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髄膜腫

以下の判例から
前掲
平成19年 8月31日 神戸地裁 判決 <平15(ワ)436号>

(続き)
  (4) 髄膜腫摘出手術の術前準備について
   ア 内頸動脈を包み込むような腫瘍では、あらかじめバルーン閉塞試験を行うことが必要である(甲B二(平成一一年)・九二頁、甲B二七(平成一六年)・二七五頁、乙B一九・八一頁)。
   イ マタステストとは、主要血管が閉塞した場合に、側副血行路が発達していれば、血流が確保され、これにより脳梗塞の発生が予防できることから、あらかじめ側副血行路の発達が確保されているかを確認する手段であり、脳血管撮影の際に、一側の血管を指で圧迫して遮断して、他方に循環しているかを確認するものである。
   ウ 内頸動脈のバルーン閉塞試験は、頸動脈を遮断する際のリスク評価として有用であるが、かかる試験によって合併症が一・七パーセントの割合で発生するとされている。バルーン閉塞試験三〇〇例のうち、六例に無症候性の内頸動脈の解離が生じ、五例(一・七パーセント)に症候性の合併症が生じた。かかる五例のうち、一例は内頸動脈解離から中大脳動脈塞栓を起こし、四例のうち二例に軽度の言語障害が残ったとする報告がある。
   エ 内頸動脈のバルーン閉塞試験を施行した一一九事例において症候性の合併症を呈したのは一・七パーセント、無症候性の合併症を認めたのは二・五パーセントの割合であったところ、症候性の合併症を呈したものは、左半球の広範囲の脳梗塞を起こしたもの一例と一過性の神経脱落症状を認めたもの一例であったとする報告がある(乙B二〇(平成一六年)・五七三頁)。
   オ バルーン閉塞試験を実施し、陰性であったが、内頸動脈を遮断したところ、脳梗塞を来した事例が報告されている(乙B一四(平成一四年))。

  (5) 蝶形骨縁髄膜腫の手術手順について
   ア 内側型髄膜腫の手術の実際のうち、硬膜内の腫瘍摘出操作は以下のステップで行うとしたものがある(乙B一七(平成一六年)・一四一頁ないし一四五頁)。
 (ア) シルビウス裂の開放
 (イ) 硬膜と腫瘍の付着部の処理、内側縁の確認
 (ウ) 内減圧と中大脳動脈との剥離
 (エ) 内減圧と前大脳動脈との剥離
 (オ) 腫瘍の縦断と内頸動脈の剥離
 (カ) 動眼神経、後交通動脈、前脈絡叢動脈の剥離
 (キ) 前床突起の削除
   イ 以下の手術手順で蝶形骨縁髄膜腫を行ったものがある。
 (ア) シルビウス裂の開放、遠位中大脳動脈の確認をする。
 (イ) 硬膜との剥離、視神経の確認、内減圧の開始をする。
 (ウ) 中大脳動脈を末梢から中枢へと剥離する。
 (エ) 前大脳動脈を末梢から中枢へと剥離する。
 (オ) 内頸動脈を末梢から中枢へと剥離する。
 (カ) 海綿静脈洞外壁からの剥離、内外側に分断した腫瘍を剥離摘出する。
 (キ) 前床突起を削除し、硬膜を切除する。
   ウ 手術手順のうち腫瘍摘出部分は以下のとおりであると説明するものがある(甲B二七(平成一六年)・二七六頁、二七七頁)。
 (ア) 中大脳動脈本幹に沿って剥離を進める。
 (イ) 中大脳動脈水平部から腫瘍を内頸動脈に向かって血管壁から剥離する。
 (ウ) 内頸動脈に沿って腫瘍を分け、剥離する。
 (エ) 内頸動脈穿通枝を温存し、視神経管内に入り込んでいた腫瘍も、視神経管を開放して摘出する。
   エ 巨大な腫瘍の摘出の一般的手順は、腫瘍縮小を図りながら、シルビウス裂内でまず中大脳動脈遠位側を同定することが肝要で、これをたどりながら内頸動脈遠位端分岐部に到達することとされている。付着部の頭蓋底から切除していくと、しばしば内頸動脈やその分岐、視神経を同定するのが困難で、これらを損傷する危険性がある。
   オ 手術手順について、中大脳動脈を遠位から近位に腫瘍から剥離し、その後、前大脳動脈の内側下方から内頸動脈の内側に存在する腫瘍を摘出した上で、視神経と腫瘍とを剥離した事例がある。
   カ 手術手順について、内頸動脈と視神経を露出後、当該部位の剥離除去を行った後で、前交通動脈周囲の剥離などを行う事例がある。
(続く)

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