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医学的知見 急速遂娩(吸引分娩,鉗子分娩,帝王切開)

<H18. 9.27 岐阜地裁判決から>


  (2) 証拠(甲10,11,15,乙14,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。

   ア 分娩経過中に母体又は胎児に危険が生じ,自然分娩の進行を待って児を娩出させるのでは遅すぎる場合には,急速遂娩の方法をとるが,その具体的方法としては,吸引分娩,鉗子分娩及び帝王切開がある。娩出方法の選択は,各方法に要する時間のみではなく,それぞれの分娩方法の要約が充たされているかどうかが判断基準となる。

   イ 吸引分娩の要約は,(ア)原則として子宮口が全開大していること,(イ)破水していること,(ウ)CPD(児頭骨盤不均衡)がないこと,(エ)先進部が児頭で,少なくとも骨盤濶部まで下降していること,(オ)著しい反屈位でないこと,(カ)母体の膀胱・直腸が空虚であることとされている。

   ウ 鉗子分娩の要約は,(ア)子宮口が全開大であること,(イ)CPDがないこと,(ウ)既に破水していること,(エ)児頭が鉗子適位(鉗子分娩が可能な高さまで児頭が下降している)であること,(オ)児頭が成熟に近い正常児頭であることとされている。

   エ 帝王切開の要約は,(ア)母体が手術に耐えうること,(イ)胎児が生存しており,母体外生活が可能であることとされている。

   オ 子宮口が全開大であり,吸引分娩,鉗子分娩又は帝王切開のいずれの方法も選択可能であるときは,一般に分娩までの所要時間が短いと考えられる方法を選択するのが原則とされている。また,鉗子分娩と吸引分娩とでは,鉗子分娩は娩出する確実さの点で吸引分娩に勝るが,操作には熟練を要し,産道損傷や児への損傷が起こりやすいため,両方法のいずれを選択するかについては,各方法の利点,問題点及び母体や胎児に与える影響等を考慮して方法を選択し,胎児仮死等で特に急速を要する場合は,担当医師が習熟した方法を選択すべきであるとされている。

   カ 吸引分娩において,何回まで牽引が可能であるかという明確な基準はないが,吸引失敗を繰り返すと胎児へのストレスが助長され,新生児仮死を招くことが多いため,1,2回の牽引で児頭が全く下降しない場合や,3回牽引しても児頭が娩出しない場合は,吸引分娩を中止すべきであること,特に胎児仮死の場合は,1回目の牽引で児頭が下降しなければ危険であるとされている。また,全牽引時間は10分又は15分以内を目安とし,30分近くに及ぶと児へ悪影響を及ぼす可能性が高まるとされている。そして,重症胎児仮死状態の場合には,直ちに児を娩出させなければならず,数回の吸引分娩等のストレスで児の状態は急速に悪化することが予想されるため,帝王切開を行うよりも明らかに短時間で,しかも,1回の吸引で確実に娩出可能な場合にのみ吸引分娩を行い,それ以外の場合には,直ちに帝王切開の準備を開始し,即刻帝王切開を開始しなければならないという指摘もある。

   キ 吸引分娩とクリステレル圧出法の併用については,やむを得ない場合もあるが,併用可能であるのは胎児予備能が十分にある成熟児だけで,胎児仮死例等では危険であること,吸引分娩とクリステレル圧出法の併用を行うにしても,1,2回で娩出できない場合はみだりに繰り返し行うべきではないとされている。
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