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医学的知見 産科出血、輸液、輸血

<H19. 3.27 東京高裁判決から>

  (4) 医学的知見

 ア 輸液について(甲B1,5,8,9,17,乙B24)
 (ア) 産科出血により循環血液量が減少した場合,組織間液が血管内に移動し循環血液量が維持されるが,細胞外液全体が減少するので,細胞外液を補うために輸液を行う必要がある。輸液には細胞外液用剤(乳酸化リンゲル液など)を使用するが,細胞外液は投与量の4分の3が血管外に漏出し,間質や細胞内浮腫を来すおそれがあるので,低分子デキストランなどのコロイド製剤を投与して,膠質浸透圧を維持するようにする。
 (イ) ヴィーンFは細胞外液補充剤(乳酸化リンゲル)であり,細胞外液補充剤は投与されると血管内と細胞間質に約1:3の割合で分布する。したがって,失血により減少した循環血液量を細胞外液補充剤のみで補うには,失血の3?4倍の量が必要とされている。
 (ウ) 膠質液は正常毛細血管壁を通過しない高分子量の物質を含む輸液製剤であり,血管内細胞外液の増量を図ることができる。
 (エ) 循環機能が低下している救急患者に対する輸液投与による治療目標は,@ 収縮期血圧を100mmHg以上,A 脈圧40mmHg以上,B 脈拍60?120/分 C 尿量0.75?1.5ml/kg/時,D Ht値28?48%,E CVP値3?10mmHgなどである。

 イ 輸血について(甲B1,5?7,9)
 (ア) 輸血の対応については,種々の見解がある。
 a 以前は,Hb値10g/dl,Ht値30%以下を目安としていたが,最近では輸血による合併症を考慮して,Hb値8g/dl以下と更に厳しくする傾向にある。しかしこれはあくまでも目安であって,出血の原因や止血操作が確実に行われているか,更に出血が持続する可能性があるかなど,ケース・バイ・ケースで対応すべきである(甲B1)。
 b 実際に輸血を行う場合のポイントは,出血量が2000ml以上の場合,Ht値が25%以下,あるいはHb値が8g/dl以下の場合で,出血が継続している場合や低酸素血症,血管虚脱等が存在する場合であると考えられている(甲B7)。
 c 出血量が1000mlを超えた場合には輸液だけでは有効循環血液量が維持できないことが多く,その場合には輸血が唯一最良の治療法となるとする文献がある(甲B6)。
 d 出血性ショックで循環を維持するために2000ml以上の急速輸液を必要とするときは,輸血が必須となる(甲B9)。
 (イ) 産科出血の特徴は,突発的,不測性にみられ,短時間のうちに大量の出血となり,出血性ショックに陥りやすく,そのほとんどが緊急措置を要する。したがって,出血源の診断及びその病態を速やかに的確に把握し,常に万全の準備を心掛ける必要がある。
 (ウ) 輸血を行う場合,全血,赤血球濃厚液や新鮮凍結血漿液などが用いられる。使用量は,出血量の20?50%増とされている。出血量が判らないときは,Hb値が7?10g/dl,Ht値24?30%を目標とする。
  (エ) 出血速度が遅いときは,細胞外液が血管内に移動して血液の希釈が起こるが,循環量の減少は生じない。しかし,急激な出血の時には循環量の減少を生じるものの,出血初期にはHb値やHt値は低下しない。徐々に細胞外液が血管内に移動し,その結果Hb値やHt値が低下する。その時間は比較的緩徐であり,数十分から1時間後に低下を始める。したがって,輸液を行いながら,繰り返しHb値やHt値を測定し,バイタルサインをチェックする。そして,これらにより,必要なときは輸血をする。


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