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MRSA

以下の判例から
平成19年 2月14日 名古屋地裁 判決 <平15(ワ)5307号>
一部認容、控訴
要旨
生体肝移植手術を受けた後にMRSA感染症により感染性心内膜炎を起こし、脳内出血によって死亡した患者について、適切な治療を行ったとしても患者が治癒した高度の蓋然性は認められないが、バンコマイシンの適切な投与によって症状や検査値が急激に悪化せず、患者が死亡した当時において、未だ生存していた相当程度の可能性はあるとして原告の請求が一部認容された事例
術後の感染症に対する処置も手術と一体不可分の治療行為であり、手術後の術後管理に注意義務違反がある以上、手術に対する診療報酬支払い債務も生じないとされた事例
出典 裁判所サイト、判タ 1282号249頁 


  (3) 一般的な医学的知見

   ア MRSA

    (ア) MRSAの概要(今日の診療プレミアムVol.13。甲B12添付の文献2)
 (定義及び頻度)
 ペニシリナーゼ抵抗性薬物であるメチシリンに耐性を示す黄色ブドウ球菌であって,メチシリン以外にもセフェム,マクロライド,アミノグリコシド系薬物に耐性を示す多剤耐性菌である。現在のわが国において分離される黄色ブドウ球菌のうち40ないし70パーセントを占める。院内感染の原因菌として重要であり,入院患者のMRSA保菌者(鼻腔あるいは咽頭)は,約2ないし20パーセントとされている。
 (病態及び症状)
 主として,悪性腫瘍や自己免疫疾患患者,外科手術後の患者,高度熱傷患者,老年者,産褥にある婦人,新生児など感染抵抗性を減弱させる全身的要因を有する場合(易感染性宿主)に,治療抵抗性の難治性感染症を引き起こす。MRSAは,各種抗菌薬に対して高度耐性という性質を合わせ持つために,特に易感染性宿主において,敗血症,心内膜炎,肺炎,腸炎,尿路感染症,皮膚軟部組織感染症など,局所あるいは全身の難治性感染症を引き起こす。
 MRSA感染症に特徴的な症状や所見はない。当然ながら感染部位によって症状も異なり,敗血症及び心内膜炎では悪寒戦慄や発熱,肺炎では咳嗽,膿性痰,発熱,腸炎では水様性下痢,発熱などが認められる。もっとも,高齢者や免疫能の低下した患者では,発熱の見られないこともある。
 (検査所見)
 血液検査では,白血球数(WBC)の増加,左方移動,赤沈の亢進,C反応性蛋白(CRP)の上昇が見られる。免疫不全や敗血症の患者では,これらの反応が見られず,白血球数はむしろ減少することもある。

    (イ) 治療薬(MRSA感染症と薬物治療のコツ(追補改訂版)・平成13年発行。甲B4)
 現在日本でMRSA感染症治療用に認可されている注射用抗生物質は,アルベカシン(ハベカシン),バンコマイシン,テイコプラニンの3種である。このほかに特殊用途用薬剤として,MRSA腸炎に用いられる経口用塩酸バンコマイシン散,鼻腔内MRSA除菌用の局所薬としてムピロシンがある。

 a バンコマイシン(点滴静注用)
 (効能・効果)
 メチシリン・セフェム耐性の黄色ブドウ球菌のうち本剤感性菌による下記感染症。
 敗血症,感染性心内膜炎,骨髄炎,関節炎,熱傷・手術創等の表在性二次感染,肺炎,肺化膿症,膿胸,腹膜炎,髄膜炎。
 (用法・用量)
 通常,成人には塩酸バンコマイシン散として1日2g(力価)を,6時間ごとに0.5g(前同)又は12時間ごとに1g(前同)あて,それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお,年齢,体重,症状により適宜増減する。
 高齢者には,12時間ごとに0.5g(前同)又は24時間ごとに1g(前同)あて,それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお,年齢,体重,症状により適宜増減する。
 小児,乳児には,1日40mg(前同)
kgを2ないし4回に分割し,それぞれ60分以上かけて点滴静注する。
 (主な副作用)
 バンコマイシンの副作用として特に留意すべきものとして,redneck syndrome及び腎毒性が挙げられる。
 腎毒性については,欧米におけるバンコマイシン開発当初の治験薬にてBUN(blood urea nitrogen)上昇が患者の25パーセントに見られたとの報告もあり,欧米における発売当初は腎毒性が懸念されていた。その後の研究では,バンコマイシンを投与された重症患者で腎毒性の見られた例は0ないし7パーセントと報告されている。
 日本でのバンコマイシン市販後6年間の調査では,3009例中,腎障害・腎機能異常は149例(5.0パーセント)となっている。このように腎障害発生率が比較的低かったのは,わが国では用量及び投与日数が過大にならないように注意が払われていること,バンコマイシンの供給会社が血中濃度モニタリング(TDM)を積極的に薦め,投与症例の約2分の1において血中濃度モニタリングが実施されていることと関係があると考えられている。
 (血中濃度モニタリング)
 バンコマイシンには腎毒性・耳毒性が報告されているので,これらを防ぐために,また他方,有効な血中濃度を確保するために血中濃度モニタリングを行うことが望ましい。
 特に,腎障害患者,未熟児・新生児・乳児,高齢者,腎障害・聴覚障害を起こす可能性のある薬剤(アミノグリコシド系薬など)を併用中の患者などに対しては,血中濃度モニタリングを行うなどして慎重に投与することが望ましい。
 バンコマイシンの添付文書には,「点滴終了1〜2時間後の血中濃度は25〜40μg
ml,最低血中濃度(次回投与直前値)は10μg
mlを超えないことが望ましい。点滴終了1〜2時間後の血中濃度が60〜80μg
ml,最低血中濃度が30μg
ml以上を継続すると,聴覚障害,腎障害等の副作用が発現する可能性がある。」と記載されている。

 b 経口用塩酸バンコマイシン散
 (効能・効果)
 バンコマイシンは,経口投与した場合に腸管から吸収されることはほとんどないため,経口投与により全身の感染症への効果は期待できない。逆に,点滴投与しても腸管内の細菌感染症には効果は期待できない。したがって,MRSA腸炎に対しては,経口投与のみが有効であることに留意する必要がある。また,米国疾病管理センター(CDC。Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインでも触れられているように,消化管内の除菌のためにグリコペプチド系薬を経口的に投与することは,グリコペプチド耐性の拡大を助長するおそれがあるので,骨髄移植時のように本当に必要なときを除いて,安易に消化管内の除菌に用いることは慎まなければならない。
 (用法・用量)
 メチシリン・セフェム耐性の黄色ブドウ球菌による腸炎においては,用時溶解し,通常,成人1回0.125ないし0.5g(力価)を1日4回経口投与する。なお,年齢,体重,症状により適宜増減する。
(続く)
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