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抗凝固療法 ワーファリン、INR検査

【平成19年11月28日 那覇地裁 判決 <平17(ワ)101号>
 請求棄却、確定
 要旨
 自宅で意識を失い救急車で搬送された患者が、入院中に脳梗塞を発症して重篤な後遺障害が残った場合において、病院の医師に治療上の過失はなく、看護師にも看護上の過失はなかったとして、病院側の損害賠償責任が認められなかった事例
 出典
 判タ 1277号375頁 】から

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  (2) また,証拠(甲B7,11ないし14,17ないし22,乙B1ないし3,11,12)によれば,ワーファリン及びINR検査について,以下のとおり認められる。
 ア 効果・効能等
 ワーファリン療法は,抗凝血剤であるワルファリンカリウムを投与して血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症及び緩徐に進行する脳血栓症等)の治療及び予防に用いられる抗凝固療法である。ワーファリンは,循環血液中の血液凝固因子に直接には作用せず,肝臓でビタミンK依存性凝固因子の第U (プロトロンビン),Z,\,]因子の蛋白合成を阻害することにより,抗凝血作用及び血栓形成の予防作用を示す。ワーファリンは,錠剤として製剤されており,経口投与が予定されている。
 イ 重要な基本的注意事項
 ワーファリンは,血液凝固能検査等による出血管理を十分に行いつつ使用し,また,初回量及び維持量は血液凝固能検査等の結果に基づき慎重に決定することとされている。
 併用注意薬剤との併用により,ワーファリンの作用が増強し,重篤な出血に至ったとの報告がある。
 ウ 重大な副作用
 脳出血等の臓器内出血,粘膜出血及び皮下出血等を生じることがある。
 エ 用法,用量
 ワーファリンに対する感受性は個体差が大きく,同一個人でも変化することがあるので,治療域を逸脱しないよう努力する。
 ワーファリン療法の導入期においては,初回に大量に投与し,数日をおいて凝固能を測定し,その結果から維持量を決定するloading dose法と,初めから常用量に近い投与量を数日続け,凝固能をみながら維持量を決定するdaily dose法とがあるが,前者には急激な凝固能の低下による出血などの危険性や,逆に,プロテインCの低下が先行することによる凝固亢進状態を招く危険性があることから,現在では後者の方法が主流となっている。いずれの場合にも,緊急に凝固能を下げる必要のある場合には,ヘパリンを併用してワーファリンの効果発現が遅れる点をカバーする(なお,「発症48時間以内の脳梗塞ではヘパリンを使用することを考慮してもよいが,十分な科学的根拠はない。」とする見解もある。)。
 オ 治療域の設定根拠
 ワーファリン療法における治療域の設定は,血液凝固能を低下させて血栓形成を十分に予防するとともに,かつ出血を起こさない範囲の血液凝固能レベルとして,経験的に決められてきたものである。
 ワーファリン療法で使用される血液凝固能検査には,INR検査とトロンボテスト(TT)がある。
 INR検査は,ワーファリンの投与量や投与回数をコントロールするためになされる血液凝固能検査の一つであり,プロトロンビン時間(PT)の測定値を国際標準比(International Normalized Ratio:INR)によって標準化したものである。
 INR値が高いほど血液の凝固能が低下した状態になっていることを示す。
 なお,非弁膜症性心房細動(NVAF)患者が,一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞の既往,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患及びうっ血性心不全といったリスクを一つ以上有する場合において推奨される治療域は,70歳以上の患者の場合,INR値1.6ないし2.6とされている(上限を2.5とする文献もある。)。
 カ 高齢者用量
 高齢者は,成人に比し,体内薬物動態(吸収,分布,代謝及び排泄)が低下しており,それに伴って血漿蛋白の減少,肝臓での薬物代謝及び腎排泄の遅延,肝臓でのビタミンK依存性凝固因子合成能の低下などの加齢による生理現象が生じていることから,一般成人に比してワーファリンの感受性が強く,また,血管が弱く出血しやすいことなどから,ワーファリンによる出血のリスクが高くなることに常に注意しなければならない。
 キ 代謝,効果発現時間及び持続時間
 ワーファリンの消失半減期は約35時間である。連日投与で約1週間後に定常状態に達し,血中濃度の変動は比較的わずかである。
 ワーファリンの経口投与後の血中濃度は2時間ないし12時間で最大となる。その抗凝血効果は12時間ないし24時間目に発現し,十分な効果は36時間ないし48時間後に得られる。また,その作用は48時間ないし72時間持続する。
 ク 返跳(リバウンド)現象
 長期にわたって投与していた抗凝固薬の投与を急に中止した場合,従来,血栓塞栓症の発症頻度が増加すること(リバウンド現象)が危惧されていたが,このような現象は生じなかったとする調査結果もあり,十分な結論は得られていない。現時点では不明な点が多く,ワーファリンの投与中止は漸減中止の方法によることが望ましい。
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