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くも膜下出血、脳血管攣縮、心原性脳塞栓症、意識レベル

【平成20年 2月13日 名古屋地裁 判決 <平17(ワ)1883号>
裁判結果 一部認容
要旨
県立病院において2度にわたり脳動脈瘤頸部クリッピング術を受けた患者に意識障害、右上下肢麻痺及び左下肢麻痺の後遺障害が残ったことについて、医師に、第1の手術の際に動脈瘤ではなく前交通動脈にクリップを掛けた過失が認められるが結果との間の相当因果関係は認められないとされ、第2の手術の前に説明義務違反が認められるとされた事例
出典
裁判所サイト
医療判例解説 17号142頁(2008年12月号)
ウエストロー・ジャパン
評釈
水谷徹・医療判例解説 17号139頁(2008年12月号)】から


  (3) 医学的知見

   ア くも膜下出血(甲B4号証,乙B2,7,20号証の1,2)
 くも膜下腔への出血,すなわち脳髄液内への出血を指す。くも膜下出血は,外傷の場合を除けば,ほとんど脳動脈瘤破裂によるものである。
 脳動脈瘤からの出血によりくも膜下腔に血液が流入すると,頭蓋内圧が急速に上昇し,脳血流が著明に減少する。そのため脳が虚血状態となり,脳細胞障害を来すことになる。破裂脳動脈瘤は再出血する危険性があるため,重症のため適応がないと判断されない限り,再出血予防処置がとられる。予防処置としては,通常は開頭の上脳動脈瘤頸部に金属製のクリップを掛けて閉塞し,脳動脈瘤への血流を遮断する脳動脈瘤頸部クリッピング術が行われる。

   イ 前大脳動脈・前交通動脈(甲B1号証)
 前大脳動脈は,左右の内頸動脈から分かれ,視神経の上を内前方に走る(この部分をA1部という。)。正中で左右の前大脳動脈が接近し,前交通動脈で結ばれる。その後,前大脳動脈は左右それぞれ大脳半球間裂を上方に向かい(この部分をA2部という。),脳梁に沿って後方に走る(この部分をA3,A4,A5部という。)。前交通動脈分枝直後のA2部からホイブナー動脈と呼ばれる穿通枝が分枝する。前大脳動脈から前交通動脈が分枝する部には嚢状動脈瘤が好発する。

   ウ 脳血管攣縮(甲B4,10,12号証,乙B21号証)
 くも膜下出血後に発生する脳主幹動脈の可逆的狭窄をいう。脳血管攣縮の発現には種々の因子が関与しているといわれ,最も重要な因子は,くも膜下腔の血腫が溶血する過程で放出されるオキシヘモグロビン等の攣縮誘発物質であるなどと説明されている。脳血管攣縮の結果,狭窄した脳動脈の支配領域に乏血症状や脳梗塞を来すことがある。

   エ 心原性脳塞栓症(甲B6号証,乙B12号証,鑑定の結果)
 脳梗塞の発生機序の一つであり,非弁膜性心房細動,急性心筋梗塞,左心室瘤,リウマチ性心臓病,人工弁等の心疾患が原因となって心臓内に生じた血栓が血流によって運ばれ,脳血管を閉塞することにより発症する。

   オ ジャパン・コーマ・スケール(JCS)(乙B4号証)
 患者の意識状態を以下の3つのグレード,3つの段階に分類し表現する尺度である。
 グレードT 刺激しないでも覚醒している
  1 意識清明とはいえない
  2 見当識障害がある
  3 自分の名前・生年月日が言えない
 グレードU 刺激で覚醒する
  10 普通の呼びかけで容易に開眼する
  20 大声又は体を揺さぶることにより開眼する
  30 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する
 グレードV 刺激をしても覚醒しない
  100 痛み刺激に対し払いのけるような動作をする
  200 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめたりする
  300 痛み刺激に反応しない

   カ グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)(甲B11,乙B4号証)
 患者の意識状態を以下の3つの項目毎に評点し,その合計で評価する尺度であり,3点が最も重症であり,15点が意識障害がない状態になる。
 @ 開眼    4点(自発的に開眼する)から1点(全く開眼しない)
 A 言語反応 5点(指南力良好)から1点(発語なし)
 B 運動反応 6点(命令に従う)から1点(全くなし)

   キ グラスゴー・アウトカム・スケール(GOS)(乙B4,32号証)
 重症脳損傷の転帰の分類法であり,@良好な回復,A中等度障害,B重度障害,C植物状態,D死亡,の5段階に分類する。

   ク ハントの分類(Hunt&Kosnik分類,以下「H&K分類」という。)(甲B11号証)
 くも膜下出血の重症度を,意識と神経学的徴候から分類する方法である。
 グレードT 無症状又は軽度の頭痛,項部硬直のあるもの。
 グレードU 中等度か強い頭痛,項部硬直はあるが,脳神経麻痺以外の神経脱落症状のないもの。
 グレードV 意識は傾眠状態で,錯乱又は軽度の局所神経症状のあるもの。
 グレードW 意識は昏迷状態で,中等度から重度の片麻痺がある。早期の除脳硬直や自立神経障害がある。
 グレードX 深昏睡状態で除脳硬直を示し,瀕死の状態。

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