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喘息

以下の判例から
平成19年10月23日 京都地裁 判決 <平17(ワ)1247号>
一部認容
要旨
被告の設置・運営する病院に入院中の喘息患者に対し、同病院の医師が、喘息治療薬として適応承認を受けていない薬剤を投与し、その後同患者が死亡したことにつき、同薬剤の投与にあたって十分な説明・同意を欠いており、同薬剤の投与自体が違法であるとした上、死亡との因果関係も肯定されるとして、同患者の相続人である原告らの損害賠償請求を一部認容した事例
出典 裁判所サイト、医療判例解説 14号119頁(2008年6月号)
評釈 中野純一・医療判例解説 14号114頁(2008年6月号)

  (7) 喘息に関する医学的知見(乙B1,B15)
 ガイドラインには,次の記載があり,これは,平成12年当時においても,現在においても,わが国の喘息治療における一般的な医学的知見であると認められる。
   ア 喘息の定義
 喘息は,気道の慢性炎症と種々の程度の気道狭窄と気道過敏性,そして臨床的には繰り返し起こる咳,喘鳴,呼吸困難で特徴づけられる。気道狭窄は,自然に,あるいは治療により可逆性を示す。気道炎症には,好酸球,T細胞,肥満細胞,気道上皮細胞をはじめとする多くの細胞と,種々の液性因子が関与する。繰り返す気道炎症は,しばしば気道構造の変化(リモデリング)を惹起し,気道狭窄の可逆性の低下を伴う。また,気道炎症と気道リモデリングは気道過敏性の亢進をもたらす。
   イ 喘息の重症度の判断
    (ア) 喘息の重症度は,喘息症状の強度(発作強度),頻度,及び日常のPEF,1秒量(FEV1)とその日内変動,日常の喘息症状をコントロールするのに要した薬剤の種類と量により,軽症,中等症,重症の3段階に分けることができる。いくつかの重症度の分類(日本アレルギー学会,国際コンセンサスレポートなど)があるが,ほぼ一致しているのは,軽症とは,喘鳴のみ,ないし軽度の喘息症状(小発作)が散発的に出現するもので,治療は原則的に気管支拡張薬の頓用で足りるものである。重症とは,中等度ないし高度の喘息症状(中・大発作)が頻発して,日常生活がほとんど不能なもので,高用量吸入ステロイド薬800ないし1600μg
日の連用を要し,また,経口ステロイド薬の追加的連用を必要とするものである。中等症とは,両者の中間の広い範囲を示すもので,慢性的に軽症ないし中等症の症状があり,しばしば日常生活,睡眠が妨げられ,持続した気管支拡張薬と抗炎症薬の投与を要する。
    (イ) 上記の重症度の判定は,治療を行っていないときの症状をもとに行われるものであり,実際には患者は何らかの治療を受けているので,医師は,患者の症状と治療から重症度を推定して治療を開始し,ステップアップないしステップダウンして,適切な治療レベルを設定することになる(ステップ療法)。
   ウ 喘息重症度の分類
 喘息の重症度は,ステップ1(軽症間欠型)からステップ4(重症持続型)の4段階に分類される。各ステップの症状の特徴は次のとおりである。
    (ア) ステップ1(軽症間欠型)の症状の特徴
      ・症状が週1回未満
      ・症状は軽度で短い
      ・夜間症状は月に1ないし2回
    (イ) ステップ2(軽症持続型)の症状の特徴
      ・症状は週1回以上(しかし毎日ではない。)
      ・月1回以上,日常生活や睡眠が妨げられることがある。
      ・夜間症状が月2回以上
    (ウ) ステップ3(中等症持続型)の症状の特徴
      ・症状がほぼ毎日ある
      ・短時間作用性吸入β2刺激薬(気管支拡張薬)頓用がほとんど毎日必要
      ・週1回以上,日常生活や睡眠が妨げられる。
      ・夜間症状が週1回以上
    (エ) ステップ4(重症持続型)の症状の特徴
      ・治療下でもしばしば増悪
      ・症状が毎日
      ・日常生活に制限
      ・しばしば夜間症状
    (オ) 上記重症度の分類は,治療前の臨床所見による重症度の分類である。患者が既に治療を受けている場合には,症状をほぼ(ステップ1程度に)コントロールするのに要する治療ステップを基準に,重症度を判断する。上記症状の特徴のうち,いずれか1つの特徴が認められれば,そのステップを考慮する。重症度は,肺機能,症状,現在の治療レベルから総合的に判定する。
   エ 治療薬
    (ア) 喘息の治療薬は,長期管理薬(長期管理のために継続的に使用する薬剤)(コントローラー)(抗炎症薬と長期作用性気管支拡張薬)と,発作治療薬(喘息発作治療のために短期的に使用する薬剤)(リリーバー)の2種類に大別して使用される。
    (イ) 重症度別の長期管理薬の投与
 a ステップ1(軽症間欠型)
 一般的には,長期管理薬は必要でない。症状があるときに短時間作用性β2刺激薬の吸入若しくは頓用,又は短時間作用性テオフィリン薬の頓用を行う。症状の頻度がやや高いときなどは,吸入ステロイド薬(最低用量),テオフィリン徐放製剤,ロイコトリエン拮抗薬,抗アレルギー薬のいずれかの連用を考慮する。
 b ステップ2(軽症持続型)
 長期管理薬の投与(吸入ステロイド薬〔低用量〕の連用,又はテオフィリン徐放製剤,ロイコトリエン拮抗薬,DSCG吸入のいずれかを併用で継続投与する。)が必要である。夜間症状,持続する気道閉塞に対して必要があれば,長時間作用性β2刺激薬(吸入,貼付又は経口)を,吸入ステロイド薬などと併用する。吸入ステロイド薬を使用しない場合で,コントロールが不十分である場合は,吸入ステロイド薬に変更(又は追加併用)する。
 c ステップ3(中等症持続型)
 長期管理薬として,吸入ステロイド薬(中用量)を継続投与し,テオフィリン徐放製剤,ロイコトリエン拮抗薬,長時間作用性β2刺激薬(吸入,貼付又は経口)のいずれか又は複数を継続併用する。
 d ステップ4(重症持続型)
 吸入ステロイド薬(高用量)を継続投与し,テオフィリン徐放製剤,ロイコトリエン拮抗薬,長時間作用性β2刺激薬(吸入,貼付又は経口)の複数を併用する。吸入ステロイド薬(高用量)でコントロールが不十分な場合などは,中量ないし大量の短期間作用性経口ステロイド薬(プレドニゾロン0.5ないし1mg
kg前後又は同等量)を短期間(通常1週間以内)投与する。その後は,吸入ステロイド薬(高用量)で維持するが,コントロールが不十分で経口ステロイド薬の連用が必要な場合は,短時間作用薬を用いて維持量が最少量となるように,1日1回ないし隔日に投与する。
(続く)

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