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腸閉塞(イレウス) 手術適応

前掲【平成20年 7月31日 東京地裁 判決 <平17(ワ)22829号>
   出典
   ウエストロー・ジャパン】から

 (2) 癒着性イレウスを含む単純性イレウスの患者の手術適応に関する見解を表明した文献として,次のようなものがある。
  ア 単純性イレウスは大部分,保存的療法によって治療可能である。しかし,単純性イレウスから絞扼性イレウスに移行する例もあることを念頭におく必要がある。保存的療法の無効な症例は手術適応となる。
 単純性イレウスの手術適応に絶対的基準を設けることは困難であるが,減圧療法後においても閉塞が持続する症例では手術をするべきである。手術適応の規準となる因子としては,@排ガスの有無,腹部膨満の程度,A減圧吸引量の変化,B腹部単純X線写真上の小腸・大腸ガス像の所見,Cイレウス管の進行状態,D造影検査などがある。近年,より早期に手術適応を判断する傾向にあり,7日間は待機期間の限界と思われる(乙B7・732頁,甲B4・732頁)。
  イ 4日〜7日保存的治療を行っても,
 @ 腹痛,腹部膨満などの症状が改善せず,排ガス,排便がない。
 A 腹部X線で小腸ガスの減少や消失がない。
 B 胃管やイレウス管からの排液量が減少しない。
 C イレウス管からの造影で,腸管が完全に閉塞している。
 などの場合は,治る見込みは少ないと判断できるので,手術適応と考えてよい(乙B3・5頁)。
  ウ 保存的治療が奏効する症例では,4日以内に改善が認められることが多く,遅い例では7日〜14日である。したがって,4日を目安に保存的治療を継続し,以下に示す指標の改善が全く認められないか,または少しでも悪化する例では手術に踏み切るべきである。
 しかし,少なくとも悪化の徴候がなく,少しでも改善のみられる例ではIVHによる栄養管理のものに,10日前後保存的治療を継続してよい。この間,時機をみてイレウス管からの造影を行い,高度の狭窄あるいは閉塞が確認されれば手術に踏み切る(甲B6・253頁〜255頁)。
 〈保存的治療による改善の指標〉
 @ 腹部膨満,腹痛などの臨床症状が改善する。あるいは排ガス・排便がある。
 A 腹部X線単純写真上の所見が改善する。ガス像の分布の変化,ガス像の減少,小腸ガス像の大腸への移行など。
 B イレウス管(または胃管)からの吸引量が減少する。ただし,イレウス管が腸管の屈曲などで進行が停止し,効果的な吸引が行われなくなったことを示す場合もあり,イレウス管の進行が停止した場合は,必ずその時点で造影を行う。
 C イレウス管からの造影で,造影剤が大腸へ移行する(甲B6・255頁)。
  エ 術後の癒着性イレウスでも,1週間以上の保存的療法にて軽快が認められない場合や,頻回にイレウスを繰り返す場合は,手術による癒着剥離を考慮する(甲B1・110頁)。
  オ 豊橋市民病院外科が作成した術後癒着性腸閉塞の保存的治療に関する調査結果(乙B8)には,以下の記載がある。
 (ア) 欧米では,胃管(ショートチューブ)を留置し,48時間保存的治療をするのが一般的とされているが,日本では,イレウス管を留置し,7日から10日保存的治療をするのが一般的とされている(23頁)。
 (イ) 平成13年4月から平成14年3月までの1年間に140人の術後癒着性腸閉塞患者(研究群)に対して胃管を用いて48時間保存的治療を行った治療症例と,平成11年1月から同年12月までの1年間に132人の術後癒着性腸閉塞患者に対してイレウス管を用いて保存的療法を行った治療症例(対照群)とを比較したところ,両群に死亡例はなく,腸閉塞の改善率,手術後の合併症率及び術後入院期間に有意差は認められなかったが,6日以上保存的治療を行った対照群の患者2人に絞扼性腸閉塞が発生しており,6日以上の保存的治療は重篤な合併症の増加につながる可能性が示唆された(25頁)。
 (ウ) われわれは,平成12年4月から平成13年3月までの1年間に水溶性造影剤を用いたX線撮影(contrast radiology)によって症状の判別を行った結果,保存的治療で軽快する患者の98.9パーセントは48時間以内に軽快することを証明した(25頁)。
 (エ) これらの点を考慮すると,術後癒着性腸閉塞患者の保存的治療期間は48時間から72時間とすべきである(26頁)。
  カ 大垣市民病院外科での治療成績をもとにした単純性イレウスの手術のタイミングに関する研究報告(平成16年発表)(甲B2)には,以下の記載がある。
 単純性イレウスの保存的治療について,保存的減圧治療中は,症状は軽快し小腸ガス像も減少するが,イレウスの原因となった局所の重症度診断を行わないと,減圧治療をいたずらに遷延させ,患者に不必要な苦痛を長引かせることになる。平成8年から平成9年の2年間のイレウス全国集計によれば,単純性イレウスの保存的治療の限界は,ほぼ2週間と考えられる(1247頁)。
  キ 鳥取大学第一外科における昭和50年から昭和57年までの8年間の癒着性イレウスの患者に対する治療成績に基づく報告(甲B3)には,以下の記載がある。
 単純性イレウスと考えられた場合には,まず腸管の減圧を図る吸引療法を行う。イレウス管を用いた選択的小腸造影はイレウス状態の変化を観察するのに有用であり,経時的に腹部X線撮影を行うことによって,造影剤の大腸への移行が確認できれば,イレウスが解除される可能性が高いといえる。経時的な腹部X線撮影により,ガス像の移動ことに大腸ガスの増加がみられる場合には,多くの例で吸引量が減少(吸引療法が奏功)し,治療開始後3〜4日以内にイレウスは解除される。また,結腸にガス像が認められれば,閉塞部は完全閉塞ではなく,若干の腸内容の通過があるものと考えられ,吸引療法によるイレウス解除の可能性が高い。早期に解除されなくても,症状の悪化がみられなければ1週間ぐらいは吸引療法を続けてよいが,造影剤の移動がみられず,選択的小腸造影にて閉塞部に腫瘍様陰影,先細り像などがみられる場合,あるいは結腸ガス像の減少,消失がみられる場合は躊躇することなく手術療法に切り替えた方がよい(61,63,64頁)。

 (3) (2)の医学的知見によれば,癒着性イレウスの治療としては,第1選択として保存的治療を行うべきであるが,一定期間の保存的治療で改善しない場合や,再発を繰り返す場合には手術を考慮することになるものと認められる。また,一般的な手術適応の基準については,いまだ確立した見解はないものの,近年は,より早期に手術適応を判断する傾向にあるのであって,概ね7日間程度を待機期間の限界と考える見解が多いことが認められる。
 そして,改善傾向の判断の指標となるのは,概ね以下のものである。
   @ 腹痛,腹部膨満などの臨床症状が改善しない。排ガス,排便がない。
   A 腹部X線で小腸ガスの減少や消失がない。
   B 胃管やイレウス管からの排液量が減少しない。
   C イレウス管の進行の停止状況。
   D 造影検査による腸管の閉塞(狭窄)状況。

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