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医学的知見 妊娠中毒症

<H19. 3.16 東京地裁判決から>

 2 医学的知見

  (1) 妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)

   ア 妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)
 妊娠中毒症とは、妊娠に高血圧、蛋白尿及び浮腫の1つ若しくは2つ以上の症状がみられ、かつこれらの症状が単なる妊娠偶発合併症によるものではないものをいう(甲B3〔156、157〕)。
 なお、現在では、妊娠中毒症という概念を用いず、高血圧症を重要な兆候ととらえ、妊娠高血圧症候群と呼称している(N〔16〕、O〔42〕、弁論の全趣旨)。

   イ 重症度
 高血圧、蛋白尿及び浮腫のうち、1つ以上の症状が重症の範囲内にあるものが重症妊娠中毒症とされる。高血圧については、収縮期血圧160mmHg以上又は拡張期血圧110mmHg以上の場合が重症とされる(甲B3〔157〕、甲B6〔4〕)。

   ウ 妊娠の中断の適応
 あらゆる治療を行ったにも関わらず、母体の諸臓器に不可逆的な変化が起こると判断される場合、あるいは子宮内環境の悪化によって妊娠を継続することが胎児にとって不利な場合、妊娠の中断(ターミネーション)の適応となる。
 1990年日本産婦人科学会作成の妊娠中毒症のターミネーション適応基準によれば、母体側要因として、@入院、安静、薬物療法に抵抗して症状が不変あるいは増悪をみる場合、ことに重症高血圧(160
110mmHg以上)が2週間以上持続する場合やGI値が上昇する場合、A子癇、重症の早剥、新規の眼底出血、胸・腹水の貯留の増加、肺水腫、頭蓋内出血、HELLP症候群を認める場合、B所定の所見を総合的に判断して腎機能障害が認められる場合及びC血行動態の障害や血液凝固異常のある場合、例えば、血液濃縮症状やDICを認める場合が妊娠中断の適応となるとされている(甲B3〔161〕)。
 また、「一度重症妊娠中毒症となり、脳や眼症状、肺水腫、心窩部痛、石季肋部痛、肝機能障害、血小板減少、IUGR、Fetal distressが出現したら、妊娠週数や胎児の成熟度と関係なく妊娠継続を中止し、児の娩出方針とすべきです。」との専門医の指摘もある(甲B6〔5〕)。

   エ 分娩方式
 妊娠を中断する場合、緊急例では帝王切開が選択され、緊急でない場合、母児ともに安全かつ速やかに分娩が進行すると予測されれば経膣誘発分娩が試みられるとされる。血圧上昇及び分娩子癇などの母体への対策、胎児仮死の発症などに十分注意を払う必要があるとされている(甲B3〔160〕)。
 また、「経膣分娩か、帝王切開かの分娩様式の選択が問題になりますが、母児のリスクを考慮し、帝切を選択することが多くなっています。また分娩を遂行する例では、いつでも帝王切開ができる準備をしてのぞみ、胎児心拍数の変化、母体の血圧、全身状態に留意すべきです。」との専門医の指摘もある(甲B6〔5〕)。

   オ 分娩時の母体管理及び胎児管理
 分娩時には、収縮期及び拡張期の血圧がともに上昇するので、母体血圧のコントロールが管理の主体となるとされる。また、陣痛発来から子宮口全開大までは、降圧剤、鎮痛剤及び硬膜外麻酔によって血圧のコントロールを行うとされる。さらに、子宮口全開大後は怒責を禁じ、急速遂娩を選択するとされる(甲B3〔160〕)。
 また、妊娠中毒症では、母児ともに周産期死亡率が高く、また、子宮内胎児発育遅延(IUGR)の頻度も高いので、慎重な胎児管理が必要であるとされる(甲B3〔160〕)。


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