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進行胃癌(胃がん)

【平成20年 9月11日 東京地裁 判決 <平19(ワ)17135号>
 請求棄却
 事案の概要: 平成10年4月13日から、被告の開設する病院の呼吸器内科の医師の外来診療をおよそ1か月に1度程度継続的に受診してきたところ、平成 18年3月30日に上記病院の消化器内科で受診し、同年4月8日に胃癌の確定診断を受け、同年6月2日に死亡した亡D(死亡当時85歳の女性)の相続人である原告らが、亡Dが死亡したのは、被告病院呼吸器内科の医師において、亡Dが胃腸の癌の早期発見を再三依頼し、また平成17年夏ころからは胃部の変調も訴えていたにもかかわらず、胃癌の早期発見に必要な胃X線検査などの実施を怠ったためであるなどとして、被告に対し、診療契約の債務不履行ないし不法行為に基づき、それぞれ2488万0329円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案
 出典
 裁判所サイト
 ウエストロー・ジャパン】から


 1 本件に関係する医学的知見
 証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,本件に関係する以下の医学的知見が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

  (1) 進行胃癌について

   ア 進行胃癌の定義及び分類
 (ア) 早期胃癌と進行胃癌(乙B1・8枚目,乙B2・864頁)
 胃癌は,癌の浸潤の程度(深達度)により,早期胃癌と進行胃癌に分類される。早期胃癌は癌の浸潤が粘膜および粘膜下層に限局する病変を指し,リンパ節転移の有無を問わないと定義される。一方,進行胃癌は固有筋層以下(固有筋層,漿膜下層,漿膜層,漿膜外層)に癌が浸潤しているものと定義される。肉眼的な分類としては,早期胃癌の分類(日本消化器内視鏡学会分類)と進行胃癌の分類(Borrmann分類)を通常用いている。
 (イ) 進行胃癌の分類(Borrmann分類)(乙B2・864頁右上の図18.64,乙B3・2512頁)
  @ 1型(限局隆起型) 胃内腔に限局性に突出した形態で,表面に潰瘍を伴わない。境界は鮮明である。
  A 2型(限局潰瘍型) 潰瘍を形成しており,周囲に周堤を形成するもの。境界は鮮明である。
  B 3型(潰瘍浸潤型) 潰瘍を形成し,周囲に周堤を形成しているが,周堤の一部もしくは大部分がくずれており,周囲に癌がびまん性に浸潤している。周囲との境界は不鮮明である。
  C 4型(びまん性浸潤型) 癌がびまん性に胃壁内を浸潤する型で,境界は不鮮明である。4型の大多数が,間質結合組織の増生の強い硬性癌である。なお,4型は「胃スキルス」とほぼ同義語として用いられている。

   イ 胃癌の症状
 (ア) 臨床症状
 胃癌の臨床症状を記載した文献として,以下のようなものがある。
  @ 胃癌に特有な症状はない。癌の発生部位により特有な臨床症状の出現がある場合もあるが,一般に早期胃癌では臨床症状に乏しい。癌の進展・増大にしたがって種々の症状が出現してくるが,上腹部痛・不快感,悪心・嘔吐,上腹部膨満感などの症状から胃癌を推定することはほとんどできない。
 進行癌であれば,その発生部位よりある程度の類推が可能であるが,絶対的ではない。たとえば噴門部や幽門部の進行癌であれば,形態学的に狭い部位であるので容易に食物の通過障害を起こす。嚥下困難や嚥下痛は噴門部癌を,上腹部膨満感や嘔吐が強い場合には幽門部癌を疑う。消化管出血は,ほぼ50パーセント以上は消化性潰瘍からの出血であるが,その6〜8パーセントに胃癌よりの出血が含まれているので,診断及び治療に留意する必要がある(乙B2・865頁,866頁)。
  A 胃癌は,その進行の程度にかかわらず,症状が全くない場合もある。逆に,早い段階から胃痛,胸焼け,黒い便がみられることもある。これらの症状は胃炎や胃潰瘍などにもみられる(乙B1・4枚目)。
 (イ) 身体所見(乙B2・866頁)
 進行癌では,ときに腫瘤を触れる場合もある。腹膜転移を起こした場合には腹水がみられることがある。末期には,貧血,るいそう,リンパ節転移を起こす。

   ウ 胃癌の診断方法
 胃癌の存在診断はX線検査および内視鏡検査によってなされ,確定診断には内視鏡直視下生検が必要である(甲B4・71頁,乙A8・5頁,乙B1・6頁,乙B2・867頁)。癌の広がり(浸潤,転移など)の診断には,X線検査,超音波内視鏡検査,腹部超音波検査,CT検査等があり,これによって病期を判定して,治療方法を決定する(乙B1・6頁,8頁,乙B2・868頁)。
 (ア) X線検査
 存在診断を目的としたルーチン検査と,病変の存在を知った上で質的診断を目的とした精密検査とがある(甲B4・71頁)。
 胃X線検査では,検査前に飲むバリウム(造影剤)によって,検査後に便秘を生じる場合があり,さらにイレウス(腸閉塞)を生じる危険性も高まる。このため,特に高齢者に対して胃X線検査を行うに当たっては,注意が必要である(乙A8・5頁,乙B1・1枚目,証人E26頁)。
  @ ルーチン検査
 胃癌の存在診断については,効果があると判定されている検査は胃X線検査であるとする見解(乙B1・1枚目)があるが,他方で,X線検査よりも内視鏡検査が優れており,ルーチン検査としてのX線検査は検診や人間ドック以外で行われることは少なくなっているとする見解もある。しかし,後者の見解でも,内視鏡検査では病変の見逃しのチェックが困難であり,X線検査が有利な場合もあるとされている。特に,びまん性浸潤型胃癌(4型,スキルス)は,内視鏡ではときに見逃されることがあるが,X線診断は比較的容易である(甲B4・71頁,証人E24頁)。
  A 精密検査
 病変の部位,大きさ,肉眼形態,浸潤範囲および深達度を求めることを目的として行う。これらの胃癌の質的診断については,内視鏡検査よりもX線検査の方が客観性が高く,微小病変を除けば,現在でも胃癌の治療法の決定のために必要不可欠な検査である(甲B4・71頁,72頁)。
 (イ) 内視鏡検査
 内視鏡検査の利点は,色調を観察できる点と生検で組織を確認できる点であり,微小病変の発見能においては,X線検査を凌駕している(甲B4・72頁)。
 胃内視鏡検査では,検査前における鎮痙剤(胃の動きを抑える薬剤)の注射や麻酔によるショックが生じることがあるほか,出血や穿孔(胃の粘膜に穴を開けてしまうこと)といった事故が生じる危険性がある(乙A8・5頁,乙B1・1枚目,証人E32頁)。
 (ウ) 内視鏡的直視下生検法
 内視鏡下に病変部より組織標本を採取(生検)することにより確定診断ができる(乙B2・867頁,868頁)。
 (エ) 超音波内視鏡検査
 癌の深達度の推定に有用な検査方法である(乙B2・868頁)。
 (オ) 腹部超音波検査,CT検査
 癌の転移や周囲臓器への浸潤,リンパ節転移などの検索に有用な検査法である(乙B1・7枚目,乙B2・868頁)。

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