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以下の判例から 前掲 平成19年 9月20日 東京地裁 判決 <平18(ワ)1083号> (続き) (2) インフルエンザ脳症ガイドライン(乙B7別紙文献3) 厚生労働省研究班は,平成17年11月(本件の約9か月後),以下の内容を含む「インフルエンザ脳症ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を発表した。 ア インフルエンザ脳症が疑われる症例の初期対応 インフルエンザ脳症の主な初発神経症状としては,意識障害,けいれん,異常言動・行動があげられる。 「意識障害」はインフルエンザ脳症の神経症状の中で最も重要なものであり,インフルエンザウイルスの感染に伴い,明らかな意識障害が見られる場合は,速やかに二次または三次医療機関へ紹介する。 イ インフルエンザ脳症の診断指針 インフルエンザ脳症は,意識障害が最も重要な臨床上の指標となる。 (ア) 診断基準(来院時) 来院時,JCS20以上の意識障害が認められた場合等は,インフルエンザ脳症確定診断例として,特異的治療(後記ウ(イ))を開始する。 (イ) 診断基準(入院後) 来院時,上記神経所見・検査所見が認められない場合は,各検査を繰り返しながら経過観察をおこなう。経過観察中に,以下に示した神経所見等が認められた場合も,インフルエンザ脳症診断例,疑い例として特異的治療(後記ウ(イ))を開始する。 確定例 a 意識障害が経過中,増悪する場合 b 意識障害(JCS10以上)が24時間以上続く場合 疑い例 a 意識障害(JCS10以上)が12時間以上続く場合 b JCS10未満の意識障害であっても,その他の検査から脳症が疑われる場合 ウ インフルエンザ脳症の治療指針 (ア) 支持療法 本症の治療において,全身状態の管理は重要であり,特異的治療とともに大きな役割を果たす。 a 心肺機能の評価と安定化 @緊急の心血管系評価(意識レベルの評価,呼吸状態の把握,循環系の異常サインの把握),Aモニタリング(体温,呼吸数,血圧,SpO2,心電図など),B気道の確保,C換気確保,D酸素投与,E静脈ルートの確保,F補液の開始(循環血漿量の確保,電解質の補正),G血圧の維持を行う。 b けいれんの抑制と予防 今まさに起きている発作を抑制するのに抗けいれん薬を投与し,あるいは,発作予防目的の抗けいれん薬を重症度を考慮して投与する。 c 脳圧亢進の管理(マンニトールの点滴等) d 体温の管理 身体の冷却又は解熱剤を使用する。 e 搬送 患者の状態から,より高次の医療機関での治療が必要なときには緊密な連携のもと患者の搬送をおこなう。 (イ) インフルエンザ脳症の特異的治療法 a 抗ウイルス薬(オセルタミビル) インフルエンザ発症後48時間以内に投与することにより有熱期間を短縮する効果がある。脳症の誘引となる気道局所の感染の拡大を抑制することが期待される。 b メチルプレドニゾロン・パルス療法 中枢神経系内の高サイトカイン状態や高サイトカイン血症の抑制に有効と考えられる。また脳浮腫を軽減する効果もある。 2002/2003年,2003/2004年シーズンの全国調査の解析から,メチルプレドニゾロン・パルス療法を施行した患者のうち,早期(脳症発症1〜2日目)にメチルプレドニゾロン・パルス療法を行った症例で予後が比較的良好であったというデータが得られた。 c ガンマグロブリン大量療法 インフルエンザ脳症の経過中に生じる高サイトカイン血症に対して有効と考えられる。しかし,脳症に対する治療効果についてまだ十分なエビデンスは得られていない。 (ウ) インフルエンザ脳症の特殊治療 インフルエンザ脳症の治療に関する過去の調査では,以下の特殊治療を実施した例はきわめて少数であり,脳症に対する治療効果についてはまだ十分なエビデンスは得られていない。本治療の実施にあたっては,一定の経験が必要であり,高次医療施設で行うことが望ましい。 a 脳低体温療法 過剰な免疫反応および代謝を抑制し,神経障害の拡大を阻止することを目的とする。 b 血漿交換療法 高サイトカイン血症の改善により,細胞障害・組織障害の進行を阻止する可能性がある。 c シクロスポリン療法 高サイトカイン血症によるアポトーシスを抑制し,臓器障害の進行を阻止することを目的とする。 d アンチトロンビン(AT)V大量療法 インフルエンザ脳症の臓器障害では,血管内皮障害が重要な役割を担っている。血管内皮の障害による二次的な凝固線溶系の異常とそれに続く好中球の活性化による組織障害に対して有効であると考えられる。 |
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