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乳がん検診

以下の判例から
前掲
平成18年 5月24日 東京地裁 判決 <平16(ワ)1572号>


(続き)
  (5) 乳がん検診の目的、方法等
   ア 目的
 乳がん検診は、疫学的にはがんの二次予防、すなわち、がんになった者をできるだけ早く発見して、死を回避することで、集団としての乳がん死亡率を減少させることを目的としている(甲B21〔48〕、B23〔146〕、B43〔941〕)。
   イ 方法
 厚生省(当時)は、平成12年3月31日、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(平成10年3月31日付け老健第64号)を改正し(老健第65号)、同年4月1日から実施したところ、乳がん検診の実施内容のうち、対象者と検診感覚並びに指針及び触診の留意点については、次のとおり定められている(丙B4〔5、6〕)。
   〈1〉 対象者と検診間隔
 ● 50歳未満の対象者 … 原則として同一人につき年1回検診(問診及び視触診によるもの)を実施する。
 ● 50歳以上の対象者 … 原則として同一人につき2年に1回(問診、視触診及び乳房X線検査(マンモグラフィ)によるもの)を実施する(地域の実施体制等を勘案して乳房X線検査(マンモグラフィ)を実施しない場合は、50歳未満の対象者と同一)
   〈2〉 視診の留意点
 乳房の大きさ及び形、乳房皮膚の陥凹、膨隆、浮腫及び発赤、乳頭陥凹並びに乳頭びらんの有無について観察する。
   〈3〉 触診の留意点
 指腹法、指先交互法等により、両手で乳房の内側から外側(又は外側から内側)に、かつ、頭側から尾側に向かって、乳房を軽く胸壁に向かって圧迫するように行う。
 ● 乳房の触診
 腫瘤、結節及び硬結の有無、性状等を診察する。
 ● リンパ節の触診
 脇窩リンパ節及び鎖骨上窩リンパ節の腫脹の有無、性状等を診察する。
 ● 乳頭の触診
 乳頭からの異常な分泌物の有無、性状等を診察する。
   ウ 評価
 集団検診は、それぞれの段階のスクリーニング精度や、検診システム全体としての精度管理が確立されている必要があり、そのうち、スクリーニング精度については、スクリーニングの感度(検診した集団のうちがんがある人について陽性であると判定できた割合、ないし、病気である人を病気であると判断できる確率)、特異度(がんでない健康な人について陰性であると判定できた割合、ないし、健康な人を健康であると判定できる確率)などによって評価される(甲B21〔50〕、B23〔150〕、被告Y1〔17〕)。
 スクリーニングテストとしては、感度も特異度も高い値が得られることが望ましい。感度が高ければ乳がんを見逃す頻度は低くなり、特異度が高ければ2次スクリーニングを省略し得ることとなる(甲B23〔150、151〕。なお、被告Y1も同趣旨を述べる(被告Y1〔17〕)。)
  (6) 乳がんの検診に関する検討等
   ア 財団法人日本公衆衛生協会は、平成13年3月発表の「新たながん検診手法の有効性の評価」と題する報告書において、乳がんについて、視触診による乳がん検診の有効性には限界があり、乳房X線検査(マンモグラフィ)の49歳以下に対する有効性の確認についてはまだ十分ではないが、40ないし49歳の乳がん罹患率が最も高いことや、乳房X線検査(マンモグラフィ)併用検診が導入された場合、もっとも費用効果比に優れていることから、40歳代に対しても視触診との併用による乳房X線検査(マンモグラフィ)導入を検討すべきであるとしている(甲B4)。
   イ 我が国においては、乳房X線検査(マンモグラフィ)を使った集団検診について、有効であるという報告と無効であるという報告とがあり、いずれの報告にも弱点があるため、賛否両論であったとの指摘がある(甲B1〔24〕)。
   ウ 文京区は、平成16年度の乳がん検診から、全員に対して乳房X線検査(マンモグラフィ)を実施するよう、検診内容を変更した(甲B14)。
  (7) 腫瘍容積の倍増時間(ダブリングタイム)について(乙B1〔560〕、弁論の全趣旨)
 ダブリングタイムとは、がん腫瘤が倍増する時間のことをいい、がん細胞世代時間、がん細胞数倍増時間及びがん腫瘤容積倍増時間があるが、単にダブリングタイムというときは、最後者を指す。
 ダブリングタイムは、経時的な腫瘍容積の変化はほとんどが指数曲線を呈することを前提とし、臨床的に得られたがん腫瘤の大きさをもとにして、次の計算式により算出される(計算式のうち、tは腫瘤の径がd1からd2に発育するのに要した時間をいう。d1・d2はいずれも特定時点における腫瘤の径の長さ(腫瘤の長径と短径の和の2分の1)である。)。
 〔計算式〕t/10(logd2-logd1)
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