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医学的知見 分娩、鉗子分娩

<H19. 3.29 東京地裁 判決から>

   エ 分娩(甲B17,21,22,弁論の全趣旨)
 分娩に際し,胎児は回旋運動しながら産道を下降し通過する。
 産道内における児頭の下降度は,通常「station」で表され,児頭先端が骨盤の坐骨棘間線まで下降した状態を「station0」と表記し,児頭先端部が坐骨棘間線よりも上方にある場合は,その解離距離(cm)に応じて「station−1」,「station−2」のように,逆に,児頭先端部が坐骨棘間線よりも下方にある場合は,「station+1」,「station+2」のように表記される。
 正常分娩第1回旋で児の頤部が胸部に接近し,後頭部が先進する。これに対し,頤部が胸部から離れて後頭が後ろに反り返った状態を反屈位と呼ぶ。正常分娩第2回旋では児の後頭が母体前方に回旋するが,これと逆に母体後方に回旋した場合を後方後頭位と呼ぶ。
 反屈位については,反屈の程度により@頭頂位(屈位と反屈位の中間で大小泉門の中間が先進。),A前頭位(大泉門が先進。通過面は児頭前後径周囲。),B 額位(額部が先進。通過面は児頭大斜径周囲。),C顔位(顔面が先進。通過面は頤下大泉門周囲径。)の4種類に分類される。
 前方前頂位は,大部分は,娩出時には正常の前方後頭位になるが,時に後方後頭位になる。

   オ 鉗子分娩術(甲B11,14,17ないし20)

    (ア) 鉗子分娩術は,産科鉗子で主として児頭を把握してこれを牽引する手術である。鉗子分娩の利点は,正しく鉗子を装着すれば滑脱することはなく1回の牽引で確実に児を娩出できる点にあるとされ,この点で吸引分娩よりも優れていると解されているが,鉗子手技が正しく施行されないと母体及び児に危険である。

    (イ) 現在,鉗子分娩においては「ネーゲレ鉗子」と呼ばれる適度に弾力性を持つ鋼鉄製の鉗子が用いられるのが通常である。
 ネーゲレ鉗子は,術者が左手に持って産婦骨盤の左側に挿入する左葉と右手に持って右側に挿入する右葉の2本からなり,それぞれが匙部(児頭を把握する輪状の部分で,児頭に密着させるために彎曲している。),接合部(鉗子装着後に左右の葉を交差させて牽引する際の支点となる部分),把柄部(術者が牽引の際に把持する部分。なお「鉤」と呼ばれる牽引時に術者が指を掛けるための突起様の部位が付属している。)に区分される。ネーゲレ鉗子の大きさは,左右一方について全高36cm,全幅9cmで,両葉を交差させて鉗子を閉じた状態での匙部の最大幅は7cm,先端部の幅は2cmである。

    (ウ) 鉗子分娩の適応
 鉗子分娩の適応は,(a)母体の適応として,微弱陣痛,分娩遷延,回旋異常,心疾患等による分娩第2期短縮目的等が,(b)胎児の適応として,胎児仮死又はその可能性等がそれぞれ挙げられている。

    (エ) 鉗子分娩の要約
 鉗子分娩の要約とは鉗子分娩の必要条件であり,適応があっても要約が満たさなければ鉗子分娩は行ってはならないとされている。
 具体的な要約としては,@児頭骨盤不均衡(CPD)のないこと,A児が成熟しており,児頭が一定の大きさと硬さを有していること,B子宮口が全開大していること,C既破水であること,D児頭は鉗子適位にあること(児頭が鉗子分娩を行える位置まで下降していること。具体的には,児頭が骨盤内に進入して児頭の大横経が骨盤入口を通過している状態をいう。),E児が生存していることが挙げられているが,これに加えて,F児の回旋が正しく診断されていること,G新生児の蘇生準備が整っていること,H術者が器具の特徴,使用方法を熟知していることを掲げるべきという意見もある。

    (オ) 鉗子分娩の手技(症例に応じて様々であり,以下のものは一般的な手技である。)
 @ 鉗子の挿入
  (a) 児頭が鉗子適位にある場合で,前方後頭位で児頭の矢状縫合が骨盤縦経に一致するかこれに近いときは,児頭の位置や回旋の状態を確認しながら左右の順番で匙部を膣壁内に挿入し,指掌面を児頭に密着させるが,その際,匙部先端は内手掌に沿い,児の耳殻上を横切り,目の外側を経て下顎に達する(下顎に匙部の先端を掛ける)ように装着する。
  (b) これに対し,(a)の場合より児頭がやや高い場合又は回旋異常があるときは,矢状縫合の存在するのと反対の斜径に一致させるように挿入する方法と,矢状縫合の方向に関係なく,これが縦径の場合と同様に母体骨盤の左右に鉗子を挿入する方法がある。
 A 牽引手技
 鉗子の装着が終了した場合は,一方の手を鉗子を握り,それに重ねたもう一方の点の示中2指を伸ばして児頭先進端に当て,2,3回軽く牽引して児頭が滑脱することなく鉗子とともに動くかどうか確認する(これを「試験牽引」という。)を実施し,確認できない場合は再挿入を試みる。
 試験牽引に児頭が応じたことを確認した場合には,両手で把柄部を握り(なお,左手の示指を左右両匙葉の間に挿入して挟み込むことで児頭に及ぶ圧力を軽減させることが行われている。),牽引するが,その際には強い力で牽引するよりは,正しい方向(自然分娩における児頭の下降運動に一致する方向)に牽引することに注意すべきとされている。牽引は,常に陣痛発作時に合わせて行い,徐々に力を強めていくように引き,鉗子を前後に振り動かしたり,牽引に伴わない回旋をしてはならない。腹圧が十分にかからない場合にはクリステレル圧出法を併用する。なお,回旋異常がある場合であっても,牽引に合わせて回旋が補正されることが多いとされている。
 B その他,鉗子分娩においては,可能な限り麻酔(最低限でも浸潤麻酔か陰部神経麻酔,可能なら硬膜外麻酔)を実施すべきであるとする意見もある。


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