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意識障害、術後管理と低酸素血症

以下の判例から
平成19年 3月 9日 大阪地裁 判決 <平17(ワ)6087号>
一部認容、確定
要旨
被告の開設する病院で、直腸ガンの治療のため、腹会陰式直腸切断術を受けた本件患者が、術後、低酸素脳症を発症し、死亡するに至ったことについて、患者の夫と子が、被告に対し不法行為に基づく損害賠償を請求した事案において、本件患者の術後管理につき、本件患者が十分に覚醒した状態にあったとはいえない段階で、術後管理に習熟していたとは認められない看護師のみに、具体的な指示をすることなく監視をゆだね、さらに同看護師も適切な監視を怠ったことにより、本件患者の呼吸抑制ないし低換気の進行を見落とした過失があり、そのため、本件患者は低酸素血症から低酸素脳症に至り、最終的に死亡するに至ったとして、術後管理上の過失と死亡との間に相当因果関係を認め、被告に損害賠償責任があるとした事例
出典 判時 1991号104頁


第四 基礎となる医学的所見

 一 意識障害の判定基準
  (1) 意識には、「覚醒」と「意識内容」の二つの側面があるところ、「覚醒」とは、目覚めていることであり、開眼・動作・発語のいずれかを確認することで評価する。一方、「意識内容」とは、覚醒して初めて問題となり得る意識の中身であり、通常、質問に対する患者の回答などによって評価する。
  (2) Japan Coma Scale(以下「JCS」という。)は、急性期意識障害の評価に際し、最も重要な覚醒障害の有無と程度を重症度の基準として意識障害が分類されているもので、術前・術後の意識状態のチェックに有用とされている。もっとも、この「覚醒」の評価には十分な理解と注意が肝要であるとされ、この点が、評価者によって不一致が生ずる原因として指摘されている。
  (3) JCSにおける具体的な判定基準内容は、一般的に次のようなものである。
   T群 刺激しなくても覚醒している。
 一 だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない。
 二 時、場所又は人物が分からない。
 三 名前又は生年月日が分からない。
   U群 刺激すると覚醒する。刺激をやめると眠り込む。
 一〇 普通の呼びかけで容易に開眼する。
 (合目的な運動〔例えば、右手を握れ、離せ〕をするし言葉も出るが、間違いが多い)
 二〇 大きな声又は体をゆさぶることにより開眼する。
 (簡単な命令に応ずる、例えば離握手)
 三〇 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、辛うじて開眼する。
   V群 刺激をしても覚醒しない。
 一〇〇 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする。
 二〇〇 痛み刺激に対し手足を動かしたり、顔をしかめる。
 三〇〇 痛み刺激に反応しない。
 (括弧内は、開眼が不可能なときの反応を表す。)

 二 術後管理と低酸素血症
 脳は、低酸素に対して最も感受性が高い臓器であり、低酸素下での脳組織の生存期間は三分未満とされているところ、低酸素血症は、典型的な術後合併症の一つとされており、手術直後において動脈血酸素飽和度九〇%未満の低酸素血症が起こる頻度は三五〜六〇%、同八五%の重度低酸素血症が起こる頻度は一二〜二二%という報告があるともされている。また、高齢者、開腹手術、全身麻酔後等において、低酸素血症が起こりやすいとされている。
 このようなことから、術後管理においては、低酸素血症につながる呼吸抑制や低換気の発見、診断が重要であるとされている。また、呼吸抑制ないし低換気の原因としては、麻酔薬・鎮静薬・鎮痛薬による中枢神経抑制のほか、中枢神経系抑制や筋弛緩薬残存などがある場合に生ずる舌根沈下による上気道狭窄等が挙げられている。
 呼吸抑制ないし低換気の発見、診断方法としては、呼吸数、呼吸様式、呼吸の深さを観察するなどの視診や、呼吸音を聴く聴診、意識レベル・筋力レベルのチェック等が挙げられている。チアノーゼが見られるともされるが、貧血の場合には著明に現れないとされる。また、血中酸素飽和度をモニターすることも推奨されている。
 気道閉塞から心停止に至るまでの時間については、概ね五分から一〇ないし一二分程度であると考えられている。
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