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医学的知見 産科出血、産科ショック

<H19. 3.27 東京高裁判決から>

 ウ ショックについて(甲B1?6,8,10,13,17,18,乙B4,27,29)
 (ア) ショックとは,短時間内の急激な出血により循環血液量,静脈還流量,心拍出量が減少し,急性の全身的な末梢循環不全が発生した状態をいう。出血が少量・短時間であれば,末梢組織の微小血管系の収縮という代償機構により脳や心臓などの重要臓器の血流は保持され,回復への過程を取るが,出血が増加し長時間続くと,肺,心,肝,腎,腸管などいわゆるショック臓器の機能不全を惹起し,あるいはショック増悪因子により末梢循環不全が増悪し,細胞レベルの変化,代謝異常を招き,不可逆性ショックとなる。
 なお,妊婦の場合には予備能がある。妊娠末期の場合,血液量は増加しており,非妊婦の血漿量と比べると 40?50%増加しており,細胞外液も増加している。反面,大きくなった子宮の圧迫により静脈環流が妨げられやすく,静脈圧の上昇により,末梢血管抵抗が増大する。また,妊婦の場合,凝固能の亢進などにより血栓を生じやすく,臓器障害を発生しやすいなど,不利に作用する面もあり,非妊娠時と比べてショックに陥りやすい。
 (イ) 定型的なショックの症状としては,蒼白,虚脱,冷汗,心拍数の非触知,呼吸不全のほか,低血圧,頻脈,悪心,意識混濁,出血傾向,尿量減少などである。
 (ウ) ショックの発生をうかがわせる所見としては,@ 収縮期血圧が100mmHg以下,A 脈圧30mmHg以下,B 心係数2.5l/min・m2,C 上記のショック症状,D 代謝性アシドーシス(酸性血症) base excess-7mEq/l又は血中乳酸3mMol/l以上,E時間尿量25ml以下のうちの2項目以上を満たすものとされている。
 (エ) ショックの重症度は出血量に比例する。出血量とその症状は以下のとおりであり,いずれも輸液が必要であり,B?Dでは,輸血が必要であるとの文献(甲B2,13)がある。
 a 無症状 総循環血液量の約15%(750ml)まで
 収縮期血圧正常,脈拍正常ないしやや促進(110mmHg以下),Ht値は42%以下
 b 軽症  総循環血液量の約15?25%(1250mlまで)
 収縮期血圧100?90mmHg,脈拍100?120(多少促進),Ht値は38%以下
 c 中等度 総循環血液量の約25?35%(1750mlまで)
 収縮期血圧90?60mmHg,脈拍120?140,Ht値は34%以下
 d 重症  総循環血液量の約35?45%(2250mlまで)
 収縮期血圧60?40mmHg,心拍数140以上,Ht値30%以下
 e 危篤  総循環血液量の40%(2300ml)以上
 収縮期血圧40mmHg以下,脈拍触れない,Ht値は20%以下
 出血量が正確に把握されていないときは,出血総量を推測する方法として,ショック係数(1分間の心拍数を収縮期血圧で除したもの)があり,その指数による出血量の予測は次のとおりである。その他,臨床症状やバイタルサインから推測することも可能である(甲B3,13,乙B27)。
 a ショック指数1.0 血液喪失量10?30%(1.0l)
 b       1.5      30?50%(1.5l)
 c       2.0      50?70%(2.0l)
 なお,分娩時出血は,通常は生理的に止血し,分娩時出血量(分娩中及び分娩後2時間以内の出血量)は500ml以内である(出血量を300mlとする見解もある。甲B17)。それ以上出血するとショックになる可能性が高い。
  (オ) 出血性ショックの治療は,失われた循環血液量を補うことと出血源の除去である。まずは,急速輸液により,失われた循環量を補充することが大切である。止血も重要であり,これを行わないでいくら輸液や輸血を行っても不十分であるが,止血をすればそれで足りるというものでもない。血液が失われているのであるから,それを補うために輸液や輸血を行うべきであり,循環状態が回復するまで,ないしはショック状態から回復するまで行うべきものである。
 (カ) 出血性ショックが重篤な経過をたどるのは,初期治療が速やかに行われなかった場合が多い。輸液を十分に行い,タイミングを失することなく治療をすれば,原因疾患の除去又は回復が可能なことが多いので,予後も良いことが多い。


<H19. 3.16 東京地裁判決から>

  (2) 産科ショック
   ア ショックとは、急性末梢循環不全の状態を意味し、産科ショックとは、広義には偶発合併症によるものを含め、妊産婦がショック状態に陥った場合すべてをいうが、一般的には妊娠若しくは分娩に伴って発生した病的状態に起因するショックをいう。
 ショックは、その原因から、循環血液減少性ショック、心原性ショック、神経原性ショック、敗血症性ショックに分類される。産科ショックのうち90%は出血による循環血液減少性ショックであり、その半数は弛緩出血が原因であると報告されている(甲B5〔776〕、乙B2〔178〕)。
   イ ショックの治療方針としては、救急処置のABCが必要とされている。ABCとは、気道確保(Airway)、呼吸管理(Breath)、循環の管理(Circulate)、薬物治療(Drugs)、心電図(ECG)、除細動(Fibrillation treatment)、評価(Gauge)、低体温療法(Hypothermia)、集中管理(ICU)であり、以上の順に救急措置を行うことが原則とされている(乙B2〔182〕、O〔76、77〕)。
   ウ 産科ショックの場合の輸液及び輸血については、出血量の2ないし3倍のリンゲル液投与を念頭におき、出血量が500mlないし1000mlとなれば代用血漿(低分子デキストランなど)を使用し、1500ml以上となれば輸血を考えるのが妥当であるとする文献がある(乙B2〔182〕)。
 また、分娩時出血が500ml以内のときは基本の輸液500mlで終了するが、出血が500ml以上になったときはさらに細胞外液と子宮収縮剤を投与する、1000mlを超えたときはバイタルサインや尿量に注意しつつ安静を保つ、一般には出血量が1000mlを超えると輸血を考慮するが、妊産婦においては循環血漿量が増加しているため1000mlの出血では血圧低下や尿量減少が起こることはほとんどない、出血が1500ml以上となるときは輸血を考慮して検査を開始する、とする文献がある(乙B4〔675〕)。


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