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大腸癌(大腸がん)

以下の判例から
前掲
平成19年 8月24日 東京地裁 判決 <平15(ワ)25825号>

(続き)
    (ウ) 化学療法
 癌の切除が不能の場合,主に行われる治療は,生存期間の延長を目的とした化学療法である。もっとも,平成14年当時,日本の大腸癌に対する化学療法は,著明な副作用(骨髄抑制,下痢,食欲不振,脱毛等)の出現の問題,奏功率の悪さ等から標準的治療指針ではなく,患者の全身状態を考慮に入れ,医師の判断と患者の希望,生活環境を加味した上で治療が選択されるという状況であった(鑑定人K,同J)。
 平成14年当時,大腸癌化学療法で使用されていた主な抗癌剤は5−フルオロウラシル(以下「5−FU」という。)である。5−FUは,その効果を増強させるためにロイコボリン(以下「LV」という。)と共に使用されていた(以下,5−FUとLVの投与を「5−FU+LV」という。)。5−FU+LVの効果については,奏功率21%,治療を開始してからの平均生存期間12.5か月との報告があるが,この報告は欧米のもので,5−FUについては,人種間で投与可能な量に差があるとされ,黄色人種では投与量が低く設定されていたため,日本人に対して投与された場合,報告どおりの延命効果が得られたかどうかは明らかではない(鑑定人K)。
 なお,奏功率とは,画像上で腫瘍の大きさが2分の1以下になる確率のことであり,必ずしも生存期間の延長とは相関しない(鑑定人K,同J)。抗癌剤が奏功したとしても,その後,小さくなった癌が急速に増殖したり,抗癌剤の副作用が原因で合併症を起こすなどして,結果として生存期間が短縮してしまうこともあり,また,反対に,抗癌剤が奏功しなくても,癌の増殖が長期間停止し,生存期間の延長が得られることもある(鑑定人K,同J)。また,奏功率が悪ければ,生存期間の延長もあまり期待できないとされている(鑑定人K,弁論の全趣旨)。
 平成14年当時,大腸癌に対する抗癌剤としては,5−FUに加えて,塩酸イリノテカン(CPT−11)(以下「イリノテカン」という。)も使用可能であり,5-FUとイリノテカンを併用することにより肝転移,肺転移を伴う大腸癌に対し,高い治療効果を得られた旨の報告もあるが,当時,イリノテカンについては,どの程度の効果があるか判明しておらず,十分に普及していない状況であり,5−FU+LVによって効果がなければ,他の抗癌剤治療は行わないのが一般であった。(甲B64,94,102,鑑定人L,同J,同K)
  (4) 大腸癌の肝転移のダブリングタイム
 ダブリングタイムとは,細胞1個が2個,すなわち倍になるために必要な期間のことで,腫瘍ダブリングタイムは,腫瘍マーカーダブリングタイム(血中の腫瘍マーカーの数値が2倍になるのに必要な期間)と,強い相関関係があることが報告されている(乙B6,甲B73)。そして,金沢大学がん研究所外科教室の報告によると,大腸癌肝転移症例のCEAダブリングタイムは10日から112日の間と広範囲に分布し,その平均は57.8日±35.4日(同教室の別報告では68.2日±33.4日)とされており(甲B51,乙B9),また,癌の組織型が,高分化型腺癌の場合は,77.2日±36.3日,低分化型腺癌では19.0±7.8日であり,高分化型腺癌と低分化型腺癌で有意差が認められたとされている(乙B9)。

  (5) 大腸癌の肝転移患者の自然予後
  C.B.Woodらが結腸直腸(大腸)癌が原発の肝転移患者113人を対象に行った自然予後に関する調査によると,肝両葉の広範囲に転移した患者をグループ1,肝の1つの区域または葉に限局した転移巣が幾つかある患者をグループ2,肝に孤立した転移巣がある患者をグループ3と分類した場合の各グループの平均生存期間は,グループ1で3.1月,グループ2で10.6月,グループ3で16.7月であるとされている。(甲B42,43)

  (6) その他
   ア 鉄欠乏性貧血
 鉄欠乏性貧血とは,生体内でヘモグロビンの合成に必要な鉄が不足し,ヘモグロビンの合成が十分に行われないために生じる貧血で,日常もっとも多く見られる貧血である。そして,成人女性の約10%は鉄欠乏性貧血であるといわれている(甲B6の4,甲B10)。
 鉄欠乏性貧血の原因としては,成長期や妊娠時の鉄分の需要増大,栄養の偏りによる鉄分の摂取不足又は出血であり,出血の原因としては,生理による出血,子宮筋腫や子宮内膜症による月経過多,消化管の潰瘍や腫瘍による出血,痔疾の出血などが挙げられる(甲B9の1ないし8,甲B11)。
   イ 過敏性腸症候群(過敏性腸炎)
 過敏性腸症候群とは,腹痛を主症状とし,慢性的あるいは反復的に便秘,下痢あるいは便秘と下痢交代の便通異常を示す機能的疾患であり,診断を下す際には,器質的疾患(腫瘍,潰瘍,炎症性腸疾患等のレントゲンや内視鏡で見つかる形態的な異常)の除外診断を行う必要があるとされている(甲B82,83,証人H)。

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