ホーム > 医療 > 産科・メモ >  

医学的知見 羊水塞栓症

<H19. 3.27 東京高裁判決から>

(続き)
  (オ)a 羊水塞栓症の確定診断は,死後の剖検によって肺組織中に胎児由来成分の存在が証明されたことにより初めて可能となる。剖検ができなかった事例,すなわち死亡しても剖検できなかった場合あるいは救命された事例において,羊水塞栓症と確認するための診断方法に確定したものは存在しない。
 b そこで,以下の基準を満たす場合を臨床的羊水塞栓症と判断して,羊水塞栓症のニアミス事例ととらえる見解がある(この基準は,羊水成分には触れられてはいない。また,これに該当するような患者が存在するかどうかの確認はできていないともいう(甲B21)。)。
 (a) 妊娠中又は分娩後12時間以内の発症
 (b) 下記に示した症状・疾患(1つ又はそれ以上でも可)に対して集中的な医学的治療が行われた場合
 @ 心停止
 A 分娩後2時間以内の原因不明の大量出血(1500ml以上)
 B DIC
 C 呼吸不全
 (c) 観察された所見や症状が他の疾患で説明できない場合
 c 他方において,臨床的羊水塞栓症につき,別の基準を挙げる見解もある。その見解は以下の基準を掲げる(乙B20)。
 (a) 臨床所見
 @ 急激な血圧下降又は心停止
 A 急激な低酸素(呼吸困難,チアノーゼ,呼吸停止)
 B 原因不明の産科DICあるいは大量出血
 C 上記症状が分娩中,帝王切開時,D&C時,分娩後30分以内に発生
 (b) 母体への羊水の流入の証明
 @ 剖検における肺組織中の羊水成分の証明(扁平上皮,毛毳,胎脂,ムチン,胆汁様物質など)
 A 母体血スメアによる羊水成分の証明(できれば右心静脈血)
 B 母体血中STN高値
 C 母体血中Zn-CP高値
 d アメリカでは,分娩後30分以内に,急激な心停止や呼吸停止を生じるとき,を要件としている(甲B4)。

  (カ)a Zn-CPとSTNは母体血中には少なく,羊水中に存在する特異物質で,ともに胎便中に排泄される。これらは母体血中への羊水流入を直接証明する方法といえるので,羊水塞栓症の補助診断として利用されている。しかし,これらは,羊水塞栓症の原因物質ではなく,羊水塞栓症例においてもこの両者の値は必ずしも相関するとはいえない。
 b 他方で,これらの物質は補助診断にも利用すべきでないとの見解もある。
 (a) 羊水塞栓症ではなくても,ショックの強い症例や重症妊娠中毒症の症例ではZn-CP値が高値を示す傾向がある。
  (b) 妊産婦ではない者の中からも胎児由来成分と同様の扁平上皮,角質物質を検出できたとの報告があり,この結果,羊水塞栓症に極めて類似した臨床症状を呈する患者で本検査を実施した場合には誤診に導くとして,そのような検査を行うことを否定する考え方がある(乙B10)。
 (c) カテーテル挿入の際,高頻度で母体の扁平上皮が混入するといわれており,その評価には注意を払うべきであるとの見解がある(乙B20)。

  (キ) 羊水塞栓症では,X線やCTの写真で特異的所見が得られるとは限らない。しかし,DICを併発するために,胸部X写真では,血管透過性亢進により肺水腫像が認められる。そして,病態の進行とともに,肺紋理の増強,スリガラス状陰影,雲状陰影を呈する。その他,心陰影の拡大,肺門部肺動脈の拡大と陰影の増強,肺血管区域陰影の増強,横隔膜挙上,(片側性)胸水浸潤像,無気肺を呈する(乙B12)。

 (ク) 羊水塞栓症の発症前,発症直後及びその後における検査所見は,以下のとおりである(乙B18)。
 a 白血球 発症前は正常であるが,発症後は増加傾向を示す。
 b Hb 発症直後に著しい低下をみる。
 c Ht 発症後一貫して低下する。
 d LDH 発症直後に極端な高値を示す。
 e GOT 発症前に軽度上昇し,発症直後に高値を示す。
 f GPT 発症前に軽度上昇し,発症直後から上昇する。
 g PaO2 発症直後に低下する。
 h PaCO2 発症直後から持続して上昇する。
 i PH 発症直後から持続して低下する。
 オ DIC(播種性血管内凝固症候群)について(甲B2,3,14,17,乙B29,31)
  DICとは,本来は凝血が起こらないはずの血管内において凝固機転の亢進が起こり,全身の微小血管内に多数の血栓が形成される症候群である。血栓の形成により凝固因子が消費され消費性凝固障害となる一方,この血栓を溶解する機序が加わって出血傾向が出現し,さらには病的状態が相まって,臓器に重篤な障害をもたらす。出血した血液はサラサラしており,凝固しにくいのが特徴である。
 予後は不良であるので,不可逆的な状態になる前に早期に適切な治療を行う必要がある。


タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 医療 > 産科・メモ > 医学的知見 羊水塞栓症