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くも膜下出血、髄膜炎

以下の判例から
平成18年 7月28日 大阪地裁 判決 <平16(ワ)7198号>
一部認容
要旨
くも膜下出血及び髄膜炎のいずれもが疑われる症例において、さらなる鑑別診断を進めることを怠り、くも膜下出血を見落とした過失が認められた事例
出典 裁判所サイト、ウエストロー・ジャパン


第4 基礎となる医学的知見

 1 くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,SAH)(甲B1ないし3,乙B2,7ないし9,弁論の全趣旨)
 くも膜下出血とは,脳血管病変が破綻し,くも膜下腔に出血を来し,脳脊髄液に血液の混入した病態をいう。
 脳血管障害の約10%で見られ,年齢は一般に50〜60歳代にピークがあり,若年層の発症は稀であるとされている。また,性別では女性が男性の約2倍と多い。
 最も代表的な原因疾患は脳動脈瘤の破裂である。重症頭部外傷,脳動静脈奇形の破裂や高血圧性脳内出血などの血管障害,また数は少ないが脳腫瘍,感染症,血液疾患など多くの疾患で発生を見る。原因の確定できない例も10〜20%ある。
 多くは前駆症状がなく,突然の激しい頭痛,嘔吐,意識障害などで発症し,発症後しばらくすると項部硬直など髄膜刺激症状を示す場合が多い。多くはCTで確定診断が可能であるが,軽微な出血や発症から時間が経過したような場合ではCTに異常が認められないか診断が難しくなることがあり,髄液検査での黄色調(キサントクロミー)が診断の重要な手掛かりとなる。脳血管撮影により動脈瘤が確認された場合は,早期の根治手術(クリッピング術)が治療の原則となる。初回出血及び合併病態の程度と続発する再出血や脳血管攣縮が予後を左右する。遺伝的因子(家族内発生),喫煙,高血圧などが危険因子としてあげられている。
 一般に破裂脳動脈瘤の再出血の確率は高いとされており,出血症例の4.1%が24時間以内に再出血し,その後2週間は1日1.5%の再出血率であり,2週間から6か月間の再出血率は10%,それ以降は年間3%とする報告もある。
 くも膜下出血全体の予後は,おおむね社会復帰できるものが3分の1,後遺症のため家庭内生活若しくは病院生活となるものが3分の1,死亡するものが3分の1である。

 2 髄膜炎(甲B1,2,乙B4,13,弁論の全趣旨)
 髄膜炎とは,細菌,ウイルス,真菌その他の病原体による感染,化学的刺激,悪性腫瘍の浸潤によって生じた髄膜(くも膜と軟膜)の炎症をいう。
 代表的なものが細菌感染による化膿性(細菌性)髄膜炎とウイルス感染による無菌性(ウイルス性)髄膜炎である。
 化膿性髄膜炎は,菌血症を起こした細菌が脈絡叢内で毛細血管炎を起こし,髄液内に進入して急速に増殖し感染が広がるものをいう。自己融触によって放出された菌体成分は,血液髄液関門,脳室上衣細胞,脳細胞を直接障害する。また,神経膠細胞は菌体成分に反応してインターロイキン1βやTNF−αなどの化学物質を産生する。これらの物質は治癒機転に働くばかりでなく,炎症反応を誘発して病変を悪化させる(非感染性脳症)。抗生剤療法の進歩にもかかわらず,予後の改善が限界に達しているのは以上の反応による。
 無菌性髄膜炎は,血行性経路,神経軸索を介する経路がある。髄腔内でウイルスは増殖,髄液の流れで移動し,広い範囲で髄膜細胞及び脳室上衣細胞に接触,感染する機会がある。脳炎に発展しない限り予後は良好である。
 髄膜炎の症状としては,頭痛,発熱,嘔吐,意識障害や項部硬直,ケルニッヒ徴候などの髄膜刺激症状が見られる。
 化膿性(細菌性)髄膜炎の血液所見では,白血球の増多,赤血球沈降速度亢進,CRP陽性などが認められる。髄液所見は,髄膜炎の種類により異なる。
 CTでは髄膜炎そのものの診断はできないが,合併する脳浮腫,水頭症,脳炎などを診断するのに有用である。
 3 項部硬直(弁論の全趣旨)
 髄膜刺激徴候の一種であり,仰臥位の患者の頭部を被的動的に持ち上げたときに見られる,項筋群の異常緊張,収縮を触診,また患者は苦悩状表現を呈するものをいう。各種の髄膜炎,髄膜腫瘍,くも膜下出血で観察される。
 4 髄液検査(乙B3,13,弁論の全趣旨)
 中枢神経系疾患の診断に用いる検査であり,腰椎穿刺法,後頭下穿刺法,頸椎側方穿刺法,脳室穿刺法などの方法で脳脊髄液(髄液)を採取して検査するというものである。
 通常穿刺直後に脳脊髄液圧を測定してから脳脊髄液を採取,外観の観察,細胞数と細胞分類,糖,蛋白その他の化学成分の定量,蛋白電気泳動,各種微生物の塗抹染色,培養又は抗原,抗体検索,細胞診などを行う。
 画像診断が進歩し,検査の機会は少なくなったが,細菌性及び真菌性髄膜炎での感度,特異度は共に高く,ウイルス性髄膜炎,くも膜下出血,多発性硬化症では感度,髄膜の悪性腫瘍では特異度が高い。
 髄液は,細胞成分が混入していると混濁し,血液が混入すると血性となる。
 なお,腰椎穿刺の際に,静脈叢を誤って穿刺することがあり,これをトラウマティックタップという。
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