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医学的知見 羊水塞栓症

<H19. 3.27 東京高裁判決から>

 エ 羊水塞栓症について(甲B2?4,6,14,乙B1?3,7,8,10,13,15?18,20,26,27,29,30)

 (ア) 羊水塞栓症とは,羊水及び胎児成分が母体血中へ流入することによって引き起こされる肺毛細血管の閉塞を原因とする肺高血圧症と,それによる呼吸循環不全を病態とする疾患である。
 その発症頻度は6?8万分娩例に1例とも,2?3万分娩に1例とも報告されている。発症した場合には,母体死亡率は60?80%と高率である。特に,発症後1時間以内に死亡する例が50?65%であり,24時間以内には92%が死亡するとの報告もある(乙B10)。

 (イ) 羊水塞栓症の発症には,羊水が母体血中へ流入することが必須条件であるが,羊水が流入したからといって必ず羊水塞栓症になるとの確証はない。むしろ,発症しない例の方がほとんどであるといわれている。
 流入した羊水成分は,静脈系,右房,右室,肺動脈を経て肺内の小血管に機械的閉塞を来すとともに,組織トロンボプラスチンなどのケミカルメディエーターが肺血管の攣縮,血小板・白血球・補体の活性化,血管内皮障害,血管内凝固などを来し,肺高血圧症,急性肺性心,左心不全,ショック,DICなどを引き起こすといわれているが,発症機序は明らかではない。発症原因に関して,アナフィラキシーショック説,肺血管攣縮説,血管内血液凝固による肺血栓説などが考えられているものの,いまだ定説はないとされており,発症原因が複数個考えられると指摘する文献(甲B4)も存在する。

 (ウ) 羊水塞栓症の発症年齢は,若年妊娠よりも高年妊娠に,初産婦に比較して経産婦に,また分娩誘発例に多いとされている。

  (エ) 羊水塞栓症の典型的な症状は,分娩中あるいは分娩後の呼吸困難と血圧の低下であり,重篤なものは引き続き痙攣,呼吸停止,心停止に至るものが従来から指摘されていたが(古典的羊水塞栓症),それとは別に,初期症状としてDICによる大量の子宮出血と軽度の呼吸困難とが現れるものもある(強出血タイプ羊水塞栓症)。
 前者(古典的羊水塞栓症)の場合,羊水塞栓症は,肺血管の閉塞による急性肺高血圧を引き起こすため,羊水塞栓症に罹患した患者は,肺循環不全による急速な呼吸障害に陥る。さらに,肺高血圧症の結果として,肺動脈の上昇,右室の拡大等の右心負荷所見が観察されるほか,肺に,著名な水疱音を伴う肺水腫が急速に進行する。そのため,肺は次第に浮腫性浸潤を呈するに至る。これらの所見は,X線やCT写真,心エコー検査などにより確認されることが多い。また,肺高血圧症による呼吸循環障害は,肺の換気能不全を生じるため,動脈血ガス分析では,PaO2の低下,PaCO2の上昇がみられる。
(続く)

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