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肝臓機能検査、C型慢性肝炎

以下の判例から
平成19年 7月30日 大阪地裁 判決 <平18(ワ)1889号>
一部認容、控訴
要旨
被告病院を受診しており、C型肝炎進行後の肝臓癌で死亡した患者の遺族が、病院にはC型肝炎ウイルス検査につき、患者に対し、鑑別診断及び治療を行うべき注意義務違反があると主張して、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、本件患者は、被告医師による各種検査指示や禁酒指示を受けてもそれに従わないなど受診態度が悪いと認められるが、医師は、人の生命及び健康を管理すべき業務に従事している以上、患者の検査拒否を安易に受け入れるのではなく、改めて、患者に対し、説明・説得する義務を負うべきところ、被告医師には、C型肝炎ウイルス検査を受検するよう説得を試みなかった義務違反があるとした上で、同義務違反により患者の死期を早めたとして、慰謝料請求を認めた事例
出典 判時 2017号110頁

  (2) 医学的知見
 《証拠省略》によれば、以下の医学的知見が認められる。

   ア 肝臓機能検査(血液検査)について
 (ア) トランスアミナーゼ(GOT、GPT)
 正常肝ではGOT>GPTでいずれの酵素も正常値を示すが、慢性肝炎、(肥満性)脂肪肝、急性肝炎の回復期などではGOT<GPTの比率でトランスアミナーゼの上昇を示し、一方、肝硬変、肝臓癌、(アルコール性)脂肪肝、急性肝炎極期、劇症肝炎などではGOT>GPTの比率でトランスアミナーゼの異常値を示す。
 (イ) γ―GTP
 γ―GTPは、主として、次の三つの状態のときに上昇する。
 第一に、アルコール性肝障害である。アルコール多飲者の場合には、トランスアミナーゼやALPの上昇と大きく解離して、γ―GTPの強い上昇をみることが多い。
 第二に、胆道の閉塞状態により上昇する。ALP、LAPと同時に異常値となっていることを確認する必要がある。
 第三に、γ―GTPはウイルス性慢性肝炎や肝硬変で活動性の高い状態のときに上昇する。トランスアミナーゼと並行して高値となるが、トランスアミナーゼに比し上昇の程度は軽度である。
 (ウ) MCV
 MCVが増加する疾患として、肝硬変、特にアルコール性肝硬変がある。
 (エ) A
G比
 A
G比が一・五未満となると慢性肝炎から肝硬変への移行時期である。一・〇前後まで低下すると肝硬変が進行し、非代償期肝硬変の像を示している。
   オ ZTT及びTTT
 慢性肝炎や肝硬変ではZTT、TTT共に上昇し、トランスアミナーゼ正常の慢性肝疾患のスクリーニングに有用である。

   イ C型慢性肝炎について
 (ア) C型慢性肝炎とは、C型肝炎ウイルスの持続感染により惹起される肝の持続性の炎症である。慢性肝炎は、我が国における慢性肝疾患中最も多い疾患であるが、このうち、C型肝炎ウイルス感染によるものが最も多い。
 C型肝炎ウイルスは、大きく分けて六つの遺伝子型(ジェノタイプ)に分類されているが、このうち、日本では1bが全体の約七〇%を占め、次いで2aが約二〇%、2bが約一〇%となっており、これ以外の型はごく少数にみられるにすぎない。
 (イ) 感染源は、C型肝炎ウイルス持続感染者(以下「HCVキャリア」という。)の血液が主である。医療従事者の針刺事故、滅菌が不十分な医療器具による医療、刺青、覚せい剤静脈注射の回し打ちなどの経皮感染は感染源として重要である。
 (ウ) C型慢性肝炎の発見の動機の約八〇%は、健康診断、人間ドック、献血時あるいは他の疾患の検査中などに偶然血液検査で肝機能異常が発見されるケースである。
 C型肝炎ウイルスに感染しているか否かを検査する方法として、HCV抗体検査、HCVコア抗原検査及び核酸増幅検査がある。現在では、HCVキャリアとHCVキャリア感染既往者とを適切に区別するためにこれら三つの検査法を組み合わせて判断する方法が一般的である。
 (エ) C型慢性肝炎になった者の一部は、肝硬変、肝臓癌に進展する(高率に進展するとの見解もみられる。)。
 なお、HCVキャリアで飲酒の習慣がある者は、ない者より、肝炎の病期がより速く進展し、アルコールは、C型慢性肝炎・肝硬変において、肝臓癌発生のリスクを増加させるとの報告がある。
 (オ) C型肝炎の治療としては、抗ウイルス療法により、C型肝炎ウイルスの駆除を図る、肝庇護療法(抗炎症療法)により肝の線維化進展の阻止又は遅延を図る、画像診断と腫瘍マーカーを用いた肝臓癌の早期発見と早期治療により延命を図るといった方法がある。
 血中のC型肝炎ウイルスの量にもよるが、インターフェロン単独での治療を行った場合、ウイルスのジェノタイプ1bでは約二〇%、2aでは約六〇%、2bでは約四〇%の人において、C型肝炎ウイルスが駆除され、慢性肝炎が治癒するという成績が得られている。このように、インターフェロン単独治療での有効率は平均すると約三〇%であるが、近年、抗ウイルス薬であるリバビリンと併用することにより、四〇〜五〇%の有効率が得られることが分かってきている。インターフェロンとリバビリンの併用療法は、平成一四年一二月から医療保険適用となった。
 スミフェロンの添付文書には、重要な基本的注意事項として、C型慢性肝炎におけるウイルス血症の改善へのスミフェロンの使用に当たっては、HCV RNAが陽性であること、自己免疫性肝炎、アルコール性肝炎等その他の慢性肝疾患でないこと、及び肝硬変を伴う慢性肝炎でないこと、並びに肝不全を伴わないことを確認する、ウイルス量、セロタイプ、ジェノタイプ等により有効性が異なるので、適切な症例及び用法・用量を選ぶこととの記載がある。
 インターフェロンの使用に当たっては、アルコール肝炎でないことを確認する必要があるから、アルコール性肝炎とC型肝炎の合併症例については、インターフェロンの使用に先立って相当期間禁酒する必要がある。
 なお、飲酒がインターフェロンのC型肝炎ウイルスに対する効果を減弱させるとする報告もある。
(続く)

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