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医学的知見 新生児仮死、新生児痙攣

<H19. 3.29 東京地裁 判決から>

   ウ 新生児仮死(低酸素虚血性脳症を含む。)及び新生児痙攣
    (ア) 新生児仮死(甲B10,25,26,乙B13,14)
  @ 新生児仮死の意義は,多義的であるが,一般には胎盤や肺におけるガス交換が障害されて,低酸素症や高炭酸ガス血症を来す病態とされている。高度になると嫌気性解糖の結果生じた乳酸が蓄積して代謝性アシドーシスを来す。新生児仮死の最大の原因は胎児仮死であり,胎児仮死の原因は,胎盤におけるガス交換の障害,子宮血流の低下,母体の低酸素や低血圧,臍帯血流障害などである。胎児仮死以外の新生児仮死の原因としては,分娩外傷など種々の要因による自発呼吸の確立の障害がある。仮死は,全身における呼吸・循環障害であり,その影響は脳,心血管系,肺,腎などに及ぶが,なかでも脳は短時間の低酸素や虚血で障害を受けやすい。新生児仮死の結果,中枢神経系の症状を示すものは低酸素性虚血性脳症と呼ばれ,その他,心筋障害,遷延性肺高血圧症,胎便吸引症候群,急性尿細管壊死などにより,呼吸・循環・腎機能不全を合併しやすい。
 単独で仮死の重症度や神経学的予後を評価できるものはないが,胎児心拍パターン,出生時のアプガースコアの低値,動脈血液ガス分析検査における高度の代謝性アシドーシス,AST(GOT),ALT(GPT),LDH,CKなどの逸脱酵素の上昇,脳波,頭部CTやMRIなどの異常所見により評価される。
 A アプガースコア
 アプガースコアは,新生児の状態を表す評価数値であり,その評価基準は,別紙4「アプガースコア評価基準」のとおりである。
 アプガースコアの合計が7点未満の場合には新生児仮死と診断される。
 もっとも,アプガースコアの採点には,主観や仮死以外の要素が入り込む余地があるため,アメリカ産婦人科学会においては,臍帯動脈血ガス分析結果を踏まえたアシドーシスの有無を評価の中心として,新生児仮死の診断基準を下記のとおりと定めている。
    記
 (a) 臍帯動脈血ガス分析で高度(pH<7.00)の代謝性アシドーシスあるいは混合性アシドーシスの状態にあること
 (b) 生後5分を超える低アプガースコア(0〜3点)
 (c) 新生児早期からの痙攣,筋緊張低下,昏睡,低酸素性脳症などの神経症状の発症
 (d) 新生児早期より多臓器不全状態を示していること
    (イ) 新生児痙攣(甲B9)
 新生児痙攣は,新生児の中枢神経系疾患の中でも最も頻度が高い。新生児痙攣は,その発作型に応じて,@微細発作(側方凝視,偏視,瞬目運動,吸啜様の口唇,頬の異常運動,四肢の異常運動,無呼吸発作等),A強直性発作(通常全身性で四肢が強直性伸展位をとり,ときに上肢は屈曲,下肢は伸展し,除皮質様肢位をとることもある。しばしば眼球偏位,時に間代性痙攣,無呼吸発作を伴う。脳室内出血に伴うことが多い。),B多焦点性間代性発作(ある四肢から他の四肢へと不規則に間代性痙攣が移行する。),C焦点性間代性発作(限局した間代性痙攣で,通常意識障害はない。脳挫傷の症状としてみられるが,新生児では代謝異常を含む脳全体の症状として発現することがある。),Dミオクローヌス発作(四肢の単一又は多発性の急速な屈曲性痙攣,ただし,極めてまれである。)に分類されている。
 新生児痙攣の原因としては,@胎児仮死等の仮死(低酸素性虚血性脳症),A代謝障害(低血糖症,低Ca血症等),B頭蓋内出血,C中枢神経感染症,D薬物中断,E脳梗塞,Fその他の原因に分類できる。
 @は,新生児痙攣の60〜65%を占めるという報告もあるが,仮死の90%は出生前より始まっているといわれていることから,胎児仮死の診断が重要である。この場合,痙攣は通常は生後24時間以内に見られることが多い。
 Bは,新生児痙攣の15〜17%に見られるという報告があり,出血部位としては硬膜下,くも膜下,脳室内,脳実質内などがあるが,硬膜下出血は分娩外傷に見られるものが最も多く,硬膜下出血を起こした新生児の50%に生後24時間以内に痙攣が出現するといわれている。
 Cは,新生児痙攣の約12%に見られ,通常周産期に感染した細菌性(大腸菌,B群溶血性連鎖球菌等)又は非細菌性(トキソプラズマ,単純ヘルペス,コクサッキーB,風疹,サイトメガロウイルス)の感染症に起因するといわれている。
 Eは,新生児痙攣の約5%に見られ,正期産児に多く,原因としては低酸素症,多血症,塞栓症,血栓症等があり,焦点性間代性発作が最も多く,生後72時間以内に出現することが多いとされている。
 新生児痙攣への治療としては,全身管理下において抗痙攣剤の投与を行って痙攣を抑制することが第一選択となるが,その際は血圧低下,呼吸抑制に注意が必要とされている。
 新生児痙攣を起こした児は,一般的に予後不良であるが,後遺症の危険は予後不良因子の組み合わされ方により一定でなく,後遺症の危険率について,低酸素性虚血性脳症について50%とする報告と80%とする報告があり,頭蓋内出血について90%とする報告と20%とする報告がある。
    (ウ) 痙攣重積(甲B27ないし29)
 一般に痙攣重積は,てんかん重積状態の一型として取り扱われるが,てんかん重積状態は,一般に,発作が切れ目なく持続しているか,あるいは意識回復のない短い断続期を繰り返している状態を指し,それが30分ないし1時間以上続くものである。
 痙攣重積においては,代謝と血流に不均衡を生じ,不可逆的な脳障害をきたす可能性がある。低酸素血症,低血糖及び局所循環障害がなくとも,過剰な神経電気的活動そのものが脳障害の原因となる。
 痙攣重積は,死に至ることがあり,生存しても重度の知的あるいは神経学的な後遺症を残すことがある。痙攣重積開始後一定時間以内では,代償作用が充分に働いてこのような脳障害は起こりにくいが,それを過ぎると代償不能となり,脳障害が重篤になりやすい。
 大部分の後遺障害は基礎疾患が原因とされるようであるが,痙攣活動そのものが原因ないし関与したと思われる後遺症もある。
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