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虚血性腸炎、急性腸間膜動脈閉塞症

以下の判例から
平成19年 6月 6日 東京地裁 判決 <平17(ワ)14966号>
請求棄却
要旨
吐き気、腹痛等により被告病院を受診し、その2日後腹痛を訴えて被告病院に入院した患者につき、被告病院医師が、腹腔動脈および上腸間膜動脈の閉塞を疑い、それに必要な検査・治療等を行わなかったため、患者が死亡したとして遺族である原告が損害賠償を請求した事案において、患者に対しては腹部超音波検査およびCT検査が行われてきており、いずれも異常所見はなかった、原告主張にかかる諸検査を行ったとしても発症を疑うことができたか定かでなかったなどとして、原告の主張する検査・治療義務を否定し、請求を棄却した事例出典 ウエストロー・ジャパン


 2 虚血性腸炎等に関する医学的知見
 証拠(甲B1ないし6,乙B1ないし5,証人D)によれば,次の医学的知見を認めることができる。

  (1) 虚血性腸炎の概念と分類(甲B1ないし3)
   ア 虚血性腸炎(腸管虚血,intestinal ischemia)は,腸間膜動静脈の閉塞・狭窄による小腸や大腸の循環障害や,腸管内圧の亢進などによって生じるとされ,血流障害の程度や側副血行路形成の程度によって,様々な臨床症状を呈する疾患である。虚血性腸炎の分類としては,動脈閉塞性(急性腸間膜動脈閉塞症など),動脈非閉塞性(虚血性大腸炎,虚血性小腸炎など)及び静脈性が挙げられている。高齢,心血管疾患(動脈硬化症,心房細動等)などは,虚血性腸炎のリスクファクターであるとされる。

   イ 急性腸間膜動脈閉塞症(甲B1ないし4,乙B2ないし5,証人D)
 (ア) 意義及び症状
 急性腸間膜動脈閉塞症は,虚血性腸炎のうち,動脈閉塞性の疾患であり,腸間膜動脈(上腸間膜動脈及び下腸間膜動脈)の主幹動脈の閉塞により腸管が短時間のうちに壊死に陥る重篤な疾患である。上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)閉塞による発病が多くを占め,その死亡率は40ないし80%と高率であって,ショック合併例や複数の基礎疾患を有している症例は死亡率が高い。
 病因としては,血栓及び塞栓が挙げられ,血栓症では,基礎疾患として高度の動脈硬化が多く,血管造影所見の特徴としては,上腸間膜動脈起始部での閉塞が見られる。塞栓症では,基礎疾患として弁膜症や心房細動などの心疾患が多く,血管造影所見の特徴としては,上腸間膜動脈末梢での閉塞が見られる。
 臨床症状は,突然の激しい腹痛(鎮痛薬は無効なことが多い),嘔吐,下痢及び下血があり,腹部の理学的所見に比べて腹痛の程度が高度であるとされる。
 なお,上腸間膜動脈症候群とは,上腸間膜動脈が十二指腸を圧迫して通過障害を起こす病態であり,上腸間膜動脈閉塞症とは全く異なる疾患である。
 (イ) 診断及び治療方法
 血液検査では,発症初期に好中球増多,腸管壊死が起こるとGOT,GPT,CPKの値が上昇するが,特異的な所見はない。急性期に腹腔動脈,腸間膜動脈の動脈撮影(血管造影)を行い,陰影欠損が認められれば,確定診断が可能である。また,CT検査による腸管壁の肥厚,上腸間膜動脈の造影欠損及び血栓像やカラードップラーによる血流の消失を検出することも診断の一助となる。早期診断が最も重要であるが,実際にはなかなか難しいとされる。
 治療方法としては,直ちに緊急手術(血行再建術,壊死腸管切除術など)を行う。発症早期であれば,ヘパリン(抗凝固剤),ウロキナーゼ(血栓溶解剤)の投与等を行うこともあるとされる。

   ウ 虚血性大腸炎(甲B1ないし3)
 (ア) 意義及び症状
 虚血性大腸炎は,虚血性腸炎のうち,動脈非閉塞性の疾患であり,一過性型,狭窄型及び壊死型に分類され,狭義では前二者を指すのが一般的である。主な疾患因子として,動脈硬化,心不全,血管炎,腹部大動脈手術,便秘などが挙げられている。
 症状は,腹痛,下血(新鮮血),水様性下痢であり,吐き気,嘔吐,発熱を認めることもあり,理学的所見では左下腹部に圧痛がみられるとされる。
 (イ) 診断及び治療方法
 検査所見では,白血球増多,CRP上昇をみるが,非特異的変化である。レントゲン検査では,拇指圧痕像(thumb-printing),内視鏡検査では,粘膜の黒赤色調で浮腫状のびらん,発赤,粘膜下層の出血,縦走潰瘍や管腔の狭小化やけいれんを認める。
 治療は,原則として腸管安静(絶食),輸液などの保存的療法を行う。腹痛が強い場合は,鎮痛剤,鎮痙剤を筋注する。一過性では約1週間の治療で軽快する。
  (2) 腹部アンギーナ(甲B5)
 腹部アンギーナ(間欠的腸間膜虚血)とは,腸間膜血管の慢性虚血が原因となって,食後15ないし60分の間に間欠的な仙痛(腹部の管腔臓器の壁をなす平滑筋の攣縮に起因する疼痛)が上腹部又は臍周囲に起こる病態をいう。治療は,根治的には動脈の再建を行う。

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