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肺塞栓症

以下の判例から
平成18年 7月13日 福岡高裁 判決 <平16(ネ)1017号>
変更、取消(請求認容) 
要旨
市立病院から赤十字病院に移送された患者が肺塞栓症により死亡した場合、肺塞栓症を心疾患と誤診した両病院の医師に過失があったとして、両病院の共同不法行為責任が認められた事例
肺塞栓症で死亡した患者につき、当初治療した医師と同患者を引継いで治療した医師の双方ともに過失があり、しかも、前医の過失が後医の過失の原因ないし誘因となっている場合に、後医の過失と患者の死亡との間に相当因果関係が認められるからといって、前医の過失と上記死亡との間の相当因果関係が切断されることにはならない。
肺塞栓症患者の死亡事故につき、医師に過失があるとしても、患者側の素因など判示の事情を総合すると、過失相殺の法理を類推して賠償額の四割を控除するのが妥当である。
裁判経過
 第一審 平成16年10月21日 熊本地裁 判決 平13(ワ)785号
出典 判タ 1227号303頁、ウエストロー・ジャパン
評釈 宇田憲司=三谷仁美・年報医事法学 23号162頁、中村哲也・リマークス 36号63頁

  (3) 肺塞栓症に関する平成12年6月当時の医学的知見は次のようなものであったことが認められる(甲4〜6)。
 ア 肺塞栓症発症の原因及び誘因について
 本症の原因となる塞栓子の大部分は,下肢深部静脈や骨盤腔静脈に形成された血栓が剥離・遊離したものであるが,本症の発症には,年齢,肥満,基礎疾患が関係する。また,長時間の同一体位からの変換時(術後,血管造影後の安静解除時,長時間の飛行後など)に発症することが多い。
 イ 肺塞栓症の症状について
 突然の呼吸困難が最も高率であり,胸痛,不安,咳喀血,目眩,失神等が見られ,重症例ではショック状態となる。他覚的には,頻脈,頻呼吸,頸動脈怒張,第U肺動脈音の亢進,不整脈,チアノーゼなどが見られる。
 ウ 肺塞栓症の鑑別について
 上記イの症状は,他の疾患でも見られるものであって,これらの症状のみから肺塞栓症を鑑別するのは困難である。鑑別すべき他の疾患には,急性心筋こうそく,解離性大動脈瘤,うっ血性心不全など,心肺に障害を来すほとんどの疾患が含まれており,かねて心肺疾患を有する患者においては肺塞栓症の診断は特に困難である。このため,突然の呼吸困難,胸痛,ショックなどが見られ,その原因が不明の場合,本症を疑うことが重要である。
 最も確実に肺塞栓症を鑑別することができる検査方法としては,肺動脈造影又は肺換気・肺血流スキャンが挙げられている。
 また,肺塞栓症によって心電図上いかなる特異な変化が顕れるかという点についてはいくつかの見解があるが,少なくとも,右軸偏位,右側前胸部誘導(V1〜3)のT波逆転を認めるという点は共通して指摘されているところである。
 心エコー検査では,右房・右室の拡大,心室中隔の左室側への偏位などといった右心系への負荷所見が見られることが鑑別に極めて有効な所見であるが,肺動脈主幹部の血栓が描出できることもあるし,同検査が非侵襲性検査方法であることから,肺塞栓症を疑ったら直ちに心エコー検査を行うことがポイントの一つとされる。
 胸部X線写真上は,肺動脈主幹部あるいは左右主肺動脈の拡大,閉塞した肺動脈末梢血管影の減少,肺野の浸潤影,右心系の拡大等の所見が認められることもあるが,必ず伴うものではないから,胸部X線写真において上記所見が認められなかったからといって肺塞栓症を否定し去ることはできない。

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