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大腸癌(大腸がん)

以下の判例から
平成19年 8月24日 東京地裁 判決 <平15(ワ)25825号>
一部認容、控訴
要旨
被告の開設する病院へ通院していた患者が大腸癌等により死亡したことにつき、担当医師に大腸癌を見落とした過失が認められるとした上で、その過失と患者の死亡との間に因果関係は認められないが、その過失がなければ死亡当時なお生存していた相当程度の可能性があるとして、患者の遺族らの請求を約160万円の限度で認容した事例
高血圧及び糖尿病で被告病院に入院していた訴外人が死亡したのは担当医師らが大腸癌を見落とし適切な治療を怠ったためであるとして遺族らの原告が損害賠償を請求した事案において、総合病院の担当医が他科の受診を勧めることを超えて患者の転医、転科措置を講ずるまでの義務はないものの、担当医に一定時点で大腸癌の存在を疑い直ちに下部消化管検査を予約すべき注意義務を怠った過失があるとし、訴外人の死亡との因果関係につき当該過失がなければなお生存していた高度の蓋然性があったとは認められないものの、相当程度の生存の可能性はあったとして、損害賠償請求の一部を認容した事例
診療契約の債務不履行に基づく損害賠償債務が遅滞に陥る時期につき、原告らの請求する訴外人の死亡した日の翌日からではなく、履行請求(催告)をした日の翌日からであると判示した事例
出典 裁判所サイト、判タ 1283号216頁、ウエストロー・ジャパン


 2 医学的知見
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の医学的知見が認められる。

  (1) 大腸癌の症状等
 大腸癌は,その発生部位により,盲腸癌,結腸癌(上行結腸癌,横行結腸癌,下行結腸癌,S状結腸癌),直腸癌に区分される(甲B3)。大腸癌の主な症状としては,腫瘍からの出血による下血,血便,貧血,便柱への血液の付着,癌で腸の内径が狭くなることによって生じる便秘,下痢,便柱の狭小,腹痛などがある(甲B14の2,3,6,8,鑑定人J)。

  (2) 大腸癌の発見方法
 大腸癌は,大腸内視鏡検査や注腸造影検査など,大腸を直接調べる検査により発見することができる。間接的な方法としては,便潜血検査や腫瘍マーカーの測定があり,これらの検査をきっかけとして上記の大腸内視鏡検査等が行われ,大腸癌が発見されることもある。さらに,大腸癌が進行している場合には,腹部超音波検査やCT検査で肝転移が発見され,その原因を探索する過程で大腸癌が発見されることもある(鑑定人K,同L,同J)。

  (3) 大腸癌の治療方法及び予後
 大腸癌の治療は,癌の進展状況により,内視鏡治療,外科手術,抗癌剤療法(化学療法)などが選択される。癌の進展状況の判断には,Dukes分類又はステージ分類が使用される。Dukes分類は,DukesAからDukesDに分類されており,各分類の定義は以下のとおりである(甲B14の2)。
 DukesA:癌が大腸壁内にとどまるもの
 DukesB:癌が大腸壁を貫くがリンパ節転移のないもの
 DukesC:リンパ節転移のあるもの
 DukesD:腹膜,肝,肺などへの遠隔転移のあるもの
 ステージ分類は,ステージ0からステージ4に分類されており,Dukes分類とわずかに異なるが,ステージ0及びステージ1がDukesAに,ステージ2がDukesBに,ステージ3がDukesCに,ステージ4がDukesDに相当するものとされている。(甲B14の2)

   ア DukesAないしDukesCの場合の治療方法及び予後
 DukesAで,癌が粘膜にとどまる場合や粘膜下層への浸潤がわずかな場合には,内視鏡治療が選択されるが,それを除けば,外科手術が選択される。外科手術では,癌が存在する部位の大腸の切除及びリンパ節の郭清が行われ,術後には抗癌剤の投与が一定期間継続されることもある。
 国立がんセンターの発表によると,大腸癌は,早期癌であれば,ほとんど治癒し,進行癌であっても,各分類ごとの5年生存率は,DukesAが約95%,DukesBが80%,DukesCが70%とされている(甲B6の2,6の3,14の2,72)。

   イ DukesDの場合の治療方法及び予後
    (ア) 外科的切除
 大腸癌の血行性転移には肝転移,肺転移,脳転移,骨転移などがあるが,肝転移や肺転移をしている場合であっても,癌細胞のすべてを切除することが可能であれば根治が望め,肝切除後の5年生存率が20%ないし60%,肺切除後の5年生存率が30%ないし60%と長期生存が期待できることから,切除可能な症例であれば,外科手術が第1選択である(甲B52,61,65,71,72,鑑定人K)。
 肝転移,肺転移の手術適応の原則は,@原発巣が制御されていることA転移巣を遺残なく切除できることB多臓器転移がないか又は制御可能なことC切除臓器機能が十分に保たれていることとされており(甲B71),特に肝臓は,肝硬変が合併していなければ肝臓の約70%を安全に切除することが可能とされていることから,理論的には多発性であったとしても手術適応の可能性がある(甲B29,71)。もっとも,実際の肝転移の手術適応の判断は,術前診断での転移個数で決定されることが多く,非常に積極的に切除する医療機関においては,条件次第で,転移巣が20個程度であっても切除手術を行うことがあるものの,多くの医療機関では,数個程度で手術適応がないと判断されるのが通常であった(甲B6の3,33,52,104,鑑定人J)。
    (イ) 熱凝固療法
 熱凝固療法は,熱によって癌組織を壊死させる治療法で,マイクロ波凝固療法,ラジオ波焼灼療法がある(甲B72,103)。マイクロ波凝固療法及びラジオ波焼灼療法は,原則として,肝癌及び転移性肝癌に対し,肝切除よりも侵襲の低い治療として肝切除の代わりに行われるものであるが(甲B70,鑑定人J,弁論の全趣旨),肝切除と併用されることや肝切除不能の場合に施行されることもある(甲B34,70,72,103)。また,ラジオ波焼灼療法を肺転移の症例に対して応用して効果をあげたとの報告も存在する(甲B91)。
 東京大学消化器内科の発表によると,大腸癌肝転移症例に対しラジオ波焼灼療法を施行した36例(H1〔一葉のみ肝転移を認めるもの〕23例,H2〔両葉に少数散在性に肝転移を認めるもの〕10例,H3〔両葉に多数散在性に肝転移を認めるもの〕3例,病変数は,1個14例,2個10例,3個2例,4個7例,5個以上3例)において,5年生存率は76%であったとされている(甲B70,弁論の全趣旨)。
(続く)

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