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喘息

以下の判例から
前掲
平成19年10月23日 京都地裁 判決 <平17(ワ)1247号>

(続き)
   オ 難治性喘息
    (ア) 重症の喘息の中で,喘息症状を最小限にするために吸入ステロイド薬の最大量の吸入と,経口ステロイド薬(プレドニゾロン換算10mg
日以上)を長期(1年以上)にわたり維持量として必要な症例を,特に難治性喘息として扱う。
    (イ) 治療は,上記重症持続型喘息に対する治療に加え,継続して短時間作用性経口ステロイド薬(プレドニゾロン10mg
日以上又はその換算量)を使用する。プレドニゾロン10mg
日以上を要する場合には,ほかのステロイド薬への変更や,免疫抑制剤の併用を考慮する場合がある。
   カ 急性増悪(発作)時のステロイド薬の使用について
 気管支拡張薬の効果が失われた増悪例,中等度以上の発作,すでにステロイド薬を投与している場合に,発作治療薬としてステロイド薬を使用する。初回量は,ヒドロコルチゾン200ないし500mg又はメチルプレドニゾロン40ないし125mgとし,以後ヒドロコルチゾン100ないし200mg又はメチルプレドニゾロン40ないし80mgを必要に応じて4ないし6時間ごとに静注する。ただし,ステロイド薬の明らかな効果発現には4時間を要する。最初のステロイド薬静注で症状が増悪する場合には,その薬剤による発作誘発の可能性を考慮し,ほかのステロイド薬に変更する。特にアスピリン喘息患者では,40ないし60%でコハク酸エステルによる発作誘発の可能性がある。
 ステロイド薬の全身投与は,@中等度以上の発作の場合,Aステロイド薬の全身投与を必要とする重症喘息発作の既往がある場合,B入院を必要とする高度重症喘息発作の既往がある場合,Cその他,患者がハイリスクグループ(<ア>ステロイド薬の全身投与中あるいは中止したばかりの場合,<イ>過去1年間に喘息発作により入院の既往がある場合,<ウ>過去1年間に喘息発作による救急外来を受診したことがある場合,<エ>喘息発作で気管内挿管を行ったことがある場合,<オ>精神障害の合併がある場合,<カ>喘息の治療計画に患者が従わない場合)に属する場合に適応がある。
   キ 重篤喘息症状に対する対応
 上記一連の治療に反応せず,最大限の酸素投与を行っても,血液ガス検査で,酸素分圧が50未満である場合,又は急激な二酸化炭素分圧の上昇(1時間あたり5以上の上昇若しくは意識障害を伴う急激な上昇)が見られる場合には,気管内挿管,人工呼吸管理をはじめとする救急医療の適応となる。二酸化炭素分圧が45を超え始めた場合,気管内挿管の準備が必要である。
   ク 喘息発作の程度と血液ガス検査結果の関係について
 喘息発作の重症度の判定には,血液ガスの測定が重要である。喘息発作の初期には,気道狭窄のフィードバックにより呼吸中枢が刺激され,一般に過換気気味となり二酸化炭素分圧は低下する。さらに発作が強度になると,肺の換気・血流比不均等の増悪のために,二酸化炭素分圧も軽度から中等度の低下を示す。さらに気道狭窄が高度になると,換気不全となり酸素分圧は高度に低下し,二酸化炭素分圧は増加し,意識低下,喘鳴も聴取し難くなり,呼吸停止切迫となる。二酸化炭素分圧は,1秒量が予測値の25%程度までは低下傾向を示すが,15%以下になると急激に二酸化炭素の貯留が起こる。
  (8) ステロイドパルス療法について(乙B3,16,18の1,2)
 ステロイドパルス療法は,1日1回大量のステロイド薬(ソル・メドロールであれば,500mgないし1000mg)を短期間(3日間程度)連続投与する療法であり,膠原病,急性循環不全等の疾病に対し,一般的に用いられており,喘息患者に対しても,同療法を実施し効果があったとの報告が存在する。
  (9) 本件免疫抑制剤について(乙B5ないし9,25,26,証人E)
   ア メソトレキセートは,喘息治療薬として適応承認を受けたことはないが,海外では,重症喘息患者に対し投与を行った結果,ステロイドの投与量を減少させることができたとの報告(昭和63年のS1の報告,平成2年のS2の報告)がある一方で,有意差が認められなかったとの報告(平成3年のS3の報告)もある。
 まず,東京大学物療内科教授(当時)のS4医師は,平成3年に発表した論文(乙B6)の中で,メソトレキセートを使用した免疫抑制療法は,注目に値する療法であるが,わが国での使用報告はまだ見当たらないと述べた。
 また,岡山大学医学部第2内科所属(当時)のS5医師及びS6医師は,平成3年に発表した論文(乙B5)の中で,メソトレキセートを使用した免疫抑制療法について,メソトレキセートの長期投与の副作用等の危険性を慎重に検討する必要があるが,メソトレキセートがステロイド剤に代わる有効な治療薬となる可能性があると述べた。
 次に,獨協医科大学アレルギー内科助教授(当時)のS7医師は,平成7年に発表した論文(乙B7)の中で,メソトレキセートの有用性は必ずしも確立されておらず,安全性も含めてさらに検討されなければならないと述べた。
 さらに,国立療養所南岡山病院(当時)のS8医師は,平成9年に発表した論文(乙B8)の中で,メソトレキセートの効果は必ずしも確定しておらず,副作用の点も考慮すると,免疫抑制療法に対する結論的な評価を行うためには,なお,臨床経験を重ねる必要があり,現時点でのメソトレキセートの適用は,@ステロイド薬の効果が不十分な場合(ステロイド抵抗性喘息例),Aステロイド薬の減量・離脱が困難な症例,B副作用のためステロイド薬の十分な投与ができない場合(ステロイド薬投与禁忌例)などに限定されようなどと述べた。
   イ シクロフォスアミドも,喘息治療薬として適応承認を受けたことはないが,アレルギー性肉芽腫性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群),ウェゲナー肉芽腫症等保険適用外の疾患を含む様々な疾患の治療に用いられている。
  (10)喘息死について(甲Bの2の2,証人E)
 喘息による死亡は,窒息によるもの,すなわち,気管支全体が粘液栓により閉塞され,酸素が十分に供給されなくなった結果,呼吸不全により死亡するものが多いが,被告病院における喘息による死亡例は,Aの一例だけである。なお,和歌山生協病院内科のS9医師は,「@喘息は本来,死ぬ必要のない病気であり,死なせてはならない病気である。全ての医療従事者はそのことを銘記しなければならない。A患者が喘息死した場合,家族と医療機関の間でトラブルが生じることが多い。大抵の家族は『喘息で死ぬはずがない』と信じており,喘息死してしまったのは『病院側に何か手落ちがあったからだ』と考えがちだ。喘息は死に至る可能性があるという意味で,決して良性疾患とは言えない。最善の治療を尽くしても死亡する例が希にはある。喘息は死に至る病なのだ。そうした最悪の結果に備えるためにも患者教育は重要なのである。」と述べている(甲Bの2の2)。
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