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乳がん

以下の判例から
平成18年 5月24日 東京地裁 判決 <平16(ワ)1572号>
請求棄却
要旨
乳癌の発見の遅れによる死亡につき、被告医師に乳房X線検査(マンモグラフィ)の実施義務、説明義務ないし指示義務違反はないとされた事例
出典 裁判所サイト、ウエストロー・ジャパン
評釈 升田純・Lexis判例速報 12号71頁


 2 医学的知見
 証拠等によれば、次の医学的知見が認められる。

  (1) 乳がんの進行度(甲B1〔10、11〕、B2〔35、36〕、乙B2〔20〕)
 乳がんは乳腺組織に発生するがんであるが、その進行度は、原発巣(T)、所属リンパ節(N)、遠隔転移(M)の3要素により分類されており、その相関によりステージ(stage)I、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVに分類される。
 上記分類のうち、T2は原発巣の大きさが2.0cmより大きく5.0cm以下のものをいい、N1は原発巣が存在する乳房と同じ側の腋窩のリンパ節に可動性のある転移が存在する場合をいい、M0は遠隔転移が認められない場合をいう。T2N1M0は、病期IIBに当たる。

  (2) 乳がんの悪性度(甲B1〔17〕)
 乳がんの悪性度とは、臨床的に転移、再発のしやすさを指し、国立がんセンター病院では、悪性度をグレード1ないし3の3段階に分類しており、数が大きいほど悪性度が大きい。

  (3) 乳がんの自覚症状と痛みについて
   ア 乳がんの診断に至る自覚症状としては、乳房腫瘤(74パーセント(以下単に「%」と表記する。))、疼痛(6%)、異常乳頭分泌物(4%)、浮腫、発赤、陥凹などがある(甲B2〔33〕)。
   イ これらのうち、疼痛(痛み)については、痛みの原因が乳がんでないことを除外診断することが重要であり、乳房の痛みを主訴として乳がんが発見されることは全体の1割にも満たないが、侮ることはできないという指摘がある(甲B20〔6〕)。しかし、乳房の痛みを訴える女性は乳がんに罹患しているか否かにかかわりなく相当数に上るところ、上記指摘においても、乳がんに罹患している女性がそうでない女性よりも乳房の痛みを訴える割合が高いか否かについては何ら言及しておらず、被告Y1は自己の経験に基づき両者に有意な差異はないと述べており(被告Y1〔13、48〕)、これに反する証拠はない。
 他方、乳房腫瘤については、乳がんの徴候として関係を有するが、乳房の痛みは乳がんの徴候として関係を有するとは認められないとした研究結果がある(乙B9)。

  (4) 乳がんの診断方法(甲B3、B18〔46ないし50〕、B24、B29、乙B2)
 乳がんの診断をするには、次のことを行う。
   ア 診察(問診、視診・触診)
   (ア) 問診
 自己検診を行っているか否か、異常と思った時期、しこりに気づいてからの時間経過・変化、乳腺の病気の既往があるか否か、血縁者における乳がん患者の有無等を尋ねる。
   (イ) 視診
 立位ないし座位で患者と向かい合い、患者の上肢を下げ、挙上させるなどして乳房や乳頭の変化(対称性、変形、乳頭・乳房皮膚の変化(甲B3、乙B2〔8〕))を観察する。
 皮膚の陥凹の有無、乳房の膨隆や浮腫、発赤潰瘍、乳頭陥没の有無をみる。
   (ウ) 触診
 なるべく幅の広いベッドを使用し、背中に6ないし7cmの厚さの枕を入れて仰臥位に寝せ、上肢を肘で支えて頭上に挙上させ、乳房を伸展させた位置で行う。
 しこりの有無、大きさ、位置、堅さ、表面の状態、境目、可動性の有無、分泌物の有無等を調べる。その際、乳房のみならず脇の下(リンパ節)のしこりの有無も調べる。
 触診の確診率は一般的には必ずしも高くなく、診断医の能力によっても大きく異なる(甲B3〔9、10〕)。また、触診においては、大きさが1cmに満たない腫瘤を触知できない(甲B39〔63〕)。
   イ 画像診断
 乳房X線検査(マンモグラフィ)、超音波検査、サーモグラフィ等がある(ただし、サーモグラフィについては、乳管内視鏡、MRI、CTなどとともに、まだ補助的な診断方法であって単独で診断に用いられることはほとんどないとの指摘がある(乙B2〔19〕)。)。
 超音波検査や乳房X線検査(マンモグラフィ)においては、大きさ1cm以下の腫瘤についても発見することが可能な場合もある(甲B18〔58〕、B39〔63〕)。
   ウ 細胞・組織診断(穿刺吸引細胞診、生検)
   エ 全身検索
(続く)
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