二重片麻痺,単麻痺などがある。
 合併症候には,知能障害,てんかん発作,脳神経障害,言語障害などがある。
 成熟児の低酸素性虚血性脳症による脳の病変としては,大脳皮質層状壊死,基底核壊死,脳梗塞,白質軟化,橋鈎状回壊死が多く,脳幹の壊死も見られるといわれ,臨床的には,基底核壊死はアテトーゼ型脳性麻痺の原因,脳梗塞は痙性四肢麻痺,片麻痺の原因となる,脳幹壊死は,予後不良で乳児期に死亡することが多く,生存しても嚥下障害や呼吸調節異常を来す。


<H19. 4.13 東京地裁判決から>

  (5) 脳性麻痺
   ア 脳性麻痺とは、受胎から生後4週間以内に発生した中枢性の病変による非進行性の運動及び姿勢の異常を呈するものをいう。脳性麻痺の発生率は、現在出生人口1000人に約2人前後であるが、出生体重により脳性麻痺の発生率は異なり、出生体重が2500g以上の児においては、1000人に約0.7人であるとされる(甲B9〔731、734〕)。
   イ 脳性麻痺の原因としては、分娩時の低酸素・虚血、脳室内出血などを中心とした未熟性に起因するもの、代謝異常を含む先天異常、子宮内胎児発育遅延等が報告されているが、原因不明の症例も存在し、その割合は全症例の8%と報告する文献もある(甲B10〔67〕、甲B11〔1134〕、甲B12〔1215〕)。


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