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医学的知見 頭部分娩外傷、頭蓋内圧亢進

<H19. 3.29 東京地裁 判決から>

  (7) 本件に関連する医学的知見

   ア 頭部分娩外傷
 頭部は最も分娩外傷を受けやすい部位といわれているところ,頭蓋内出血による頭蓋内圧亢進により生命維持に必須の中枢が破壊されることがあり,その場合は死亡率も高くなる。頭部分娩外傷の頻度は,size, space, forceの調和が保たれていない分娩の場合では上昇し,例えば頭部の形状が短時間で急激に変化を受けるような高位鉗子分娩等の過程では危険性が上昇するといわれている(段階的な内圧の上昇には耐えることができる硬膜も,突発的な加圧に際しては断裂してしまうことがある。)。
 なお,頭部分娩外傷として臨床上現れる症状としては下記のものがある。
 (甲B4,5,12,13,乙B6,12)

    (ア) 産瘤(甲B5,7)
 胎児の先進部は通常浮腫状であるところ,頭部は頸管開大部に直面する部分を除き子宮壁に密着しているため,該部の皮下組織にうっ血あるいは滲出液が貯留することになり,これを産瘤という。顔面位では眼瞼,両頬,鼻部,口唇までに広汎に皮下浮腫と点状出血が見られる。一般には数日内で消失する。

    (イ) 頭血腫及び帽状腱膜下血腫(甲B4,5,7,12,13,乙B12)
 @ 頭血腫
 頭血腫は,児が産道を通過する際に受ける外力により頭蓋骨の骨膜が一部剥離して生じる骨膜下血腫であり,鉗子や吸引分娩によっても骨膜下血管の破綻を来たし血腫となることがあるが,自然分娩でも生じることがある。骨膜下血腫であるため,骨縫合を超えて血腫が広がることはない。骨膜下出血は徐々に進行するので娩出後数時間してから発見されることが普通である。予後は良好で通常は2,3か月で自然に吸収される。
 A 帽状腱膜下血腫
 帽状腱膜下血腫は,骨膜とその直上を被う帽状腱膜との間の出血であるところ,骨膜と帽状腱膜の間の疎性結合組織はずれやすく血管も豊富であるため,骨縫合部軟骨の断裂や導出動脈自体の牽引性断裂で出血して発症するとされている。発生頻度は,全出生時の1%未満で,多くは吸引分娩で生じるとされているが,鉗子分娩などで頭部に強い外力が働いた場合に生じることもあり,また,自然分娩の場合にも発症することがある。
 帽状腱膜下に血腫が形成されるため,骨縫合部を超えて頭皮下全体に血腫が拡がりやすく,その場合は境界,腫脹及び波動は不明瞭である場合が多い。顔面などに浮腫を伴い,高度な場合は指圧痕を認めたり貧血を起こしてショック状態となり,DIC(播種性血管内凝固症候群)を合併することもある。治療は,ビタミンK2シロップの使用が挙げられるが,出血性ショックの徴候があれば集中治療を開始するとされている。なお,帽状腱膜下血腫のような頭血腫が生じた症例の4分の1に線状骨折を認めたとの報告もある。

    (ウ) 頭蓋内出血(甲B4ないし7,9,12,13,乙B1,2の1・2,3,4,11,12)
 頭蓋内出血は,頭蓋腔の主たる静脈や洞の裂傷から起こり,硬膜外,硬膜下,くも膜下及び脳室内出血が代表的である。
 硬膜下,硬膜外出血は,頭部の過度の変形が因子と考えられており,産道を通過する際や高位鉗子分娩によって頭蓋骨に対して急激な応力が働いて生じるとされている。成熟児で鉗子分娩や吸引分娩を受けた児に多いと考えられているが,最近は,出生前から見られる例もあり,自然分娩でも起こるとされている。
 硬膜外出血は,主として分娩外傷により頭蓋骨骨折(線状骨折と陥没骨折がある。)を伴って生じ,他方,硬膜下出血は,大脳表面の静脈(テント上では上大脳静脈,テント下,下矢状洞では小脳静脈等)が断裂して破綻し,硬膜下に出血をきたす状態をいうが,出生前に発生する場合もあるので分娩外傷を必ずしも示唆しないという意見もある。
 硬膜下血腫は,瞳孔の左右不同やショック症状を呈する場合に疑われ,直ちにCT検査と血液検査を実施するとされている。少量の硬膜下出血はMRI検査では確認しやすいが,CT検査では静脈洞のうっ血と鑑別が困難なことも多い。少量では無症状又はあっても易刺激性などの軽微な症状で,経過の注意深い観察を行う。出血量が多いと,大脳皮質や脳神経の圧迫による症状や,貧血,ショック,頭蓋内圧亢進症状が現れる。症状によって,呼吸循環の全身管理,頭蓋内圧亢進や痙攣に対する薬物治療に加えて,外科的血腫除去術を行う。その予防は,吸引,鉗子分娩に際して頭蓋骨に急激な圧が加わらないように誘導することであるが,上記分娩機序をたどった出生時全例について生後の注意が必要である。
 硬膜下血腫を生じ,それによって最終的に重篤な症状が発症した症例の多くは,娩出後に一見正常な状態がしばらく続き,生後1ないし24時間経過すると,なんとなく不穏状態となり高音で啼泣し,前額部にしわが寄り,両目を大きく見開いて一点を凝視しているような印象を与える。更に進展すると四肢を激しく動かして大泉門の緊張が亢進し,嘔吐や半身麻痺,四肢の運動減弱等の頭蓋内圧亢進に伴う神経症状が見られ,また,失血による急性貧血症状が見られることもあり,やがて痙攣(間代性痙攣,強直性痙攣(通常全身性で四肢が強直性伸展位をとり,ときに上肢は屈曲,下肢は伸展して除皮質様肢位をとることもある。しばしば,眼球偏位,時に間代性痙攣,無呼吸発作を伴う。)のほか,微細発作として無呼吸発作,咀嚼様運動,ペダルこぎ様運動等),麻痺,筋緊張の低下,皮膚色蒼白,頻脈,血圧低下,発熱等が見られるようになり,チアノーゼを伴う無呼吸の時期が漸増して死に至るとされている。モロー反射は初期に亢進し,やがて減退し,消失する。
   イ 頭蓋内圧亢進(甲B16)
 頭蓋内は,頭蓋骨に囲まれた一定容積の閉鎖腔であり,通常は腔内の脳,血液,髄液の相互的変化によって腔内圧を一定に保っているが,腔内に他の占拠物(血腫等)が生じたときや病変により脳浮腫を来した場合等には頭蓋内圧亢進を来す。
 頭蓋内圧が亢進して脳灌流圧が減少すると,脳血管抵抗,脳血流が減少し,脳血管床が増大し(すなわち脳内静脈系に血液が貯留してしまう。),更に頭蓋内圧が上昇すると脳への血流が阻害されるようになり,呼吸障害,低酸素症により代謝性アシドーシスとなり,急速に急性脳腫脹に移行して,更に頭蓋内圧が亢進するという悪循環を来す。
 小児では軽微な頭部外傷で脳循環の自己調節機構が消失し,血管床が増大して頭蓋内圧亢進を来すことがあるという意見もある。

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