ホーム > 医療 > 産科・メモ > |
<H20. 3. 5 東京地裁判決から> 2 医学的知見 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の医学的知見が認められる (1) 妊娠中毒症 ア 妊娠中毒症とは,妊娠に高血圧,尿蛋白,浮腫の症状が一つもしくは二つ以上見られ,かつこれらの症状が単なる妊娠偶発合併症によるものでないものと定義される(なお,現在は,妊娠中毒症との名称は産婦人科学会により「妊娠高血圧症候群」と改められており,浮腫については要件から外されている。)。 妊娠中毒症が悪化すると子宮内胎児発育遅延,胎児仮死が生じる可能性があり,特に高血圧が主体の場合には,児の周産期予後が不良なことが多い。(甲B2,3) イ 重軽症の判定基準 妊娠中毒症の重軽症の判定は以下の基準による。(甲B2) (ア) 高血圧 a 軽症 血圧が次のいずれかに該当する場合が軽症とされる @ 収縮期血圧が140mmHg以上および160mmHg未満の場合 A 妊娠により収縮期血圧に30mmHg以上の上昇があった場合 B 拡張期血圧は90mmHg以上および110mmHg未満の場合 C 妊娠により拡張期血圧に15mmHg以上の上昇があった場合 b 重症 収縮期血圧160mmHg以上もしくは拡張期血圧110mmHg以上の場合が重症とされる。 (イ) 尿蛋白 a 軽症 24時間尿でエスバッハ法またはこれに準ずる測定法(試験管法)により,30mg dl以上および200mg dl未満の蛋白が検出された場合をいう。随時尿またはペーパー試験を使用する場合には2回以上の検査を行い,連続して2回以上陽性の場合を蛋白尿陽性とする。 b 重症 24時間尿でエスバッハ法またはこれに準ずる方法により,200mg dl以上の蛋白が検出された場合をいう。随時尿またはペーパー試験を使うときには2回以上の検査を行い,連続して2回以上この値を超えた場合とする。 (ウ) 浮腫 a 軽症 指圧により頸骨稜に陥没を認め,かつこの妊娠の最近の1週間に500g以上の体重増加のあった場合をいうが,浮腫は全身に及ばない。 b 重症 全身の浮腫の場合をいう。 (エ) 重軽症の判定 軽症とは,高血圧,蛋白尿,浮腫のうち一つ以上の症状が存在するが,それらのすべてが軽症の範囲内のものをいい,重症とは,高血圧,蛋白尿,浮腫の症状のうち一つ以上の症状が重症の範囲内にあるものをいう。子癇は,軽症・重症の判断基準にかかわらず重症とする。 ウ 治療方法 治療の原則は,早期に発見して,まず安静・食事療法を行うが,安静・食事療法で症状の改善が見られない場合には薬物療法が選択される。しかし,薬物療法はあくまでも対症療法であり,根本的な治療方法ではない。胎児・胎盤が母体内に存在する限り,妊娠中毒症が本質的に改善することはないため,妊娠中毒症の治療の原則は,妊娠の中断であり,母胎の諸臓器に不可逆的な変化が起こる可能性があると判断された場合,もしくは胎児にとって子宮内環境が悪化していると判断された場合には,妊娠を速やかに中断するとされている。社団法人日本母性保護産婦人科医会(現在の日本産科婦人科医会)発行の研修ノート(甲B4)によると,妊娠中毒症が軽症であれば,母体の血圧,尿蛋白,血液検査を観察し,胎児モニタリングを行いつつ待期的に対応し,重症化したり,胎児の状態がnon reassuringになれば分娩の方針とするとされ,重症型の場合は,34週を過ぎれば分娩とするとされている。そして,妊娠中毒症における妊娠終了の適応指針として,以下の基準があげられている。(甲B2ないし4) a 母体側因子 @ 治療に抵抗して症状が不変または,増悪する場合 A 子癇,常位胎盤早期剥離,眼底出血,胸・腹水貯留,肺水腫,頭蓋内出血,HELLP症候群などの併発 B 腎機能の悪化 C 血液凝固異常の出現(血小板数10×104 μl未満,DICのスコア上昇) b 胎児側因子 @ 胎児発育停止(妊娠28週以降,2週間以上) A 胎児心拍数陣痛図(NST,CST)異常所見:non reactive,一過性徐脈,頻脈,徐脈,基線細変動の減少など B 羊水量減少,biophysical profile score(BPS)の低下 エ 分娩の方法 重症例では,母児ともに安全かつ速やかに分娩が進行すると予測される場合を除いて,最初から帝王切開が選択される。軽症例では経膣分娩を試みることになるが,分娩中しばしば血圧が上昇するため,分娩に際しては,暗く静かな環境下で血管を確保し,降圧剤,鎮静・鎮痙剤を準備し,気道確保の準備をしたうえで,厳重な監視下に行うことが必要であり,さらにいつでも帝王切開術に移れる準備も必要である。(甲B4) |
ホーム > 医療 > 産科・メモ > 医学的知見 妊娠中毒症 |