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腸閉塞(イレウス) 分類、診断

【平成20年 7月31日 東京地裁 判決 <平17(ワ)22829号>
 請求棄却
 要旨
 被告が経営する病院を受診し、腸閉塞の疑いがあると診断され開腹手術を受けて退院した原告が、保存的療法により腸閉塞が解消されていたのであるから開腹手術は不必要であったもので、その結果重症のヘルニアを発症したなどとして、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、原告を担当した医師は、原告の病状の改善傾向の判断指標の状況を総合的に検討して改善傾向は認めるには至らないと判断したもので、同判断は十分根拠のあるものであり、説明義務違反も認められないなどとして原告の請求を棄却した事例
 出典
 ウエストロー・ジャパン】から

 2 イレウスに関する医学的知見について
 証拠(該当箇所に示す。)によれば,以下の医学的知見が認められる。

  (1) イレウスの概念と分類について(甲B1,甲B5,乙B1,乙B3,乙B4,乙B6)
   ア 概念
 腸閉塞(イレウス)とは,様々な要因により腸管内容の通過障害を起こし,諸症状を呈する病態の総称である。腹痛,嘔吐,排便・排ガス停止,腹部膨満を特徴的な症状とするが,病態によって多彩な症状を示す。

   イ 分類
 イレウスは,概ね以下のように分類される。
 (ア) 機械的イレウス 腸管の物理的閉塞・狭窄によるもの。
  a 単純性イレウス(閉塞性イレウス) 血行障害を伴わないもの。
 なお,単純性イレウスのうち,「手術操作,腹膜炎,腹部外傷などが原因で癒着が起こり,それに伴う腸管の屈曲や索状物の出現によって腸管が圧迫されて通過障害を生じるもの」を特に,癒着性イレウスという(甲B5,乙B6,弁論の全趣旨)。
 単純性イレウスは,腹腔内癒着,腹腔内腫瘍による圧迫といった腸管外の病変による閉塞でも生じる(乙B5)。癒着性イレウスは,腹部手術後に起きる術後イレウスが大部分であるが,手術後すぐに起きる症例や年単位の経過の後に起こす症例もある。また,手術歴がなくても,虫垂炎や胆嚢炎などが原因で炎症性癒着を生じてイレウスの原因となるものもある(乙B6)。
  b 絞扼性イレウス 血行障害を伴うもの。

 (イ) 機能的イレウス 腸管運動の障害によるもの。
  a 麻痺性イレウス 腸管蠕動運動の低下によるもの。
  b 痙攣性イレウス 腸管の持続性痙攣によるもの。

   ウ イレウスは小腸及び大腸いずれにも起こりうる病態であるが,診断及び治療面では小腸イレウスと大腸イレウスを分けて考えるのが実際的である。小腸イレウスは,大腸イレウスよりも症例が多く,小腸イレウスの中では,単純性イレウス,とりわけ癒着性イレウスが大部分である(甲B4・729頁,乙B7・729頁)。

   エ 機械的イレウスのうち,小腸の閉塞について,重度の便秘は完全な閉塞で起こるが,閉塞が部分的である場合は下痢が起こることもある(乙B9)。

   オ 腸閉塞による全身状態の悪化
 腸管の閉塞が起きると,それより口側の腸管は通過障害のため拡張し,腸液やガスが充満する。腸内容の貯留により腸内圧が亢進すると,腸管壁の血管が圧迫され血行障害を起こし,腸管は浮腫状となり,腸液やガスなどの吸収が障害される(乙B3・3頁)。

   カ 腸閉塞時に腸管内に貯留するガスの大部分は嚥下した空気に由来する。そのほかに,細菌によるセルロースの発酵によって生ずるCO2,H2や,血液からの腸管内への拡散によって発生するガスなどもあるが,いずれもわずかなものと考えられる(甲B6・247頁)。

  (2) イレウスの診断方法について
   ア 既往歴
 腹部手術や外傷の有無,腹腔内炎症性疾患の既往などを詳細に聴取する(乙B6)。

   イ 症状・所見
 (ア) 全身状態
 バイタルサイン,脱水の有無をチェックする(乙B6)。

 (イ) 腹部所見
 腹痛,嘔吐,排ガス・排便の停止が三徴である。単純性イレウスでは,腹部膨満,腸蠕動の亢進を認め,時には有響性雑音を聴診することもある。また腹膜刺激症状を認めず圧痛は軽度であることが多い(乙B6)。
 単純性イレウスは,緩徐に始まる周期的な腹痛や嘔吐,排便や排ガスの停止,腹部膨満感を呈する。症状が進行すると脱水症状も出てくる。一方,絞扼性イレウスの発症は急激で,激烈かつ持続的な腹痛をきたしショックに陥ることもまれではない(甲B6,乙B4)。

 (ウ) 臨床検査所見
  @ 一般検査
 血液一般検査,生化学検査,尿検査,心電図,動脈血ガス分析,出血凝固検査は,イレウスの原疾患の推定と全身状態の把握のために必要である(乙B6)。
  A X線検査
   a 腹部単純X線撮影はイレウスを診断するうえで,最も重要な検査である(乙B5,乙B6)。立位,臥位,時に側臥位を加えて撮影する(乙B6)。
 胃,大腸(特に結腸の部分)のガス像は正常でも認められるものであり(乙B6・354頁),その存在だけで病的評価はなし得ない(被告Y2本人3頁,弁論の趣旨)。これに対して,通常,正常人(成人)では小腸ガスは認められないものであり,仮に認められてもごくわずかである(甲B5・811頁,812頁,甲B6・249頁,乙A12・3頁,被告Y2本人2頁)。
 また,イレウスの発症により,拡張した小腸ガス像が形成されることが多い(甲B6・249頁)。小腸ガス像の存在は,狭窄部位が,そのガス像があるところよりも肛門側にあることを示す(被告Y2本人12頁,弁論の全趣旨)。
   b 腹部単純X線写真については,立位におけるニボーと臥位における拡張した小腸ガス像が閉塞性イレウスの特徴的所見である。ただし,上部小腸イレウスや絞扼性イレウスでは必ずしも拡張ガス像は明らかでない症例もある。また,腸管内容が多量に貯留している場合にはガス像自体は少量のこともある(乙B7・731頁,甲B4・731頁)。

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