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喘息治療薬

以下の判例から
平成19年11月21日 札幌地裁 判決 <平18(ワ)2809号>
一部認容、確定
要旨
気管支拡張剤の投与を受けた気管支喘息の患者に不整脈等の心臓疾患が増悪した場合、医師の薬剤処方について不適切な点はないとしたが、薬剤の副作用についての説明義務違反があったとして、病院側の債務不履行責任が認められた事例
出典 判タ 1274号214頁

  (2) 本件に関連する医学的知見
 ア 喘息治療薬一般について
 (ア) 喘息治療薬としては,一般に,ステロイド薬,β2刺激薬,テオフィリン薬等があるところ,テオドールはテオフィリン薬,セレベントはβ2刺激薬,フルタイドはステロイド薬に,それぞれ該当する(甲B3ないし5,乙B1,2,弁論の全趣旨)。
 (イ) ステロイド薬は,現在の喘息治療における最も効果的な抗炎症薬であるとされており(乙B2),厚生省免疫・アレルギー研究班作成の喘息予防・管理ガイドライン2003では,ステロイド薬の投与を優先するとされている(被告代表者10・11頁,弁論の全趣旨)。
  (ウ) 気管支の攣縮を伴う気管支喘息に対しては,ステロイド薬では効果が十分ではなく,気管支拡張剤を投与する必要があるところ(被告代表者9・14 頁),β2刺激薬,テオフィリン薬にはいずれも気管支平滑筋を弛緩させ,気管支を拡張させる作用がある(甲B3,乙B2)。
 イ テオドールについて
 (ア) 効能について
 テオドールは,気管支拡張作用により気管支喘息等の症状を改善するほか,気道炎症を抑制する作用もあるため,喘息の長期管理(喘息症状の軽減・消失とその維持及び呼吸機能の正常化とその維持)を図る上で有効な薬剤であると考えられている(甲B3,乙B1,2)。また,吸入ステロイド薬とテオフィリン薬による併用療法は,ステロイド薬の使用量を増加させるよりも喘息治療に有効であるとされている(乙B2)。
 (イ) 用法・用量について
 テオドール錠100mg(1錠当たりの重量300mg)には,有効成分として1錠当たり100mgのテオフィリンが含まれており,その添付文書には,用法・用量につき,通常,テオフィリンとして,成人1回200mg(本剤2錠)を1日2回,朝及び就寝前に経口投与する旨の記載がある(甲B1)。
 (ウ) 投与上の注意点(禁忌・慎重投与等)について
 テオドールは,テオフィリン徐放性のキサンチン系薬剤であり,テオドール又は他のキサンチン系薬剤に対し重篤な副作用の既往歴のある患者に投与することは禁忌とされているほか,てんかんの患者等一定の患者に対しては慎重に投与すべきとされているが,心臓に既往症のある患者や,セレベントに対し心房細動の副作用の既往歴のある患者は,禁忌ないし慎重投与の対象に含まれていない(甲B1,乙B1の29・30頁)。
 また,セレベントにより不整脈の副作用が現れたことのある患者に対するテオドールの処方につき,札幌医科大学附属病院において現在原告の診療を担当している同病院第2内科の土橋和文医師(以下「土橋医師」という。)は,同人作成の回答書(甲A9)において,最近の喘息治療のガイドラインは他のステロイド薬の投与を優先する可能性が高いとしつつも,喘息の増悪自体によって心房性不整脈が悪化する可能性があることなどから,他に代替の処方がなく,投与による利益が不利益を凌駕すると判断される場合には,テオドールを処方することがあるとの見解を示している。
 (エ) 副作用の発生頻度等について
 テオドールの主な副作用は,悪心・嘔吐,頭痛,動悸,不整脈等であるが,承認時の安全性解析対象症例939例中85例(9.05%)に副作用が認められ,このうち,動悸が発現した例が 11例(発現確率約1.17%),不整脈が発現した例が2例(発現確率約0.21%)みられた(乙B1の34・35頁)。なお,テオドールの添付文書(甲B1)において,副作用の発生頻度は「0.1〜5%未満」,「0.1%未満」,「頻度不明」の3つに分類されており,動悸,不整脈の副作用の発生頻度は,「0.1〜5%未満」に区分されている。
 また,本件初診時より前に,乙川医師がテオドールを処方した患者が悪心,嘔吐等の副作用を訴えたことはあったが,悪心,嘔吐等の症状は,患者が服用を中止することなどにより短期間で治まっていた。また,乙川医師は,本件初診時より前に,心房細動等の心臓の疾患を有する患者に対してテオドールを処方したことがあったが,患者が副作用を訴えたことはなかった(被告代表者10・13・14頁)。
 テオフィリンによる副作用の発現は,テオフィリン血中濃度の上昇に起因する場合が多く,血中濃度が20?/ml以下の場合,一般には副作用はみられないが,これを超えると中毒作用が生じる場合があるとされており,テオドール錠100mgを健常男子6名に対してそれぞれ1回2錠,12時間ごとに9回連続投与したときのテオフィリン血中濃度は,10?/mlに達することはなかった(甲B3,乙B1の20ないし25頁)。福岡大学呼吸器科の白石素公らは,「テオフィリンの副作用」と題する論文において,テオフィリンは,治療域での血中濃度が5ないし20?/mlと狭く,それ以上の濃度(20ないし60?/ml)では用量依存的に不整脈などの重篤な副作用を起こす安全域の狭い薬剤の代表であるとの見解を示している(甲B3)。
 なお,上記副作用が発現した場合には,特異的な拮抗薬,治療薬がないことから,第1段階として投与を中止し,第2段階として胃洗浄等が行われることになる(甲B3)。
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