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腎膿瘍、肺動脈血栓塞栓症

以下の判例から
前掲
平成18年12月25日 東京地裁 判決 <平16(ワ)8900号>


   エ 腎膿瘍(甲B3,4,5,乙A13,丙A1,2)
 腎膿瘍とは,腎被膜を超えない腎実質内に限局して膿が貯留する感染性化膿性の炎症疾患であり,化膿性炎症が被膜,筋膜に進展すると腎周囲膿瘍と呼ばれる。早期診断及び治療の遅れから致命的となり得る重症感染症であるとされている。
 原因菌は,血行性のものは黄色ブドウ球菌が主で腎皮質に膿瘍を形成する。上行性のものは大腸菌,腸球菌,黄色ブドウ球菌が主で腎髄質膿瘍を形成し,腎膿瘍の4分の3はこのタイプとされているが,腫瘍等の疾患を合併しているものが多い。
 感染経路としては,口腔等の感染病巣からの血行性あるいはリンパ行性感染,尿路感染症による逆行性(上行性)感染があり,細胞性免疫機能が低下しているような状態で発症する場合があるとされている。
 腎膿瘍の臨床症状としては,急性期には発熱,悪寒及び罹患側の強い腰背部痛がみられ,膀胱炎症状,体重減少あるいは倦怠感を訴えることもあり,腰部の皮膚の浮腫状変化,有痛性腫瘤,瘻孔を形成することもある。
 上行性のものでは腎盂腎炎と区別することができず,血行性の膿瘍で腎盂腎杯(尿路)との交通がない部位に膿瘍ができたような場合は膿尿や細菌尿といった尿所見を呈さないこともある。
 検査所見としては,急性期には血液検査で白血球増加及び白血球分画の左方移動,CRP強陽性あるいは血沈亢進などの炎症所見を呈する。
 臨床症状,超音波,CTで診断は容易であり,超音波検査では腎内に境界明瞭でエコーフリー若しくは低エコーの占拠性病変(SOL)として認められる。急性期には膿瘍の境界は区別し難いが,周囲の腎皮質に浮腫が見られ,次第にSOLとしてはっきりする。
 腎膿瘍の鑑別診断としては,腫瘤性病変,特に腎がんとの区別が必要となる。
 治療としては,起炎菌に応じて選択される抗菌薬の投与と外科的ドレナージが重要とされているが,腎膿瘍初期では抗生剤の投与と経過観察で対応でき,外科的治療は必ずしも必要でないとのエビデンスもある。


   オ 肺動脈血栓塞栓症(乙A13,B1,5,6,6の2ないし8,7の4,5,丙A1,2,証人D)
 肺動脈血栓塞栓症は,深部静脈に形成された血栓が遊離し,肺動脈幹部及び左右の主枝が急に血栓性栓子により閉塞し,急速に呼吸循環障害を来す疾患であり,突然死を来す場合が少なくないとされ,塞栓発症後死亡までの時間については,1時間以内に34%,24時間以内に39.2%,2,3日以内に26.8%が死亡するという報告もある。
 急性肺動脈血栓塞栓症の病態の中心は,急速に出現する肺高血圧と低酸素血症である。心臓疾患のない正常右心室が発生できる肺動脈圧は平均40mmHgとされているところ,それ以上の負荷が加わると急速に右心不全が生じるが,肺動脈血栓塞栓症を来すと急速な右心室圧上昇とそれに続く急性右心不全,呼吸困難,チアノーゼ等を伴ううっ血性心不全,心拍出量の減少と脳ないし冠動脈血流の減少に由来する著明な左心不全等から心原性ショックに陥り心肺停止となり,肺動脈主幹部が血栓により完全閉塞を来せば瞬時に循環停止となることもある。
 文献上は,急性肺塞栓症の20ないし30%に重症広汎型の肺動脈血栓塞栓症(Massive Pulmonary Embolism(Massive PE))がみられ,うち約半数は積極的治療にもかかわらず死亡するとされている。Massive PEは,全肺血管床の30%以上が血栓子によって急激に閉塞された場合に発生し,急性の肺高圧症,右心不全を経て,ショックを招来するとされている(全肺血管床の60%以上が閉塞すると,平均肺動脈圧,右心室の収縮期血圧も高度に上昇して生体が耐えうる右心負荷の限界となるとされている。)。さらに,Massive PEにおいては,肺循環・右心系に対する急激な圧負荷で心拍出量が低下し,二次的に左心機能障害をもたらし,肺静脈圧,肺毛細血管圧の上昇が起こり心原性肺水腫が発生するとともに,低酸素血症を引き起こして反射性頻脈を伴う心原性ショックを招来するとされており,殊に基礎心肺疾患を有する場合では,より軽度の閉塞でもショックを来し突然死に至ることがあるとされている。
 血栓塞栓の要因は,一般的に血流の緩徐,血液凝固の亢進,血管壁障害とされているところ,肺血栓塞栓症の原因となる血栓の発生母地としては,右心系の血栓(静脈血栓)が重視されており,その部位については,上大静脈領域6%,心腔内31%,下大静脈領域63%(このうち,下大静脈14%,総腸骨静脈14%,骨盤静脈叢8%,大腿静脈13%)とする報告や,下大静脈領域由来の血栓について大腿静脈13%,膝窩静脈34%,後脛骨・腓骨静脈近位部32%,ヒラメ筋静脈8%,後脛骨・腓骨静脈遠位部13%という報告もある。
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