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カテーテル感染症、縫合不全など

以下の判例から
平成18年11月22日 東京地裁 判決 <平16(ワ)203号>
一部認容、確定
要旨
大腸癌の切除手術を受けた訴外患者が死亡したことにつき、医師において早期にカテーテル感染症を疑ってIVHカテーテルを抜去する義務を怠った過失があり、同過失と患者との死亡との間に因果関係も認められるとして、病院の不法行為責任が認められた事例
出典 裁判所サイト、判タ 1265号293頁、判時 1986号75頁、ウエストロー・ジャパン


 2 医学的知見

  (1) カテーテル感染症について
   ア カテーテル感染症の発生機序
 IVHカテーテルの合併症として、カテーテルからの感染症がある(甲B3)。これは、血管カテーテルは生体にとって異物であるため、その周囲には血栓やフィブリンが付着することになり、これが細菌や真菌の培地になることによるものである(甲B7〔340〕)。
 カテーテル感染症の発症には、留置カテーテルへの細菌の侵入ないし付着が重要であり、その感染経路としては、〈1〉カテーテル挿入部周囲の皮膚に存在する菌がカテーテルの外表面に沿って侵入する、〈2〉輸液中やドレーンバッグで増殖した菌や、三方活栓や接続部から侵入した菌が、カテーテル内側表面に沿って侵入する、〈3〉身体の他の部位の感染症により菌血症ないし敗血症が生じた場合に、血液中の細菌が直接カテーテルに付着する等が考えられている(甲B8〔170、171〕、甲B9〔317〕、乙B1〔170、171〕)。
   イ カテーテル感染症の診断
 カテーテル感染症の主症状は発熱であり、他の部位からの敗血症が原因となった場合以外は、突然の高熱で発症し、発熱以外の症状に乏しいのが一般的である。1日の差が1度以上の熱型をとり、38度以上、時には39度を超える発熱を見る場合もある(甲B7〔340、341〕)。
 カテーテル感染症の確定診断には、血液培養による検査が必要であるが、カテーテルを留置中に他に明らかな感染病巣がなく、悪寒や戦慄を伴う弛張熱を呈したり、突然に39度以上の高熱となった場合にはカテーテル感染症を疑うとされる(甲B8〔170、172〕、乙B1〔170、172〕)。
   ウ カテーテル感染症に対する措置
 カテーテル感染症に対する措置は、まずカテーテルを抜去することであり、カテーテル感染症を疑った場合には、原則として、速やかにカテーテルを抜去するとされており、抜去のみで改善し治癒することが多い。抜去のみによって改善するのは、生体にとって異物であるカテーテルが抜去されることにより、感染のフォーカスがなくなることによるものとされる。その後も発熱が持続する場合には、他の部位の感染を念頭に置いて全身を検索するとともに、カテーテル抜去時のカテ先やカテーテル血の培養が陽性であった場合には、抗菌薬を投与するとされている(甲B7〔341〕、甲B8〔172〕、甲B9〔449〕、甲B11〔920〕、甲B12〔146〕、甲B13〔113〕、甲B15〔41、43〕、甲B22〔1723、1724〕、甲B23〔486、831、832〕、甲B24〔163〕、甲B25〔2〕、乙B1〔172〕、乙B2〔17、25〕、己原〔12〕)。
 カテーテル感染症に対する措置として、留置している静脈内カテーテルは抜去し、新しいカテーテルを他の部位に挿入する、とする文献もある(甲B23〔831、832〕)。

  (2) 縫合不全について
   ア 縫合不全の原因、臨床所見について
 大腸癌切除手術の術後合併症の一つとして、縫合不全がある。縫合不全の初期の病態は、消化管外に漏れた消化液による局所の炎症と膿瘍形成に由来する。膿瘍が形成されると、38度以上の弛張熱がみられ、理学的に圧痛が認められる。膿瘍周囲の腸管は多少なりとも麻痺状態をきたし、時に患者は自発痛、嘔気を訴えるとされる(乙B3〔882〕)。
   イ 縫合不全の診断について
 縫合不全は、術後3ないし10日に起きることが多い。縫合不全の症状・所見としては、〈1〉疼痛、圧痛、筋性防御等の腹膜刺激症状、〈2〉発熱、頻脈、呼吸逼迫、腸管麻痺、嘔気、〈3〉ドレーン浸出液の排液量の増加、汚色、腐敗臭等がある。また、一般検査所見として、〈1〉白血球増多、CRP及び血沈の亢進、〈2〉腹胸部単純X線検査における交感性胸水貯留、異常なガス像等があるとされる(乙B2〔190〕、乙B3〔757、882、883〕、乙B4〔118〕)。
   ウ 縫合不全の治療について
 縫合不全の保存的治療の原則は、〈1〉栄養管理、〈2〉腸管内容漏出の防止、〈3〉感染の除去であるとされる。そのため、まず絶食とし、栄養管理のため中心静脈栄養を行う。投与カロリーは、50kcal/kg/dayが必要であるとされる。漏出した腸内容や膿汁のドレナージ効果を高めるために、低圧持続吸引と十分な洗浄を行い、抗生剤は、感受性のあるものを投与するとされている(乙B2〔190ないし192〕、乙B3〔883〕、乙B4〔118〕、乙B5〔119〕)。
 縫合不全のうち、minor leakageであれば絶食、中心静脈栄養、抗生剤投与、適切なドレナージにより2ないし3週間で治癒するとされる(乙B5〔119〕)。

  (3) 尿路感染症について
 尿路感染症とは、宿主に常在している細菌が主として上行性に感染する内因性感染である。術後の尿路感染症には、腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎、副睾丸炎などがある。腎盂腎炎の症状としては、発熱、腰痛(腎部痛)、悪寒戦慄などがある(乙B3〔938、939〕)。

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